「べ、別にぃっ…?」 「嘘つき〜。ならもう一回っと」 さつきはにやにやと笑みを浮かべ、ようやく見つけたウィークポイントを中心にして智恵を攻めたてる。 「くぁ……きゃははっ!…やっ、だめっ……だめえぇえっっ!!」 一度はっきりとくすぐったさを認識してしまった智恵の体は、既にその耐性を殆ど失っていた。 先程まではそう反応しなかった横腹のあたりへの刺激にすら、甲高い笑い声をあげてしまう。 「なんだ、ともちゃんだってくすぐり効くんじゃん。ほら、こちょこちょこちょこちょ〜」 「きゃはははっ!!ぁはっ、やめ……ゃ、あはははぁっ!」 さつきの高い「こちょこちょ」の声は頭に響き、心の奥底にまで「くすぐられている」という事実を教え込む。 今までに経験のなかった大笑いに腹筋が引きつるが、調子に乗ったさつきは止まらない。 「ここくすぐったい?こっちの方が効く?」 「うひゃははは……はひっ…ぅひーひっひっひっひっ!」 もはや、楽しそうに問いかけるさつきに返事をする余裕もなく笑い悶える智恵。 彼女の下半身はどたばたと激しく暴れるが、上半身はしっかりと固定されていて動かない。 意地の悪いくすぐりに笑い続けるしかなく、何もできないまま体力が奪われていく。 このままでは、お返しどころかさつきが満足するまで延々とくすぐり続けられてしまう。 「ひっ、ひうっ!!ほんと、だめっ、だからあぁっ!!きゃははははははっ!!」 「逃がさないからね。くすぐり返されるのヤだし、動けなくなるまでくすぐっ――」 ガチャッ。 「「ひっ!!??」」 突然の物音に、二人はビクッと身を竦ませる。 さつきは慌てて智恵の体から離れ、智恵もばっと身を起こす。 別に悪いことをしていた訳ではないが、やはり第三者に見られたいものではない。 恐る恐る音のした方を見やると、半分開いたドアから制服姿の少女が顔をのぞかせていた。 「ただいま。何度もピンポン鳴らしたんだけどなー…なんか取り込み中だった?」 はっと我に返る二人。 「ぅ…ううん!?お、おかえりなさい!」 「こんにちは江利子さんおじゃましてますっ!」 どうやら、二人が気付かない内に江利子――智恵の姉である――が学校から帰ってきていたらしい。 「でさ。あたし友達のとこ行ってくるから、留守番よろしくね」 「あ……うん」 「夕飯までには帰ってくるから。それじゃ、さつきちゃんもまたねー」 「…はい」 「ついでに言うと、江利子お姉様は同性愛にはわりと寛容です。ごゆっくり」 「「な゛っ!?」」 硬直した二人を放置して、江利子はバタンとドアを閉めた。 「ち、違っ…」 言い訳しようにも、既に相手は部屋に居ない。 足音もすぐに遠くなってしまい、立ち上がりかけた智恵も諦めるしかなかった。 しかも、冷静になって状況を確認してみれば…… 智恵のキャミソールの肩紐は片側が外れており、さつきのワンピースも妙に皺がよっている。 クーラーが効いているはずなのに火照った体と顔もかなり不自然だ。 そのうえドアが開いた瞬間にはさつきが智恵に乗ってくすぐっていたというのだから、そんな誤解をされても無理はなかった。