とある一軒屋の二階。その一室に三人の少女が入ってきた。 「散らかってるけど、あんまり気にしないでね」 一人目に入ってきたのは、榎本千佳。この部屋の所有者だ。 「あらためて、おじゃましまーす」「わぁ…ひろーい!」 続いて入ってきた二人、春日井由美と高木麻美は千佳のクラスメイトである。 三人は小学校に入学してから現在(4年生)まで同じクラスで、とても仲がいい。 千佳は肩で髪を揃えおり、キャミソールにスパッツ姿。 由美の髪は腰までのロングへアーで、Tシャツにチェックのスカート。 麻美は髪をツインテールにしていて、服はリボンの目立つワンピース。 服装からも分かるように、三人ともタイプがはっきりと違う。 しかし、だからこそ相性が良かったのかもしれない。 「ここが新しい千佳の部屋?」 「うん。前より広くなって嬉しいよ」 千佳は由美の質問に笑顔で答えた。千佳の家はリフォームをしたばかり。 それを聞いて、由美と麻美が遊びにきたのである。 「じゃ、飲物入れてくるね」 千佳は二人を部屋に残し、台所に向かった。 「やっぱり千佳の部屋、綺麗だね」 本人は散らかっていると言ったが、二人の目には充分に整理整頓されているように見える。 「千佳ちゃん、しっかりしてるもんねー…ん?」 部屋をうろちょろと動き回っていた麻美は、千佳の勉強机の上に置かれた写真立てに目を付けた。 「見て見て由美ちゃん。運動会の写真だよ」 写真立てには今年の運動会の時の集合写真が飾られている。 「ホントだ。あ…麻美、また亮太君の事ばっか見てない?」 体操服姿の麻美の視線はカメラではなく、一人の男子へと向けられていた。 「えへへー。麻美、亮太君の事大好きなんだもん」 麻美は恥ずかしげもなく言ってのける。 「で、由美ちゃんは好きな人いないの?」 麻美の切り返しに、由美はぐ、と返答につまった。 「やっぱりいるんだ〜。誰?」 「い、いないってばっ!私、塾とかバレエとかで忙しいんだから…」 由美は赤くなった顔をぷい、そむけるが、麻美は下から見上げるように覗き込んでくる。 「由美ちゃんキレイなんだから、絶対両思いになれるよ。誰なの〜?」 小柄な麻美が背の高めな由美にじゃれていると、学年が一つ二つ違うようにも見える。 「だから、い・な・い・の!」 由美はそう言って、今度は体ごと麻美の反対方向を向いた。 「あ。そういえば…千佳、遅くない?」 「そんな事言ってもごまかされないよー」 麻美は由美の背中にぴょん、とくっついてくる。 「ね。由美ちゃんは麻美の好きな人知ってるんだから、そっちも教えてくれないと不公平だよ」 麻美が自ら好きな人を公言しているだけなので、理屈にすらなっていない。 しかしそこは小学生、何となく追い詰められたような気分になってしまう。 「やーだ。私はやっぱり、教えたくないから…」 「ほら、やっぱりいるんだー」 「え…あっ!」 動揺していた由美はぽろっと「教えたくない」と漏らしてしまった。 「誰かなー…亮太君じゃないよね?木村君?松本君?」 「言わないって」「教えてよー」「だーめ」 頑として態度を崩すことのない由美に、麻美は強行策に出る事にした。