午後になり、ホームルームも終わって、みんな、それぞれの時間を過ごすべく教室を出て行く。
圭介は真っ先に教室を出て、人が最も来ないだろう、「管理・学習交流棟」の3F女子トイレまで来ていた。
健司は水泳部へ。
由香はテニス部へ行っているはずだ。
部活が終わってから健司とCDを買いに行く約束をしていたから、帰る時間までにこの“嵐”を鎮めておく必要があった。
周囲を見回し、誰もいないことを確かめる。
中に入り、ウォシュレット付きの洋式便器のある個室に入った。
由香がくれた少し大きめの巾着袋から母のポーチを出し、浄水層の上に置く。
スカートをたくし上げるのももどかしく、両手で下着の横に親指をかけて一気に引き下ろしながら、そのまま便座に座った。
“ぷりゅっ”と音がする。
カッと顔に血が上り、ほっぺたが腫れぼったくなる。
膣内に入った空気が、ぬるぬるとした薄肉を震わせて立てた、湿った粘液質の音だ。
『濡れてる…』
昼休み。
健司に手を引かれて、昇降口まで走った。
それから、午後の授業はずっと頭に入らなかった。
もともと星人の因子が発現して理解力が飛躍的に跳ね上がり、黒板に書いてある部分だけで容易く先生の問いにも答える事が出来たから、
“ぼ〜〜〜…”っとしていた事が教師やみんなに気付かれる事は無かった。
困ったのは、気がついたら左斜め前の健司の背中を見ている自分に、気付いてしまった時だ。
ゴツゴツした手、だった。
力強い手、だった。
あったかくて、頼もしくて、そして優しい手、だった。
女の体というのは、こういうものなんだろうか?
男の体に触れると、こんな風に自分ではどうにも出来なくなってしまうんだろうか?
…たとえそれが、親友の体であっても。
『なんなんだよちくしょう…』
圭介はトイレの中で頭を抱えて小さくうめいた。
涙が出そうだった。
親友の体に反応して濡れてしまう、情けない自分の体が厭(いと)わしかった。
『やっぱり…』
下着の股間に当たる部分に敷いた、おりものシートを見た。
べっとりと濡れて、少し黄味がかった白っぽいヨーグルト状のものがこびりついていた。
生理は、まだ無い。
そんなものあってたまるものかと、圭介は思っている。
けれど、いつかくるのだろうと、心の奥の奥の深いところで、諦めとも達観とも違うもので認めてしまっている自分もいた。
おりものシートは、由香に言われて使うようになったものだ。
下着が汚れてしまわないように、何度も下着を替えなくて済むように、由香が買ってきてくれたものだ。
気になって、由香からそれを受け取った夜にネットで色々と調べてみた。
下着の内側につく、ねとねとした白っぽいもの、透明なもの、ちょっと黄味がかったもの。
それらは“おりもの”と呼ばれていて、“おりもの”とは、子宮頚管粘液と膣分泌が混じり合ったもの………だという。
“おりもの”は、性器粘膜を潤(うるお)す事によって、外部からの細菌の侵入や乾燥を防ぐ働きをしているため、
いつも多少出るのが正常なのだという。
また、分泌量や性質には個人差があって、年齢や体調、ホルモンの分泌によっても変化するらしい。
特に十代の、成長期の女の子は、新陳代謝が活発なため、一日にちょっとした量が分泌されるようだ。
今まで、女の子のあそこからはえっちで興奮した時しか液体は出ないと思ってた。
何も出ないと思ってた。
けれど、そうではないのだと、普段でも、こういうものは出るのだと、圭介は初めて知ったのだった。
思い出すだけで、圭介は眩暈がする。
汚い…と思った。
まるで、涎をだだ漏れに垂れ流している大型犬みたいだ。
自分は汚い。
女は汚い。
その上、自分の体は、親友の体にさえ反応してしまう…。
それでも、止められなかった。
どうしても、この体の中で荒れ狂っている“嵐”を鎮めなければならないと、思った。
もしまた健司の前で“反応”なんてしてしまったら、もう自分はどうしていかわからなくなるから。
「んっ…ふっ…」
声が出てしまうのは朝にもう体験済みだったから、圭介はハンカチを噛み、そっと右手の指をあそこに伸ばした。
中指を軽く曲げ、陰核を覆う包皮を“ちょん”と突付く。
それだけでビリビリとした刺激が全身を走り、腰が動いた。
目の前でフラッシュを何度も焚かれているような気がする。
もう少し奥まで指を差し入れ、ねとねとした粘液を指に絡ませる。
それさえも『肉の亀裂』への堪えがたい刺激となった。
「んっ…んっ…んっ…」
痛くないように、刺激が強過ぎないように、そろそろと、おそるおそる、
たっぷりと愛液をからめた指先で“ちょんちょんちょん”と包皮を突付く。
電気が走る。
あそこから子宮を通り背骨を昇って脳の中心まで、一本の“回路”が形成されたと感じる。
繋がっている。
熱が走る。
「んっ…ひっ…」
圭介の恥丘には、産毛のような陰毛が生え始めていた。
ようやく1センチになるかどうか…という長さだが、濃く密集していて、“ぼわっ”とした手触りだった。
色は薄く、毛質もまだ全然柔らかい。
その茂みを撫で付けるようにして手の平を被せ、人差し指と薬指で肉厚の大陰唇をすりすりと擦る。
「…ふっ…んっ…ぅ…」
口の中に唾液がいっぱい溜まる。
ハンカチがくちゅくちゅと唾液を吸ってゆく。
左手が、もっと違う刺激を求めていた。
どうすればいいか、女の身体が知っていた。
合服のベストのボタンをもどかしげに外し、丸襟ブラウスの上からゆっくりと右胸に触れる。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ〜〜〜!!!」
前傾して、内股になった膝を擦り合わせる。
ぎゅううう…と右手を挟み込んだまま、“びくっびくっびくっ”と立て続けに体がはじけた。
自分の体は、いったいどうなってしまったのか。
どうなってしまうのか。
恐い。
考えるのをやめようと思う。
涙がいっぱいに溜まった目をぎゅっとつむり、快楽だけに逃げようと思った。
体の表面全部が、敏感になっている。
口の中で舌を滑らせ、湿ったハンカチを嘗めた。
布地のざらついた感じに、ぞくぞくした。
不意に。
「んっ!!!!」
右手で“ぎゅっ”と胸を掴んでしまい、刺すような痛みに顔をしかめた。
痛い。
右胸を触るだけで痛い。
左胸も、痛かった。
皮膚の下に、コリコリとした梅干の種みたいなカタマリがある。
じんわりとした痛みは、“すりすり”と擦ると鈍い「痛痒さ」になって、じくじくと染みる傷口のように胸に広がってゆく。
『こうすれば』
いいんだ。
圭介はそう思った。
胸をゆっくり、撫でるようにして擦る。
ブラをせず厚手のTシャツを着ているけれど、それすらも押し上げて乳首が固くしこっていた。
それを、摘む。
「んぅっ…」
痛い。
きもちいい。
むず痒い。
いろんな感覚が一度に押し寄せる。
右手の指は、最初よりもっと大胆に陰核を覆う包皮を擦っていた。
痛みはほとんどない。
けれど、
『やべぇ…ショ……オシッコ、してぇ…』
強烈な尿意が腰を震わせる。
由香に「ションベンって言わないの。オシッコとか小さい方とか言うの」と言われた事を思い出し、
心の中の声であるにも関わらず訂正してしまうあたり、由香の『女の子チェック』の影響が濃い事を思わせた。
『だめ…』
だめだ。
『辛い』
苦しい。
『きもちいい』
もっと。
『強く』
やさしく。
『捏ねて』
つついて。
思っている事と感じている事と実際にしている事が交差する。
そして、
ぷしっ…
水音がはじけ、圭介はたとえようもない開放感を味わった。
「……ん……」
目を開けると涙が右目からぽろりとこぼれた。
世界が滲んで、揺れている。
悲しいわけじゃなかった。
気持ち良かった。
全ての感覚がクリアになったかと思ったら、次の瞬間にはずっとずっと高い所に持ち上げられて、そのまま強引に白い闇に引き込まれた。
『すご……い……』
涎でぐちょぐちょになったハンカチが口から落ち、ブラウスに唾液をつけていても、それを手に取る事も出来ない。
ぐったりと浄水槽に背中を預けて、圭介はしばらくの間、ただ“ぴくっぴくっ”と全身を震わせていた。