貝塚さとみの警察日誌/◆QTBUWlBVVQ(4-729)さん




あ、またあのお二人が廊下で女王対決していますう。泉田警部補が手を顔に当ててますう。
わたしが見慣れたぐらいだから、きっとそれ以上にやりあっていることなんでしょうねえ。
それにしても今回はなんなのでしょうねえ、いったい。

「遠目なら豪華な大輪の薔薇といった風情の二人なのに、近寄れば棘だらけだからなあ」
あれ、丸岡警部にマリちゃん。お昼はお蕎麦だったんですか。
「触らぬ神にタタリなしと通り過ぎたいところだが、どうも近寄れないっぽいな阿部クン」
「はっ、本官もそう見ます」
わたしもそう思ってるから、ここから帰れないんですう。

「今日もまた一段と艶やかな格好だねえ、お涼は」
はい、あれは香港で先行発売されて日本未上陸の最新ブランド物ですよお。すごいです。
「なにやら本日は室町警視がやや優勢のように見えるのですが、気のせいでしょうか」
意外にするどいんだあ、マリちゃんって。そうなんですよお。珍しいです。

「で、いい加減道をあけてくれないかしら?お涼。午後の勤務に遅れてしまうわ」
「だったらそこの通路を曲がってさっさと行けばいいじゃない。融通利かないったら!」
「そこを通らないと執務室に帰れないのよ!」
「仕方ない、通してやるとするか。その代わり、あたしの質問に答えること」
「あら、あなたに尋問されるようなことなんて私がしたかしら?」
「トボけるのもいい加減におし!!」

ひゃあ、あそこまで敵意むき出しにした薬師寺警視は初めてみますよお。どきどき…
「こりゃ午後勤の時間になっても席に戻れない奴らが大量にいそうだな」
そうですう。これじゃわたし残業決定ですよ、時間までに家に帰れないと困りますう!
録画の準備はバッチリですがリアルタイムでも見たいのがファン心理なのにい。
「仕方ないな。阿部クン、書類仕事は後回しにして聞き込みの方、やっておこうか」
「はっ」
ちょおっと待ってくださああい!怖いんだから置いていかないで下さいよお。
「やれやれ、気の毒な貝塚クンを置いてはいけなしな。じゃあそこの自販機で何か」
「玄米茶ですね」
すっかりいいコンビになってますねえお二人。
「貝塚巡査はジャスミン茶で良かったでしょうか」
はいよくご存知で。ありがとうございます。
「いつも貝塚クンのデスクから中国茶のいい香りがしているものな」
へへ、なんか照れます。


「あの二人は例えるならば薬師寺警視がラフィット製のコニャックで、室町警視ならそうさなあ
 ボウモアのモルトってところかな」
どっちも高価そうなお酒だってことはなんとなく分かりますけど…
「どっちも単独で味わうなら風味絶佳だが、ブレンドすると刺激ばかりが強いってことさ」
なるほどー。見かけによらず結構ダンディーなんですねえ。あ!失礼でしたごめんなさい。
「本官も丸岡警部からは教わることばかりです」
「今度わたし等に混ざって飲みに行かないか、貝塚クン」
うわあ嬉しいですう。ぜひともお供させていただきますう!
おっと、それよりもいよいよ修羅場は佳境のようですよお。

「なんか、あんたらこの間から怪しいのよ」
「怪しいだけで捕まえて取り調べるなんて冤罪の始まりではないの、お涼」
「このあたしの勘にピンときたことでそれが間違いだったなんて過去一度もない!」
「そういって、過去いったい何人の人が無為な数十年を送った羽目になったのかしら」
「そんなムノーな警察官を引き合いに出してこられても困るわ。オホホホホ」
「笑って誤魔化そうというのかしら。あなたこそ後ろ暗いことがあるんじゃないの?」

マ、マリちゃああん怖いよおおお。
「ヤクザの事務所に踏み込んだ時以上の空気だな、これは…うーむ。」
そそそそ、そんなあ〜
「落ち着いてください。あのお二人は私たちに気付いていないのですから」
ありがとうマリちゃん、少し落ち着きましたあ。

「証拠ならあるわ」
「なにかしら」
「泉田君とお由紀の視線がかち合う回数が多い!」
「…なによ、それ。思いっきり主観的じゃない。それが証拠?笑わせないでほしいわ」
「まだあるわ」
「どうぞ」

あ、ちょっと警部補!マズイですよおっ!ああっ!
「泉田警部補の美徳と言っていい点だろうが、男女のことに関してはことマイナスだな」
そんな的確に論評している場合じゃないんじゃないでしょうか…



「ほら、あたしが見つめると何故か視線をロコツに逸らす」
「そんな攻撃的な視線じゃ誰でも目を合わせたくならないわ。当然でしょ」
「どうあっても尻尾を出さないつもりね、お由紀」
「もともと無い物をどうやって出せというのかしら。あなたは上手に隠しているようだけど」
「あたしにだって無いわよ」
「悪魔のシッポ。」

あ。ダメだ。
「「「ププッー!」」」
三人して思いっきり噴き出してしまって、きゃあ!とうとう見つかってしまいましたあ!!

「貝塚巡査に阿部巡査に、また丸岡警部までもなんでまた…」
警部補に呆れられるスジアイなんてないです!隣の二人も、ほら同意見ですう。

「もういいかしら?お涼」
「そうね。外聞もいい話じゃないことだし」
「私は別に聞かれても困らないけれど…もう少しぐらいお涼に付き合ってもいいわよ」
「仕切りなおし!さ、泉田クン帰るわよ。まったくもって時間のムダだったわ」
「威勢のいい啖呵だけど、逃げながら言うのはそれ、捨てゼリフっていうのよ」

きゃあああ!なんてことゆーんですかあ室町警視い!!!これじゃ午後仕事になりませんっ!!
皆の顔色も激変、四人は真っ青で一人は紅潮気味、室町警視だけが平然としてますぅ…うう。
薬師寺警視のハイヒールが止まって、1、2、3秒……静寂が耳に痛いですう。

「やあやあ皆さんお揃いで。もう昼休みは終わりだろう、ん?さ、仕事仕事」
刑事部長!その無神経さ、お役人ぶりが、今ばかりは本当に心の底から助かりましたあ!!
では薬師寺警視、午後のお茶はクイーンマリーでいいですよね?
「あいかわらずセレクトがいいわね、さとみチャン。それでヨロシク」

視線を見交わして、わたしとマリちゃんと丸岡警部はようやく机に戻ることができました。
泉田警部補がどうなったかって?…そんなの知りませえん!(ニコッ




   

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