気がつくと、昨日のあの窓から光が覗いていた。

(今、何時だろう。)

チュンチュンとおまけのように鳥のさえずりが聞こえる。

横目で時計を見ると、短針が12時と1時の間でうろうろしている。

(もう、そんな時間か。)

なんだか、すごくダルいので、しばらく座り込んだまま居ることにした。

母親が家に帰ってきた形跡は無かった。




昨日のことは、幻だと思いたい。

思うだけなら、幻なんかにならないけど。

望むだけなら、幻なんかにならないけど。


玄関の正面にある鏡に映る、霞んだ自分の姿。

酷く、みっともない格好に見える。


「…馬鹿みてぇ。」


座り込んだまま呟くその姿。

鏡の向こうの偽者の自分が、本当の自分を馬鹿にしてるみたいだ。

意味もなく笑いがこみ上げてくる。

「ククク…。」


なんだか本当に、どうでもよくなった。




そしてあと少しだけ、馬鹿でいようと、思った。




鏡の前まで、ゆっくりと歩いていくと、その前にゴロリと寝転がる。


涙の道筋が残った顔が、近くに見える。

そっと手を伸ばせば、手を伸ばしてくれる。

腫れ上がった目は、まるで別人みたいだ。

「ははは。」

…馬鹿みてぇ。


もう一度瞼が重くなるのに、そう時間はかからなかった。

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