「なぁ、何がしたいんだよ。」

僕は出来る限り静かに、冷静に言葉を並べた。

それでも、口から出た言葉は少し震えている。

「…馴れ合いたいのか?」


…とうとう柚花の眼から大粒の涙がこぼれた。

コンクリートの橋に、ポツポツと染みが広がっていく。




その涙が、あまりにも綺麗だったから。

その涙が、僕には相応しくなかったから。


そのまま柚花を突き飛ばすと、歩いてきた方向とは反対方向に走った。

後ろから、ドサッという柚花が尻餅をつく音が聞こえた。

それにかまわず、僕は走った。

途中でラーメンを踏み潰したけど、それにもかまわず、僕は走り続けた。




逃げ出した。

街の明るいネオンから。

逃げ出した。

あの綺麗な柚花の涙から。

逃げ出した。

あの場所から。


僕の居場所なんて、どこにも無かった。




それからどこをどう行って家に帰ったのかは覚えていない。


重く冷たいドアを閉め終わると、そのまま玄関に座り込んでしまった。

足に力が入らない。

涙腺が、これまでに無いほど緩んでいた。


泣いた。

みっともないぐらいに、泣いた。

ドス黒い、下水道のような涙がたくさん出た。


「何で。」


と、繰り返した。

何が、”何で”なのかは、僕には分からなかった。

でも何か言葉を繰り返さないと、立ち直れない気がした。


「畜生。」

とも、言った。


どうして僕は、こんなにちっぽけなんだろう。

どうして僕は、こんなに醜いんだろう。

どうして僕は、こんなにみっともないんだろう。


どうして僕は―…

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