四
走った。走った。
暗闇から逃れるために、走った。
まばゆく光る街の明かりの隙間の暗い部分を、避けながら走った。
世界が止まって見えるぐらい速い。
凄く、悔しかった。
家が燃えてしまっても、良いとか。
死んでしまっても、良いとか。
闇に包まれてしまうのが、怖いとか。
今握っている1万円札とか。
走っている事とか。
全部、悔しい。
冷たい空気を肺に吸い込んだ。
吸い込んだ息が、暖かい二酸化炭素になって僕の口から出て行く。
何度か繰り返していると、気が楽になった。
1万円札をポケットに入れると、ベルトが締まっていないことにやっと気づいた。
ベルトを締め終わると、今度は靴のかかとを踏みつけているのに気づいた。
靴をちゃんと履きなおすと、今度は自分の着ている服が薄いことに気づいた。
「寒い。」
と、今更思った。
僕が風邪引いても、心配してくれる人は居ないので、そのまま歩くことにした。
街のネオンが、僕を照らしていた。
近くにあったコンビニに入ると、予想以上にお腹が減っている気がして、カップラーメンを5,6個カゴに入れた。
お金をたくさん使いたい気分だったけれど、他にほしいものが無かったので、僕はそのままレジに向った。
「いらっしゃいませ。」
コンビニは、嫌いだ。音が溢れてるから。
溢れる音。
カップラーメンがレジを通る、音。
まわりの客のにぎやかな、音。
カップラーメンを袋に入れる、音。
…吐き気がする。
ポケットの中の1万円札を店員に差し出した。
レジを開いているうちに、僕はカップラーメンの袋を掴むと、そのまま走った。
お金なんか…要らない。
振り返ると、店員がキョトンとした顔をしていた。けれど僕はかまわず走り続けた。
あの店員は、今日はたくさん儲けたな、なんて思ってるに違いない。
(世の中は所詮、こんなもんだ。)
と、そう感じずには居られなかった。