「まてー!」
「あははははっ!」
「班長、トイレいきたい〜」
昼の清掃時間。とある小学校の一室はかなりの騒々しさであった。
(何で私がこんな目に…)
その中に一人だけ、げんなりとした表情をした少女がいた。
大森玲奈−五年生である。
彼女の他には二年生の女子がが四人。
この教室は二年生の教室と同じ三階にあり、入り口には「資料室」というプレートがかかっている。
しかしほとんど空き教室といってもよく、僅かに椅子や机が並んでいる程度だった。
よって、どうせ散らかりようがないという理由で、たった四人の二年生と
班長の五年生によって掃除されることになっている。
だが四人もの二年生を五年生一人が制御するのは、ほぼ不可能といっていい。
「もう…そこ、遊ばないの!そっちももっと真面目に!」
「班長怒ったー!」
「逃げろー」
「また怒ったー」
そう…「また」なのである。
玲奈はここの班長になってから、毎日のこの清掃時間が憂鬱だった。
何とか皆を纏めようとするのだが、そんな彼女も四人にとっては遊び相手でしかない。
むしろ真面目な玲奈が中々相手をしてくれないので、余計に騒ぎ立てるようになってしまった。
一週間目の今日も、結局はいつも通りに玲奈一人で掃除をする羽目になった。
「本当、疲れる場所選んじゃったなぁ…」
しかし、不満を感じていたのは玲奈だけではない。
二年生の四人にしてみれば、もっとたくさん構ってもらわないとつまらない。
玲奈は最初こそ大声で注意していたものの、次第に黙々と一人で作業するようになってしまった。
そこで四人は休み時間などを使い、玲奈に内緒でとある計画を立てたのだった。
そして次の土曜日。
土曜日は午後の授業がないので、掃除をしたらそのまま帰宅することになる。
二年生の四人は授業が終わると、すぐに資料室へと集合した。
五年生の教室はここからだいぶ離れているので、玲奈はまだ来ていない。
「班長、早くこないかなぁ」
「楽しみ〜。けど、いいのかなぁ?」
「いーのいーの。遊んでくれないのが悪いんだもん」
「いっつも怒ってるもんね」
少女たちはそんな話をしながら、計画の準備を進める。
そして数分して何も知らずに教室に入ってきた玲奈がランドセルをおろすと、一斉に行動を開始した。
二人は前後のドアに鍵をかけ、覗き窓に板を立てかける。
残りの二人は窓とカーテンを閉め、うす暗くなった教室の明かりを点ける。
「え…何なの?」
玲奈は全く状況が理解できず、教室の真ん中付近で立ち尽くす。
もともと数少ない机と椅子は隅においやられ、床を見れば一部に運動用のマットが敷いてある。
玲奈を囲んだ四人は、これからすることが楽しみでたまらないといった表情で彼女に近づいていく。
「ちょっと…何のつもりなの!?」
「えへへ。いっつも遊んでくれないから。今から、班長で遊ぶの」
「はぁ!?」
遊ぶというのは分かるが、「班長で」というのはどういう意味だろうか。
「班長と」ではないのか。言いようのない不安で、玲奈の体に緊張が走る。
「それー、やっつけろー!」
「「「おー!」」」
四人はかけ声とともに玲奈へと殺到した。
「きゃあっ!」
玲奈は突然のことに軽いパニックに陥り、悲鳴をあげる。
四人はそれぞれ彼女の体に飛びつき、足や腰にしがみつく。
「倒しちゃえー」
「そっちの足も引っ張って!」
「班長重いよぉ…」
呆気にとられている内にズルズルと開脚させられていったが、「重い」という一言には敏感に反応した。
「失礼でしょ。私、全っ然重くないんだから!」
彼女が手足をバタつかせると、四人はあっさりと弾きとばされた。
よく分からないが、自分をマットに倒そうとしているらしい。玲奈にもようやく状況が飲み込めてきた。
「全く…何考えてるんだか知らないけど。今日はもう掃除いいから、解散!」
玲奈はそう言って足早にランドセルの方に向かったが、その行く先に二人の少女が立ちふさがった。
「逃げちゃダメだよ、班長」
「ダメって…」
玲奈は呆れてため息をついたが、次の瞬間、すぐ背後に気配を感じた。


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