(うぅ…お姉ちゃん帰ってきたら、ちゃんと説明しないと…) 頭を悩ませつつ、智恵はそそくさと服の乱れを直す。 噂好きの姉のことだ。 早めに誤解を解かなければ、近所中にあることないことを言いふらされてしまう。 しかし、そんなことを悠長に考え続ける暇はなかった。 「ひゃわっ!」 脳が認識するより早く、智恵の口から甲高い悲鳴があがる。 さつきがいつの間にか背後に回りこみ、抱きつくような形で両の脇腹を鷲づかみにしたのだ。 同じ誤解を受けてはいても、彼女にとって江利子は友達の姉であり、毎日のように顔を合わせるような相手ではない。 よって智恵ほど取り乱すことは無く、一足先に動揺から立ち直っていたのだ。 「注意一秒怪我一生。覚悟はいいかな?」 「うっ……」 智恵の頬に冷や汗が流れる。 さつきの右手は自分の左の脇腹を、左手は右の脇腹をがっちりととらえている。 ゆっくり肩越しに振り向くと、そこには邪悪な笑みを浮かべたさつきの顔があった。 『反撃されると困るから、今度こそ動けなくなるまでくすぐり尽くしてあげる』 視線が合うと、思考がやたらと明確に伝わってきた。 「さつき……えっと、とりあえずさ、話し合お――」 「問答無用ーっ!」 「駄目っ!お願い、ストッ……ぷぁあっはっはっははははは!」 制止の言葉を遮り、さつきは一気に手加減無しでくすぐり始める。 「うひゃはははっ!っ……ダメっ、死んじゃぁ…ひんじゃうううっ!!」 「ほらほら、くすぐったい?くすぐったいんだ!?」 智恵にとって、あぐらをかいて座っていたのも失敗であった。 この座り方では踏ん張りがきかず、必死の抵抗もベッドのスプリングに吸収されてしまう。 手足は狂ったようにのたうち回るが、背後にいるさつきにはほとんど影響がない。 ギシギシとベッドが軋む音は、いくら暴れても無駄だと彼女を嘲笑っているかのようだった。 「好きなだけ暴れていいよー。その分疲れるだけだからね」 指が食い込むたびに反射的に力が入り、智恵の体は打ち上げられた魚のようにビクビクと跳ねまわる。 そんな無意識下の抵抗を見せる肉体を屈服させるかのように、10本の指は筋肉を徹底的に揉みほぐす。 こちょこちょこちょ…… ぐにぐにぐにぐに…… コリコリコリコリ…… 「んぁっ!…ひ……はっ…あぁあああ〜っ!!」 智恵がいくら左右に身をよじろうとも、さつきの両腕はベルトのようにしっかりと巻きついて離れなかった。 指先は掠めるように弱点のお腹を這い回り、柔らかな脇腹に容赦なく食い込み、肋骨をつまんでは小刻みに震わせる。 成す術もなく、疲労の蓄積した体は無理矢理に脱力させられていった。