「シルヴィ……」
タケルが手を伸ばして、シルヴィを抱き寄せようとする。その意図をシルヴィは見抜いたが、それを阻むようにじっとタケルを見つめていった。
「タケル、聞いてくれる。」
「……う、うん。」
「1年半、毎日タケルのことが気になって、頭の片隅から離れなかった。だからね、絶対に会って言いたいことが、たくさんあったの。でも……」
「でも?」
「あんまり多くて、忘れちゃった……」
「何それ?」
「いいじゃない。ねぇ、私たち普段は離れて生活しているけど、お互いが望めば、またきっとこうして会うこともできる」
「うん」
「本当はね、このままタケルに、ワタシを連れて宇宙のどこかへ、2人だけの世界に連れて行ってもらおうと思っていたの」
「ええっ!!そ、そんな、ボクにはそんなことは……、先輩に怒られちゃうし……」
タケルはあわてて言う。しかし、シルヴィは意地悪く質問する。
「あら、タケルはワタシには独占したい、って思えるほどの価値が無いって言うの?」
「そ、そんなことは…。だいいち、宇宙(そと)は君が思っているほど、のんきな場所じゃないよ。
強力な恒星風だとか、ものすごいスピードでぶつかってくる宇宙塵とか……」
(やっぱりね……)必死になって弁解するタケルに、シルヴィは心の中で舌を出して、こんどは目いっぱいしおらしくいう。
「ごめんなさい、無理を言って。タケルに毎日会えないのはつらいけど、でもまたタケルに会えると思えば、つらい仕事もがんばれるわ。
だからタケルも仕事がんばってよね」
シルヴィはにっこりとタケルに微笑み、そっと頬にキスをすると、何か言いたげなタケルをよそに、着るものを探し始めた。
一ヶ月後、シルヴィは購買部の併設された食堂の片隅で、問題の娯楽雑誌を手に、中を見るかどうか考えあぐねていた。
とりあえず目次だけでも確かめようと表示させてみると、"銀髪の妖精"とタイトルが付けられた記事に目がとまった。
おそるおそる再生してみると、例の公園で撮影されたサマードレス姿で戯れるシーンと、静止画のヌード映像がいくつか収録されていた。
いずれも若々しいシルヴィの肢体を自然に捉えた、好ましい印象を与えるものばかりだった。
(あれ?カラミのシーンなんて無いじゃない……)
唯一、カラミといえなくも無い映像は、記事の最後にあった。
泣き出しそうになったシルヴィに、やさしく白布を掛けてくれた時の、二人がお互いに見詰め合うシーンだった。
(ま、いい思い出ができたよね……)
そこへ、いかにもたまたまといった風に、編集長が通りかかった。
「あ、編集長!これ、カラミって……」
「やぁ、シルヴィちゃん。見てくれた?。"清純派"のシルヴィちゃんにふさわしい記事だろう?おかげで評判も上々。
じゃ、取材があるから、またね……と、忘れてた。これは出演者へだけのボーナス映像」
と、一枚のプリントを置いて、そそくさと去っていった。
("清純派"はもう、卒業しちゃったんだけどな……)
シルヴィは頬杖をついて、裏返しに置かれたプリントをめくった。
それはあの映像の続き、"彼とのキスシーン"だった。
一瞬また血圧があがったが、それは怒りからではなく、恥ずかしさからだった。
(でもありがとう、編集長)
シルヴィは素直にそう感謝した。
しかし、雑誌の発売後、"公園でシルヴィを撮らせて"というリクエストが殺到し、またまた編集長を恨むことになるのだが……。