二人でお茶を(ミュラー×フレデリカ)7/3-338さん







屋敷の裏は庭園になっていた。
その中でも最も屋敷から離れていて、目立たない所にあったベンチに
ミュラーはフレデリカを座らせ、自分も隣に座った。
「先ほどよろけたときに足を痛めたのでは?」
フレデリカは泣きながら首を横に振った。
「どこかお加減が悪くなったのですか?
 それとも、もしかして今日はずっと体調が悪かったとか…」
「いえ、いいえ…。ごめんなさい、急に泣き出したりして…」
手の平で頬を拭うも、いまだフレデリカの目からは涙があふれ出ている。
「……昔のことを思い出してしまって」
「昔のこと?」
「さっきかかっていた曲…亡くなった主人が好きだった曲なんです」
僚友のエルネスト・メックリンガーあたりが聞けば
その曲が誰の、なんという題名の曲かすぐ分かったのかもしれないが、
あいにくミュラーには聞き覚えがなかった。
「…歌詞のある曲なのですけど、さっきのはアレンジされた曲だったのか
 前奏が終わるまで気がつかなくて…」

そういえば前奏が終わって本パートに入ってからも
歌詞は聞こえてこなかったなと思いつつ、
「フラウ・ヤン。よほどつらい事情があったのでしょうが、
 あの曲のことで過去に何があったかは今は聞かないでおきます」
ミュラーは口元を覆って声を押し殺そうと、なんとか涙を止めようとしている
フレデリカの手を取り、自分の上着の胸元をつかませた。
「本当のことを申し上げれば、
 あなたにはいつも笑顔でいてほしい。ですが…」
フレデリカの頬に自分の手で触れ、涙を指先で拭う。
「泣きたいときは、いっそ思い切り泣いた方が気分は楽になると思いますよ」
そのまま、フレデリカの頭を自分の胸に押し付けた。
「いいですよ、好きなだけ泣いてください。ここなら誰にも聞こえませんから」
頭の上から聞こえてくる優しい声。背中と、頭を撫でる暖かい手。
「う………、ぅ…」
我慢ができなかった。
「ご……めんな…さい…、閣下……」
「なぜ謝るのです、フラウ・ヤン? あなたは悪くありませんよ」
「閣下、本当に…すみま…せ……」
ミュラーに言われても、フレデリカは謝罪の言葉を口にしながら泣き続けた。



フレデリカが泣き止んだのは、それから20分近く経った後だった。
「気持ちは落ち着きましたか?」
「……はい」
「だいぶ夜風が冷えてきましたし、そろそろ帰りましょう。
 ご自宅までお送りします」
2人はホールを通らずに玄関へ戻り、
乗ってきた車でフレデリカの自宅まで戻ってきた。
掛けるべき言葉をうまく見つけられなくて、
ミュラーが頭の中で適当な文言をひねり出そうとしているうちに
フレデリカは泣き疲れてしまったらしく、車の中で居眠りをしていた。
少しずつ自分の方に傾いてくる身体を黙って寄りかからせるミュラーであったが、
目的地に着いたのであれば夢にたゆたうフレデリカを起こさなければならない。
「フラウ・ヤン、着きましたよ」
と軽く膝を叩いてみたが反応がなかった。
「フラウ・ヤン」
と大きく身体を揺する。
「………あなた!」
フレデリカは目が覚める直前そう叫んだ。
自分の視界が徐々にはっきりして、今自分は誰と、どこにいるのか思い出して。
「大丈夫ですか?」
そう問いかけてくるミュラーの顔が、明らかに動揺している表情になっていた。

「すみません、お話の途中で眠ってしまうなんて…」
「お疲れになったのでしょう、もうご自宅の前まで着きましたから、
 今日はゆっくりとお休みになってください」
ミュラーは一度フレデリカとともに車を降りて、
玄関までのわずかな距離を護衛するように歩いた。
「今日は本当にありがとうございました。
 いずれまたお会いできる日が来ると思いますが、
 それまでどうかお元気で。お休みなさい」
そう挨拶して車の方に戻ろうとした途端、後ろに引っ張られる力を感じた。
振り返ればフレデリカがコートの端を握っている。
「…眠りたくない」
「え?」
一瞬の小さな呟きをミュラーが聞き逃すはずはなかった。
「…あ! いえ、なんでもございませんわ。
 こちらこそ珍しい場所にご案内いただきありがとうございました。
 どうぞお気をつけてお帰りください。お休みなさいませ」
と慌てて取り繕うに言ってコートを放し、一礼して玄関の鍵を開けようとするフレデリカ。
「そういえば…フラウ・ヤン。
 先ほどデザートの後の飲み物を飲み損ねてしまいましたね。
 少し喉が渇きましたので、水をいただけませんか?」
ミュラーは女性としてのフレデリカのプライドを
傷つけないように気をつけながら、その「誘い」に応じてやることにした。



「中へどうぞ」
と通されてすぐ、ミュラーは部屋…というより、
住居内全体に篭っている芳しい香りに気づいた。
「この花は…」
「全て閣下が送ってくださったものですわ。
 今飲み物をお持ちしますね」
そう言ってフレデリカは台所へと消えていく。
赤いストックの花束が部屋中を彩っている。
部屋の四隅だけでなく、玄関から居間へ続く廊下、
ちらと見えた階段の1段1段の両端にも。
テーブルの中央にも大きな花瓶が備えられており、
1人がけのソファには座面の部分に板を置いて水平を保ち、
その上にも花瓶が置かれていた。

──あの諍いがあったその日のうちにミュラーは急いで調べ、
「花束にして毎日届けてくれ。必ず毎日だ」と
調査資料をまとめるのに机を借りた総督府近くの花屋に自ら赴いて注文した。
「計算に時間がかかるから後で見積書を送る」と言った店員に
「金なら今払う」と携帯端末を操作して、
その場で自分の預金口座から花屋の出納口座に自分の1年分の給料を振り込んのだ。
時間がなかったからかなり強引な手段を使ってしまったとも、
1年分もの給料を嫌われている女性のための花束に使うとは酔狂なことだとも、
ミュラー自身フェザーン帰還後に思ったが、
それでもこれでフレデリカが少しでも気を静めてくれれば安いものだと思っていた。
しかしミュラーは銀河帝国とハイネセン自治領との間における
為替レートや物価の違いについてはすっかり失念していた。
10ヶ月ほどで全て使い切るだろうと思って自分が花屋に支払った1年分の給料が、
ハイネセン共和自治領においては株式上場企業トップクラスの
代表取締役の3年分の給料に当たることを。
惑星ハイネセンだけでなくその周辺の惑星には
野菜や花きの栽培に適したところが豊富なこともあって
花の値段は非常に安価であることを──。
それが今自分が目の前にしている光景の結果であることを知り、
ミュラーは後に花屋に毎日の配達を週1回の配達に切り替えさせることになった。

座る場所がそこしか見当たらず、ミュラーは3人がけのソファの端に座る。
程なくフレデリカがトレーを抱えて室内に入ってくる。
「ご覧のとおり向かい側のソファにも花を生けているので、
 隣に失礼致しますね」
とフレデリカはミュラーの隣に座った。
出されたコーヒーを一口飲んだ後ミュラーは問いかけた。
「車の中でお休みになっていたとき、
 気持ちよく眠っているのを起こすのもどうかと思って、
 ご自宅に着くまでお声を掛けなかったのですが…」
「私としたことが、本当に失礼なことを…申し訳ありませんでした」
「いえ、あなたが詫びるほどのことではありませんよ。
 それより、お目覚めの直前に少しうなされていたようですが大丈夫ですか?」



少し戸惑う表情を見せた後フレデリカは言った。
「…夢を見ていました。今までにも何度も繰り返し見ている夢なんです」
前にも似たようなことを聞いたと思ったミュラーはそのときのことを思い出した。
「亡くなったヤン・ウェンリー提督の夢、ですね?」
こくり、とフレデリカは首を縦に揺らす。
「いつも同じところで目覚めてしまって、それから後は眠れなくて…」
ふと時計を見ると、朝を迎えるまでにはかなり遠い時刻。
自分が退出した後は朝になるまでの数時間を
フレデリカ1人で過ごさなければならないことを思うと、
ミュラーは胸が締め付けられるような感覚にとらわれる。
「なんとか眠れたとしてもまた同じ夢を見てしまうことも多くて、
 結局起きてしまうのですけど」
「ヤン提督も罪なお方だ。亡くなられて数年経つのに、
 いまだ夢に出てきて奥方を悩ませるとは…」
「いえ、私が思い出に縋って生きているからこんなことになるのではないかと。
 周りの人からも忘れろまでとは言いませんが、
 もっと他のことにも目を向けるべきだとはよく言われます」
と横顔で苦笑するフレデリカ。

「では、今日はもうお休みにならないと?」
「…そうなりますわね」
「朝までずっとお一人で過ごすのですか?」
「ええ、閣下がお帰りになれば」
「では私はあなたがお休みになるまで、帰らないことに致しましょう」
「ご冗談を」
「本気ですよ」
その発言が信じられなくてフレデリカは
テーブルに落としていた視線を、ミュラーの顔に戻した。
ミュラーの手がフレデリカの頬に触れる。
そのまま顔が近づいてくる。
ゆっくりと瞼が下りたかと思うと、
「マイネ・リーベ・フレデリカ…」
そのまま口付けられた。
「………、いけません閣下…っ」
一度顔を反らしてミュラーの唇から自分の唇を離すが、
再び追い求められる。
肩を押して身体を離そうとするがその手をつかまれる。
「閣下……、…っお止めくださ……」
頬に触れていた指が耳に触れた瞬間、抵抗しようとするフレデリカの力が抜けた。

「………どう…して…」
ようやく口付けを解いてくれたミュラーに対して、
フレデリカはそう言った。
「…どうして私などを相手になさろうとするんです?
 閣下ほどの素晴らしい方ならフェザーンにいくらでも
 お似合いの女性がいるでしょうに。
 相手に死なれたとはいえ私は一度結婚しているし、
 世間一般的に見れば殿方の興味を引くような女ではありません。
 それなのになぜ…」
「あなただから、ですよ」
砂色の瞳が熱っぽく自分を見つめている。
フレデリカは横を向いてその視線から逃れようとするが、
「いえ、あなたでなければいけない」
頭を押さえられていて動けない。
「たとえ自分に好意を寄せている女性がいたとしても、
 私はあなたのことしか考えられないし、考えたくもない。
 私は、あなたを、愛しているんです」
はっきりとした口調でフレデリカはミュラーから告白された。


「確かにあなたはヤン・ウェンリー提督の奥方だし、
 それは今でも変えることができない。
 ですが、それが何だというのです?
 私があなたを愛する上ではそのことは問題ありません。
 あなたはヤン・ウェンリー提督の奥方であると同時に、
 フレデリカ・グリーンヒル・ヤンという一個人でもあるのですよ。
 私は、フレデリカ・グリーンヒル・ヤンという人を愛しています」
ミュラーの口調はとても穏やかだ。
しかし、その口調に反して内容は燃え盛る炎のごとき激しさを帯びている。
「私もヤン提督のことを忘れろとは言いません。
 ですが、ご友人たちが言われるように、
 そろそろあなたはお気持ちの整理をするべきなんだと思う。
 そのためのお手伝いを私がしてはいけないでしょうか?」

「手伝いって…?」
「こういうことです」
再び口付けられる。今度は表面を合わせるだけでなく、
歯列を割られ、ミュラーの舌が口中に滑り込んできた。
「………んっ……う…」
そのまま舌を絡められ、吸い上げられて、
フレデリカの全身に痺れるような快感が駆け抜ける。
「ぅ…ふ……、く……ぅ」
外耳を指先で挟まんだまま窪みに沿って撫でられ、
「…っん…ぅ……ん」
羽で触れているかのように背中に触れられ、身体がガクガクと震えだした。
ようやく深いキスから離れられたと思ったら、
「閣下…どうかお止めにな…っあ!」
その唇が頬に滑る。耳を玩んでいた指先が内側へと侵入してくる。
「私にこういうことをされるのが本当に嫌なら突き飛ばすなり、
 舌を噛みちぎるなりしてもいいのですよ、マイネ・フレデリカ。
 本当にあなたに嫌われているのだったら潔く諦めますから」

そう囁かれて、フレデリカは身を捩りながら考える。
確かにミュラーは今、
「愛しているのはフレデリカ・グリーンヒル・ヤン個人であり、
 ヤン・ウェンリーの妻であることは問題としていない」と言った。
むしろ問題視していたのは自分ではないのか。
夫亡き後もそのことに固執し貞淑な未亡人を演じることで、
自分は「歩み」を止めていたのではないか。
ミュラーが自分を訪ねてきて以降、
最近特に夫のことを考えることよりも
ミュラーのことを考える時間が多くなってきたのは、
今がその「気持ちの整理」をするべき時なのではないか。
そもそも自分はミュラーのことをどう思っているのか。
口付けられて本心から抵抗できないのは、自分に隙があるからではなくて…。



「…分かり…ました、閣下」
フレデリカは少しだけミュラーの身体を押して、 
圧し掛かってくる力を制止する。
「では…忘れさせてください」
「え?」
「朝が来るまでの間で構いません。
 あの人のことを忘れさせてください」
ミュラーがフレデリカの口から聞きたかったのは、
そんな言葉ではなかった。
「途中で止めたりはしませんよ。それでも?」
「ええ」
しかし、「忘れさせてほしい」と言ったということは
フレデリカ自身がある程度覚悟を決めたのだろう。
「承知しました」
とミュラーは再び深い口付けを交わした。
背中に回している手で探りながら、ドレスのファスナーを少しずつ下げる。

以前のことを覚えていたこともあり、
ミュラーは容易くフレデリカの吐息を上げさせることができた。
今自分の片手は胸元に、もう片方は太腿にある。
煌々と照明が灯ったままの居間のソファに横たわっている
下着姿の彼女はとてつもなく淫らで、それでいて美しい。
快楽に身を委ねているフレデリカがそのことに気づけば、
間違いなく自分の行動を止めさせるだろう、とミュラーは思う。
ただ今の彼女は自分によってもたらされる愉悦に
身悶えしながらときどき甘声を漏らすだけで、
先ほどまでとは違い自分の行動をとめさせようとはしない。
呼吸を整えるためなのかフレデリカが時々大きく深呼吸した後に、
目を閉じたまま何か安心したような表情を浮かべるのは何故だろう?とは思った。
了解は得たものの本当にその先に進んでしまって良いものか、
ミュラーは自分の心の奥底にある狂暴性とも闘いながら、
少しずつフレデリカの心を覆い隠す「装甲」を剥がし始めた。
下着をずらして小高い山の頂上に吸い付く。
「あああああっ!」
甲高い悲鳴が居間に響いた。

舐め上げられ、吸いたてられ、形が変わるほどに揉みしだかれ、
その度にフレデリカの白い喉元が突き出される。
徐々に身体をずり下げながら身体のあちこちに口付ける度にミュラーは
「マイネ・フレデリカ…」
と彼女の名前を呼ぶが、
フレデリカの口からはいまだミュラーの名前が呼ばれなかった。
ショーツをずり下げ、その中に隠されていた花弁に指を添えると、
「……あっ、……ぁふ…ぅっ…」
フレデリカの身体の揺れがますます激しくなる。
そのまま幾度か限界を超えさせた後、
ミュラーは両足を開いて内腿に手を添え、艶めかしく光るその花に舌先で触れた。
その途端。
「…ぃぃやああぁっ!! あなた、そこはだめぇぇっっ!」
やっと呼ばれた名前は自分のものではないことに、
ミュラーの衝動は寿命の尽きた花のようにしおれていく。
それを象徴するかのように、
ストックの花の一つが音も立てずにテーブルの上に花びらを散らした。



ミュラーはゆっくりと立ち上がり、
床に散らばっていたフレデリカの着衣を1つずつ手に取った。
荒い息をついてソファに崩れているフレデリカの身体を起こす。
下着を足に通し、ブラジャーの肩紐を通して背中のホックを留める。
ドレスだけはそっと埃を手で払った後でソファーの背もたれに掛けた。
そのまま無言でフレデリカの身体を横抱きにして、
しっかりした足取りで階段を上がる。
「……え…? ええっ?」
そのまま最後まで続くだろう思っていたことが、
ミュラー自身が「途中で止めない」と言ったはずの「行為」が途中で止められ、
フレデリカにはその理由が分からずに焦りを感じた。
そのままミュラーはいつか自分が使ったことのある寝室へ入って行き、
そっとフレデリカの身体をベッドの上に横たえる。
「あなたが眠るまでずっとここにいますから、
 どうか安心してお休みを」
そう言ってベッド脇に片膝を抱えて座り込んだ。
「ど…う…して…? なぜ途中で…」
フレデリカは思わず起き上がりかけるが、
「今日のあなたはとてもお疲れのはずです。お休みになってください」
と急に口調が少し荒くなったミュラーの態度に、
自分がベッドから起きて質問することを許されていないと知った。
「どうしてなんですか……」
またフレデリカの両眼から涙が溢れ出す。
「閣下なら……忘れさせてくれると…思った……の…に…」
フレデリカはミュラーに背を向けて自分の泣き顔を隠した。

誰かが自分の髪に触れている感覚に気づき、
フレデリカの意識はまどろみの中から急浮上する。
自分はあれから泣いたまま眠ってしまったのだ…と直前の行動を思い出した。
どうやら自分は頭を撫でられているらしい、そのまま目を開けようとしたが
「あなたの中で私の存在は…
 ずっと銀河帝国元帥のナイトハルト・ミュラーのままなのでしょうか…」
至近から聞こえてくる声に瞼を開けられなくなった。
「…それならそれで構わないのです。むしろはっきり言われるか、
 あからさまに拒絶してくれた方がどんなにすっきりすることか。
 私自身があなたに失恋したと思えば、それで済むことなんですから」
ミュラーは自分が寝ているすぐ後ろ、ベッドの端に腰掛けて、
自分の顔を見ながらそっとつぶやいているらしい。
「前は…私であることを忘れてほしいと私から申し上げましたね。
 あのとき私はあの瞬間だけはあなたの最愛の人になれるように心を尽くしたつもりです。
 しかし今度はあなたが忘れさせてほしいと言ったから、
 あなたのお気持ちは私と同じものと確信して、私は私らしく振舞い、
 あなたの望みを叶えるべく努力するつもりでした…」
ふう、と漏らしたため息が軽くフレデリカの顔にかかる。

「『閣下』と呼ばれたときは確実に私だと分かるのですが、
 あなたが『あなた』と私に呼びかけるとき、
 果たしてあなたは誰を呼んでいるのだろう?と不安になります。
 ヤン提督なのか、私なのか、それともヤン提督の代わりになっている私なのか。
 ……きっと呼びかけている相手は、今はまだヤン提督なのでしょうね。
 私があなたに触れている最中、あなたは私を通じて誰かを見ているような目をしていたし、
 私を呼ぼうとして『あなた』と言ったということは、 
 あなたの中のヤン提督の存在がそれだけ大きいという証拠ですから。
 せめて私の名前を…」
と言いかけて、髪を撫でていたミュラー手が少し止まる。
「いや、名前で呼んでもらったところで何かが変わるわけでないな…」
再びため息をついて、髪を撫でる。

「今日私はあなたに結婚を申し込もうと思っていたのですが、
 時期尚早のようなので機会を改めることに致します」
ベッドが揺れる。
「そろそろ戻らねばなりません。
 このままご挨拶せずに退出するのは少し気が咎めますが…」
触れるだけのキスを施され。
「お休みなさい、マイネ・リーベ・フレデリカ。
 近いうちにまた参ります」
そう言ってミュラーは立ち上がり、寝室を出て行った。
遠くでパタン、と扉の閉まる音が聞こえる。
やがて外から響いてくる規則正しい足音。
それが誰のものかはベッドの中のフレデリカには良く分かる。
追いかけたい。追いかけて、続きを、と縋りつきたい。
そうは思っても同じ過ちを繰り返してしまいそうで。
足音が聞こえなくなると同時に、傍らの目覚まし時計が鳴り響く。
フレデリカは鳴り続けるアラームを止めようともせずに、
しばらくベッドの中で自分を抱きしめていた。






ユリアンとカリン、キャゼルヌ夫妻、アッテンボロー、友人知人、僚友たちなど、
フレデリカに面会を求める人物は比較的多い。
相手の家に招かれたり、外で待ち合わせることも多いが、
可能な限りフレデリカはその相手を自宅に招き、
何度も練習して安定した味を出せるようになった料理を振る舞い、
いろんな話をして過ごした。
この日も学生時代の友人が遊びにきたのだが、
相手が帰宅するとその家にいるのは自分独りきり、
夜になって誰かと話をしたくても相手になってくれるものは誰もいない。
仕方なく彼女はシャワーを浴びて身支度を整えた後、
居間のソリヴィジョンでニュースやドラマを見たり、
図書館から借りたデータディスクで音楽を聴いたり、
夫の遺した書籍の中から適当なものを選んで読んだりして、
自然に眠気がやってくるのを待っていた。
適度に瞼が重くなってきたところで寝室のベッドに入り、瞼を閉じる。

──パラリ。パラリ。
本のページをめくる音が等間隔のタイミングで聞こえる。
自分の近くでヤンが本を読んでいる音だ。
その音が少し気になって眼を開けると、
ちょうどヤンが自分の方を見ていたらしく、互いの視線が合わさる。
「あ…起こしてしまったかい? 悪かったよ」
と言って頭を掻きながらヤンは少し笑った。
いつの間に掛けてくれたのだろう、自分の身体には毛布が掛かっているし、
辺りを見回せば窓の外には星が瞬いており、頭の上には煌々と灯る天井の照明。
ソリビジョンからは音声だけが聞こえてきて、ヤンはあえて映像出力を切っているらしい。
最近巷で人気の音楽番組が放送されているらしかった。
今日のプログラムは往年の名曲特集らしく、以前ヤンが好きだと言っていた曲が流れている。
テーブルの上に置かれたティーカップの中の、底に残ったわずかな液体は
すっかり冷めて蒸発し、内側に薄い茶渋の輪をつけていた。
この状況を整理すれば、軽く2,3時間は意識を逸していたことになるだろう。
フレデリカはソファに腰掛けたまま居眠りをしていた。

「ごめんなさい、私ったらすっかり眠り込んでしまって…」
軽く頭を振って意識を完全覚醒させた後慌ててティーセットをトレイに乗せ、
「いや、いいんだ。君も疲れているみたいだったから」
という言葉を受けながらお茶を淹れ直そうと台所に向かうフレデリカ。
「あなた、さっきと同じようにブランデーを少し入れますか?」
居間の方を振り返ってヤンに確認しようとする。
と、すぐ後ろにヤンが立っていた。
フレデリカはもう少しで悲鳴を上げそうになったが
そのまま抱き寄せられたことでいくらかほっとして、
肺の中で苦しそうに圧しとどめてられていた空気をゆっくりと吐き出した。
「お茶はもういいよ、フレデリカ。それより…、その…」
と言いながらヤンが自分の手首をそっと掴んで歩き出す。
「一緒に寝よう」
ヤンの頬が薄く染まっているのに気が付いた。



結婚当初からヤンとフレデリカは寝室のダブルベッドで一緒に寝ていながらも、
夫婦揃って同じ時間にベッドに入ることはほとんど無かった。
読んでいる本の世界にヤンが没頭していて遅くなるか、
家事に手間取ってフレデリカが遅くなるか。
このため寝る前の2人の挨拶は
「フレデリカ、悪いけど先に寝るよ」か、
「あなたごめんなさい、先に寝るわ」であった。
どちらかが勤務時間中でもう1人は非番だったり、
勤務中にやり残した仕事を持ち帰って寝室の隣の書斎で片付けていたりと、
仕事に絡んで就寝時刻がずれることもよくあり、
ヤンが寝ているときにはフレデリカは起きていて、
フレデリカが寝ているときにはヤンが起きていることが多い。
しかし、2人が自宅に揃っていてそれ以外の挨拶がヤンの口から飛び出すとき。
それは口下手で愛情表現が苦手なヤンなりの「誘い文句」に他ならない。

口付けを交わしながら、寝室の方へ連れ出そうとするヤン。
「ん……あっ、あなたコンロのスイッチを…んぅ…」
台所に戻ろうとするフレデリカを圧しとどめ、ヤンは片手を伸ばしてスイッチを切った。
カップを洗おうとしていたためフレデリカの手は濡れている。
「く……ふ、ぅ…、駄目よ、手を拭かないとあなたのシャツが…」
フレデリカは口付けを解いてヤンの動きを一時止めさせようとするが、
「平気さ、そのうち乾いてしまうから……ぅん…」
そう言ってヤンは後ろ手でフレデリカの手を自分の背中に押し付けた。
フレデリカの手形そのままにヤンのシャツに染みがつく。
「……ふ…、…う…んっ、もう子供みたいなんだから…ぁ!」
頬を辿って唇を滑らせ、ヤンに首筋に音を立てて舐め上げられて、
フレデリカは小さな悲鳴を漏らした。
もつれ合いながら2人は寝室へと足を運び、ベッドへ倒れこんだ。

最初の頃と比べたら、ヤンの技術力は上がっている方なのだろう。
ぎこちなく外していたブラウスのボタンやブラジャーのホックは、
今では深いキスを交わしたままスムーズに外されていく。
胸元の突起に指を掛けられたときには、フレデリカの息は既に上がっていて、
「ゃ…ん! ……あ、はっ……ぅ!」
甘声をこぼしながら、ヤンの背中に爪を立てる。
赤子のように乳首を吸い上げられると、そこから身体全体に痺れが走った。
子供をあやすかのようにさすられる背中に反比例して、
ヤンの手は無遠慮に太腿の内側に触れている。
ゆっくりとその手がスカートの奥へと侵入し、ヤンの指先が最初の一撃を
フレデリカのそこへ加える。
「あ、あな…たっ…!」
「ん?」
意地悪そうな笑みを浮かべてヤンが顔を上げた。
「…ず、ずるいわ、私だけこんな格好で…いるなんて…」
フレデリカが少し唇を尖らせて苦情を言うと、
「ああ、そうだったね」
と悪びれもせず、ヤンは起き上がって手早く着衣を脱ぎベッド下に落とした。
続いてフレデリカの背中に手を回してスカートの留め金とファスナーを外し、
その下のストッキングと下着も一度に膝下までずり下ろす。
「きゃぁ! あなたってどうしてこんなときだけせっかち……ぅん…!」
続く言葉を口付けで遮り、ヤンは足の付け根に隠れた彼女の秘唇に指先を触れさせた。



ヤンの顔が少しずつ下にずれていく。
さすがに服を着たときに露出する部分は避けてはくれたが、
そこかしこに激しい口付けを施され、フレデリカの身体には赤いほくろが散っている。
胸元の突起は痛いほどに固くしこっており、
秘唇の奥からはねっとりとした液体がヤンの指先を湿らせる。
やがてヤンの頭が下腹部までずれたかと思うと足を高々と持ち上げられ。
「……っあああっ! やぁあ、んぅぁああっ!」
ヤンの指先を湿らせていた液体を直接舐め取られた。
悲鳴に似た声がフレデリカの喉から迸る。
その場所への刺激は強すぎる上、排泄物がいくらか付着しているであろうところを
夫に舐めさせることには抵抗があった。
このためフレデリカは涙ぐみながら頭を振り、
「いや、ぁ…! あん、やめ……ぁぁああぅぅ!」
そこから離れさせようと腕の力全部でヤンの頭を太腿の間から押しのけようとする。
しかし次第にその刺激によってフレデリカの理性は燃え落ちてしまい、
後に残った欲望がヤンの頭を逆に押し付けるようになってしまう。

何度舌で拭っても溢れてくる滴りと、ヤン自身の唾液によって
シーツに染みをつけるほどに濡れたその部分。
手を添えてそっと動かしただけで淫靡な水音を響かせるくらいになった頃、
「あの…フレデリカ……、そろそろいいかい?」
と問いかけられる。
ヤンの顔はいまだフレデリカの足元にあり、やや遠い位置にいる彼と視線が合わさった。
首の動きだけでフレデリカは了承を伝える。
言葉を伴わないその返事を受け、ヤンは起き上がってベッドの上に胡坐を掻いた。
「おいで、フレデリカ」
ゆっくりと起き上がり、フレデリカはヤンの首に腕を回す。
両脚はヤンの足の外側に置き、もう一方の手でヤンのものに手を添え、
狙いを定めつつ少しずつ腰を下ろした。
「んっ、…く! …ぅ、ふ……ぁ…」
入り口を閉ざしていた秘穴が開き、ヤンのそれが押し入ってくる。
自分で入れられる限界まで受け入れたフレデリカは、
首に両腕を絡ませてヤンにしがみついた。吹きかけられる吐息が熱い。
「も、もう……無理…よ、…これ以上…入ら…ないわ…」
そう言ってフレデリカは腰を下ろしきったが、
ヤンのものは根元から3分の1ほどがまだ収まりきっていない。
ふふっ、とため息交じりの笑い声が少ししたかと思うと、
「や…っ…んっあ! あ……、あな…た…っ!」
下から突き上げられる動作を加えられた。


そのときだった。
独特の機械音が、部屋に満ちた甘い空気を引き裂く。
ヤンが手を伸ばして、傍らのコンソールのボタンを手早く何度か押した。
「お休みのところ申し訳ありません。…あれ?
 映像が表示されないのですが、どうしました?」
「ああ、ちょっと…今シャワーを浴び…ようとしていたところなんだ」
とその場の映像があったら相手はそれを否定するであろう苦しい言い訳をしつつ、
ヤンはフレデリカの身体を揺すりたてることを止めようとしない。
相手に自分の嬌声が聞こえるのを恐れ、フレデリカは自分の口元を自らの手で覆った。
「敵の総大将ラインハルト・フォン・ローエングラム提督からの通信が入りました。
 停戦協定の締結に関する件なので至急会議室までお越しいただきたいのですが」
ずん、とひときわ大きく腰を揺すり、深々とフレデリカのものを抉る。
「………っう!」
抑えきれない声が指の間から零れ落ちた。
「わかったよ、着替えたらすぐ行く」
「お待ちしております」
ボタンを押し、回線を遮断するヤン。

「…ということだ、続きは…戻ってからになってしまうね」
胡坐座を解き、ヤンは自らその強張りをフレデリカの身体から引き抜いた。
「……ぁん!」
くぽっ、と卑猥な音が小さく響く。
抜き去られる衝撃がフレデリカに軽い悲鳴を上げさせる。
「戻るまで待っていてくれるかい?」
これまでもこうして急に仕事が入ったため交歓の途中で止めることは何度かあった。
その度にフレデリカは「仕方ないですものね」と苦笑しながら
夫を部屋から送り出していたのだが、
このとき、どういう訳かフレデリカはその日に限って
ヤンを部屋から送り出したくない気分になった。
「いや…よ、もう少しだけ一緒にいて」
立ち上がりかけるヤンに縋り付き、
自分の愛蜜で濡れたヤンのものに指を絡ませる。
「く……! ふ…、フレ…デ…リカ、駄目だよ」
「もう少しでいいから…ねぇ、お願い…」
顔を近づけ、そそり立つものの先端に唇を触れさせた。
「…ぁ!」
フレデリカの意外な行動にヤンの眉根が寄った。


知識としては知っていたが一度も試したことがなかった動作。
それまでヤンからそうして欲しいと言われたことも無かったのに、
フレデリカは夫をその場に引き止めたい一心で
何度もヤンのものに自分の唾液を唇でなすりつける。
このまま一緒にいたい。でも送り出さなければ。
理性と強欲の間で感情が揺れ動くが、
数刻の後に無常にもヤンは強引にフレデリカの身体を引き剥がした。
「いい子だから待っていてくれないか。
 戻ったら君も十分満足できるようにしてあげるから」
「本当に…?」
「ああ、約束する」
舌を絡ませ、息苦しくなるほどの口付けをする。
しかし、口付けだけでそんなに息苦しくなるものだろうか、
フレデリカは胸がつかえるほどの苦しさに違和感を感じながらも笑顔を作る。

「少し疲れただろう? 君はゆっくり休むといい。
 みんなには私から言っておくよ」
そう言ってヤンは床に散らばった衣服をまとめて抱え、
ドア付近にある開閉スイッチを──ハイネセンの自宅にいると思っていたはずなのに、
いつの間にか辺りの景色はイゼルローンで使っている部屋のものに切り替わっていた──押して、
振り返りざまに笑いながら手を振って。
今あの人をここから、この部屋から送り出してはいけない。
あの人がこの部屋を出て行けば、もう会えないかもしれない。
瞬間的にフレデリカはそう思った。
そう思ってはいてもなぜかフレデリカの身体は動くことができず、
せめて声に出して夫を引きとめようとするが。
その言葉を口に出すより前に、ヤンはドアを閉めて寝室から出て行った。

しばらくして、ドアチャイムの音が聞こえた。
何か忘れ物でもしたヤンが戻ってきたのかと思った。
高揚する気持ちを抑えながら、
慌てて着替えてドアロックを解除する。
部屋に入ってきたのは自分の待ち人ではなく、
微妙な表情を浮かべている軍服姿のユリアン・ミンツだった。
「フレデリカさん…」
彼は何か重要なことを伝えようとしているのだが、
どう伝えればよいのか迷っているようでそれきり口を開こうとしない──。





「!」
その瞬間、フレデリカはベッドから飛び起きた。
額にはじっとりと汗が滲み、息遣いは荒くなっている。
「またあの夢…」
本当のことをいえば「夢」という表現はいくらか間違っていた。
宇宙暦800年5月下旬、イゼルローン要塞の居住空間の一室で、
確かにフレデリカとヤンは夫婦ならではの方法で深く愛し合っていた。
それを夢で見たのと同じように途中で中断を余儀なくされ、
ヤンが戻ってきたら続きを、と彼女はヤンの帰着を待っていた。
しかし、同年6月3日に戻ってきたヤンはその瞼を開いてフレデリカを見ようとはしなかった。
指先で触れた唇は部屋を出て行く直前にキスした時と比べると、
まるで氷に触れているかのように冷たかった。
それきりフレデリカはヤンとの約束を果たせなくなってしまったのだ。
以来彼女は幾度もその日のことを思い出し、
ついには夢の中でまでも行為の続きを願うようになる。
しかし、夢は夫が部屋を出て行くところで必ず途切れ、
その後ユリアンが訪ねてきたところで目が覚めてしまう。

ベッドに誘われるまでのきっかけはその夢によって違うが、
既に結果が分かっている夢の中で何度もフレデリカは夫を部屋に引きとめようとした。
熱烈なキスを繰り返したり、挑発的なポーズを取ってみたり、
強引に押し倒して自らがヤンを受け入れる体勢をとってみたり。
時には自分の衣服をロープ代わりにして手首を縛り、
自由を奪った状態でその場に拘束しようとも試みたが、
どういう訳か夫はその度ごとにフレデリカの「拘束」を器用にすり抜けて
部屋を出て行ってしまうのだ。
夢の中ですら思い通りにならない願望にフレデリカの苛立ちが募る。
また行為半ばで中断されて、目が覚めてからも火照る身体を
フレデリカはすぐには冷やせずにいた。

両手で自らの肩を抱き、
「あなた…」
愛しい人の呼称を呼ぶ。
返事がない。返ってくることがないことはよく理解している。
分かっているのに呼ばずにいられなかった。
張り詰めた乳首が切ない疼きを腕に当てて伝えてくるが、
それを鎮めてくれる人物はそこにはいない。
手をずらして、ブラジャーの代わりに押し当ててみる。
「……ん…」
指の間に挟まった突起が触ってくれと言わんばかりに自己主張している。
そのまま間隔を狭めてくん、と上に引っ張った。
「あ……ぅ…」
そのまま手のひらを回して、重たいバストを優しくマッサージする。
そうして胸を揉みながら、
その人がもう片方の手で脇腹や腰を撫でてくれたことを身体は覚えている。
そのときと同じようにフレデリカの両手が自分の身体を這い回す。
意図的に避けていた部分に触れたときには、
その手は自分のものであって、またそうでないような感覚を覚えた。



寝巻きの中に手を滑り込ませ、下着の奥で息づいているその部分に直に触る。
くちゅ、という濡れた音は夢の影響で欲情していることを物語っていた。
そのまま指先を敏感な突起に押し付ける。胸元の小さな突起をきつく摘む。
「ん、くぅ! あ……なた……」
これが根本的な解決にならないことは分かっているのに、
「…は……ぅ、……んっ」
自分で自分を慰めることがどれだけ空しいことか理解しているのに、
「あなた……ぁっ、……んぅ……!」
それでも両手の動きを止めることができない。
そればかりか両脚はだらしなく開いて太腿だけを擦り合わせ、
軽く膝を立てて腰の動きを誘発させている。
上体は反り返って頭が左右に揺れ、いまにもベッドに倒れそうな体勢。
犬のように荒い呼吸がフレデリカの耳管を塞ぐ。

そのうちドサリと音を立ててベッドに崩れ落ちる。
スプリングの効果でフレデリカの身体は何度かバウンドした。
「ひ……あ、ああっ!」
瞬間、跳ね返りが指先の力を強めてしまい、
フレデリカの源泉から粘性の無い液体が勢いよく吹き出す。
それでも本能は満足していないのか、
彼女の指は源泉の奥にある蜜を探るべく押し込まれようとしていた。
「……ふ、……は…ぁ…」
そろそろと体内に収まっていくフレデリカの人差し指。
奥に進ませるたびにフレデリカの喉から甘いため息が零れ落ちる。
腕を伸ばしきってそれ以上入らないところまで推し進めると、
今度はゆっくりと引きずり出した。
「あ、あぁ……! あ…は……んっ」
そのまま出し入れを繰り返し、蜜を掻き出すフレデリカだったが。

「ぁあ……ん、ぃや……いやっ……」
片手はきつく胸を掴み、もう片方の手は
自分の身体の中で最大の悦楽を導いてくれる部分を穿っているのに、
フレデリカの首は左右に振られる。
「やぁん、……いやっ、あ……ん!」
足らなかったのだ。その穴を塞ぐために使っているその指の太さが。
「……んぅん、ああ、も……とぉ……」
届かなかったのだ。強い快感をもたらしてくれる場所に対してその指の長さが。
両脚を大きく開き、腰を持ち上げ、
痛いくらいまで腕を伸ばして根元近くまで押し込もうとするが、それでも足らない。
少し躊躇したがフレデリカは中指をも入れてみる。
「ひ、ぃぃっ!」
太さはなんとかそれで収拾がついたが、長さにはどうすることもできない。
フレデリカの頭の中に、蜜壷の奥を刺激してくれた人物の顔がちらつく。
指先をばらばらに動かすことで我慢することにし、
「…ぁ、く、…ふう…! ぅん……あっ!」
到達点を望むべく腰を、指を、緩急をつけて動かす。
もう片方の手で出入りしている指の近くの豆粒を転がした。
「ぁあっ…、はぁぁん…!」
そのまま追い込みをかけ、両手の動きを激しくする。
「っああああああッ!」
頭の中が白く染められ、直後強張っていた身体が少しずつ弛緩していく。
その瞬間、フレデリカの頭によぎった人物の笑顔は。
「……あぁっ、は…あああ、…あふ…ぅ…」
彼女を最もよく知っているはずの男のものではなかった。



      

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