「ただいまぁ〜」
酷く疲れた様子で宿泊先に到着するルルゥ、セリン、アリス、ミナホの一行。
そこには、普段よりも数倍難しい表情で椅子に腰掛けるダグラスが居た。
「・・・ん、お前達・・・何処に行っていた?」
ルルゥ達を目の当たりにしても、その強張りが抜ける事は無い。
「あ・・・えっと、坊ちゃんとセリンちゃん、それとアリスちゃんが待ち時間に冒険へ出てて・・・
 それを迎えに行ってました」
その表情に目を合わせたルルゥは、僅かに萎縮してしまう。
それ程、滲み出る迫力がダグラスにはあった。
「そうか・・・
 ん、アルはどうした?」
ざっと見渡し、メンバーを引率出来るであろうアルが居ない事に不思議さを感じたダグラス。
それに、場の空気を気にしない陽気さでミナホが説明を始める。
「あの坊ちゃん、モンスターとの戦闘で日和って怪我してしもうたよ」
「わ、私達が、お兄さんが寝ちゃっている間に、病院に連れて行きました・・・」
それを聞き、やっとほんの少し、表情が緩んだようだ。
「そうか・・・
 あいつも、無茶をするようになってきた・・・」
言葉とは裏腹に、浸っては居られないという表情。
「それはさておきだ、皆に話がある。
 そうだな・・・ミナホも商人の端くれなら聞いておいても善いかも知れんな」
突然自分の名の挙がったミナホはきょとんとしつつ呟く。
「え・・・なんやろ・・・?
 って端くれってウチは将来大商人になる資質を」
「とりあえず、全員座れ。
 落ち着いて聞けるようにしておけ」
「・・・・・・」
このままでは流され癖が付いてしまう、と妙な危惧をしつつも、ダグラスには逆らえない様子のミナホ。
不服そうな顔で渋々と椅子に着く。
「さて・・・何処から話したものか。
 ・・・まあいい、単刀直入に言う。」
言いつつも、視界の端に入るルルゥの様子をちらりと探るダグラス。
そして一呼吸置き、普段とあまり変わらない、低く響く声で語り始める。


「アルの実家、シュトルハイム家の話だ。
 商売の世界では知らない者は居ないこの名家で、人身売買が行われている事を突き止めた」
「え・・・」
「人身・・・売買?」
アリスとミナホは信じられないと言った表情で、ダグラスの言葉を反芻する。
「・・・・・・」
ルルゥとセリンは、同じ様に黙ったままだが、多少ニュアンスの違う表情でやや俯く。
ルルゥは悔恨の、セリンは殺気すら漂う、鋭くしかし冷静な表情。
各々の動揺を確認してから、ダグラスは続ける。
「俺はとある組織からの依頼で、シュトルハイム家に侵入した。
 そして、屋敷での惨状を目撃した」
淡々と、見た出来事だけをそのまま言葉にしたようなダグラスの語り口。
「クスリで操作された戦友、捕縛された少女達、そして蹂躙された様」
恐らく、目撃した事で色々思うこともあったに違いない、が、彼は無闇に感情を露わにする事は無い。
自分が私怨で動いている事へ対しての戒めだろうか。
「幸か不幸か、シュトルハイム家頭首であるペドル・シュトルハイムは在宅していなかった。
 ・・・俺は、ペドルに復讐する為に、血眼で情報を探してる、アルもまた・・・
 だから俺はアルと共にヤツを倒す、だが、若しあの場に居たなら・・・俺は斬ってしまっていた」
ここで初めて、自分の強い想いを外に覗かせた。
「・・・・・・」
感情に乗せて口を突いた言葉を振り返り冷静になったダグラスは、ゆっくりと話を続ける。
「・・・兎に角だ、俺がヤツに一太刀を浴びせるのは容易い、だが、それでは駄目だ。
 それではアルの復讐にはならん、俺だけの身勝手な復讐になる。
 だから、俺はヤツの計画を暴き、失脚させる事を復讐にしようと思っている。
 害を被った者の為にも、アルの為にも」
殺すのでは無く、地位を奪う事による復讐。
「肉親が殺害される様は、それが如何な非道を行った者だとしても耐え難いものだ。
 だから、俺はこの道を選ぶ」
そして、全員を見回し、鋭い目で言葉を投げ掛ける。
「・・・改めて、お前達に訊く。
 復讐を企てる者が居ても尚、この集団に身を置いてくれるか?
 その手を、貸してくれるか?」
その決意の篭った強い言葉に、四人は息を飲む。
「・・・・・・」
暗い沈黙。
それを真っ先に切り裂いたのは――
「私は・・・帰る所・・・シュトルハイム家とは、今やもう何の繋がりもありません。
 今のお話を聞いてしまったら、尚更、戻る訳には行きません。
 ・・・もう私には、ここに・・・鋼の騎士団しか、心も、身体も拠り所が無いんです・・・
 ダグラスさんが、坊ちゃんが、何を思って何を為そうとしても、私は・・・
 私は、皆を信じた私を信じて協力します・・・!」
劣らず、臆さず強い表情でダグラスを見詰めるルルゥ。
「いいのか?
 お前が昔、共に暮らした使用人も、用心棒も、総て敵だぞ」
それを跳ね返さんばかりの強い意思をルルゥにぶつけ返すダグラス。
その言葉を飲み込むと、びくっと身体を震わせ、暫し思うルルゥ。
「・・・覚悟は、出来ています・・・
 私なんて、坊ちゃんに比べたら・・・」
きゅっと唇を噛んで様々に思考を巡らせる。
「私は、ルルゥが居るなら居るわ」
悩み始めたルルゥの背中を押すように、セリンが無表情に言う。
「セリンちゃん・・・」
「大丈夫、私は何時、何があってもルルゥの味方。
 何処にだって、付いて行くわ」
口元の両端を僅かに上げ、ぎこちない笑みを見せるセリン。
「あ、アリスも・・・アルお兄さんに付いて行くって、決めました・・・
 な・・・何の役にも立たないけれど・・・
 あ、アリスも、お父さんが、悪い事をしているのなら、止めたいって、思うと思いますから」
必死に、自分の意思を伝えるアリス。
言葉は確かに拙いが、強く自分を出そうとする姿に、ダグラスは納得したように頷いた。
「ミナホはどうだ?
 お前は鋼の騎士団のメンバーではない。
 よって、俺が望むのは時々でもいいから、協力はして欲しい。
 無論、団に来てくれればそれ以上の事はないのだが」
虚空を見詰めたまま考え込んでいる風のミナホ。
やがて、ゆっくりとダグラスの方に向き直り。
「んーん、ウチはやっぱり、サポートって感じで行かせて貰うわ。
 ウチには一匹狼がお似合いやし・・・
 アンタ達の事は嫌いやないし、情報収集くらいの役には立ってやるさかい、寂しがらんでもええよ」
最後の言葉は、自然とアリスに向けて放っていた。
「ミナホさん・・・」
「うむ、それだけでも俺達には心強い助けになる。
 何かある時には頼りにさせてもらう」
「おう、任せときっ。
 んで、シュトルハイムの後釜は、ウチが引き受けたるさかい、安心して復讐しい」
不敵に笑みを浮かべながら、堂々と言い張るミナホ。
「フッ、頼もしい事だ」
何処まで本気にしているか解らない笑みを浮かべるダグラス。
そして、一息吐いて気持ちを切り替える。
「皆、あんな事実を受け止めた上で良く協力を申し受けてくれた。
 個人的な感情で動くのにも関わらずに・・・
 本当に、心から感謝する」
そう言い、四人に向かって、テーブルに両手を着き深々と頭を下げる。
それを見たルルゥは、冷静さを失い慌てふためいてしまう。
「そ、そんな、ここは私の故郷みたいな場所ですし、あの、だから・・・
 私は、当然の事をするだけであって、お礼を言われる事なんて・・・
 ああ、頭を上げてください・・・っ」
頭を下げる事の重みを良く知るミナホも、流石に居たたまれないのか、説得を始める。
「そ、そやで、ほんまアンタ達には世話なってるし、気にする事なんかないねんで?」
「そ、そ、そうですよ・・・え、ええと・・・うぅぅ・・・」
アリスに至っては、ただオロオロするだけで、何も言えずにいた。
それ程、この豪傑が頭を下げる事の意味は大きかった。
「・・・頭を上げて、ダグラスさん。
 私達も皆、何かを背負って生きているわ。
 貴方の行動に依存する訳じゃなくて・・・皆、各々の為すべき事もこなそうとしているの。
 だから、貴方だけに利益がある事ではないの、それを解って。
 解った上で、私達を信頼して欲しい。
 皆、貴方を慕っているのだから」
初めてセリンが口にする、心からの活きた意思。
或いは、この環境下で生まれた”情”とでも言うものなのかも知れない。
口調こそ冷静だが、その裏に込められた柔らかさは、彼女を知る者ならば感じ取る事が出来た。
「・・・・・・」
ダグラスが、ゆっくりと顔を上げる。
はっきりとは見えないが、心なしか目元が潤んでいる様にも見えた。
「ありがとうな・・・
 本当に、感謝している」
言い終えると、顔を引き締め直し、勢い良く告げる。
「これより、鋼の騎士団はシュトルハイムの不正を暴くべく活動していく。
 メンバー並びにミナホ、サポートをよろしく頼む」
「はいっ!」
「了解」
「が、頑張りますっ」
「任しとき!」
それぞれ、ダグラスの言葉に力強く応えた。
「俺は、何があってもお前達を信じるぞ」
言うや否や、背を向けドアに向かう。
溜まった恥ずかしさがここに来て最高潮に達した様だ。
「・・・以上だ。
 俺はアルの様子を見てくる。
 今日の所はゆっくり身体を休めて欲しい」
そして、宿を出て足早に病院に向かう足音が響いた。


ダグラスの気配が宿から無くなると同時に、セリンがルルゥに話しかける。
「ルルゥ、これから気の抜けない戦いが多くなると思うわ。
 貴方はまだ未熟・・・覚悟は出来ているようだけど、くれぐれも用心して」
労わるように、それでいて厳しい言葉。
「うん・・・私もそれは予想してた。
 これからもっと、戦いの事も積極的に勉強するよ、私」
燃える瞳で熱く吼えるルルゥ。
「うん・・・私は白兵戦のことは全然ダメだけれど、私に助けられる事は何でも言って。
 出来る限りの事はするから」
他では見ない柔らかな雰囲気で語りかけるセリン。
「ありがとう、セリンちゃん。
 セリンちゃんには助けられてばっかりだね・・・」
「ううん、構わないわ。
 アリスもね、魔法の事で解らない事があったら何でも訊いて頂戴。
 もう私達は、他人ではないのだから」
「あ・・・
 は、はい、セリンお姉さん!」
他人ではない、その一言はアリスにとって何よりも強い心の活力になった。
実の姉に言うような信頼が見て理解できる。
「ふぅ・・・なんや、お姉さん立場、奪われてもうたな・・・
 それやったら、ウチは独力で色々掻き集めて来るわ」
やれやれと頭を掻きながら少し残念そうに言うミナホ。
「あ・・・ミナホさん、もう行っちゃうんですか・・・?」
「ああ、そんなにぐずぐずしてられる程大人でもないしな。
 大丈夫、いいネタ、土産にまたここ来るさかいに」
サムズアップで自信満々に言うミナホ。
彼女の自信満々な態度は、見る者に希望を与えるほどに逞しく、力強かった。
「ミナホさん、頑張ってね。
 私達に出来ない事、出来るのはミナホさんだけだからね」
こちらも、サムズアップで返す。
貰った自信を証明しているようだった。
「き、気をつけて・・・お互い無事で、また会いましょうね・・・?」
「おう、当たり前や。
 ・・・もっと胸張り、女は堂々としてなな!」
まだオドオドが抜けないアリスにも、気楽なウィンクを見せる。
「・・・はいっ」
ミナホの笑顔につられて、アリスも最後には笑顔で応えた。
「・・・・・・」
黙ったままのセリン。
しかし、ミナホと目が合うと、無表情のまま、しかししっかりしたサムズアップを贈る。
力強く頷くミナホ。
お互い、何かしら認める部分はあるようだ。
「ほな、行くわ。
 アンタ達も、しっかりな」
そう言い、振り返らずに宿を出て行く。
「これから・・・始まるのね。
 私達の、本当の戦いが」
呟き、そっと窓に目をやるルルゥ。
窓から差し込む陽の光は、雲の多いプロンテラ上空から鋼の騎士団だけを照らすように、
ひっそりと、しかし眩しく輝いていた。





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