こんな別れがくるのなら、『いつか』などと言うのではなかった。あのとき、泣いて請えばよかった。最後までして欲しいと。理解のある女を気取るのではなかった。
彼のかかえる闇が何かわかった今はわかる。私が……泣いてすがっても、最後の一線を越えることなどなかったのだ。
『このままおれのとこにくるか? 攫っちまいてェくらい、おまえに惚れた』
嬉しかった。海軍なんかどうでもいいと思った。所詮、巡視船の少尉、しかも全滅したと思われていた部隊だったから、私一人いなくなっても誰も気にしない状況だったのに。
エースの本音だと思ったけれど、私の中に入ることを禁じている人と一緒にいて、私よりもエース本人が苦しむことになるのではと思った。だからこそ、別れを受け入れたのに……。いつかに願いを託したのに……。
いつか、また巡りあえる、と信じていた。
生きている限り、きっと、エースは会いにきてくれると信じていた。
けれど……もう遅い。
どうして、この可能性を考えなかったのか。永遠の別れ、死別……こんなことになるくらいなら、嫌われてもいい、苦しんでもいい、苦しませてもいい、無理やり、ついていけば良かった……。
エース、私は非力だ。海軍にいるのに、処刑の場にいくことすら叶わない。
楽園は確かに存在したのだ。
あの場所は私の死に場所になるはずだったのを、エースが楽園にしたのだ。それを……図らずも捨ててしまったのは、私だ。
終わりのある楽園か。違う、そうではない。エースのそばにいさえすれば、どこでも楽園だったのだ。それに、どうして気がつかなかったのだろう。
海軍少尉としての誇りなど、エースの命に比べれば、くだらない。海賊であろうがなかろうが、私はエースというただの男に惹かれたのに。
『いつか』
はっ、バカバカしい。ただの逃げだっただけではないか。抱かれたかった、もっと深く抱かれたかった。受け入れてがんがん突かれて最奥に放って欲しかったのだ。エース本人が苦しむんじゃないか……詭弁だ。なによりも、私が怖かったんだ。一生、中に入られず終わるのが怖かっただけだ。
別れのとき、海軍であることと海賊だということに囚われた結果がコレか、情けない。目に見えるものに囚われ、何も見えていなかった。甘かった。甘っちょろい生き方を選んでしまった。
何もかも、今さらだ。後悔して、それで何が変わるというのだ。何も変りはしない。
愚かな女に成り下がったのなら、愚かでいい。意地もプライドもなにもいらない。もはや、必要のないものだ。
それならば、行くしかない。楽園にたどりついてやろう、何を犠牲にしてでも。
2010/2/21
*注意 次の話は火拳以外との絡みが入ります。火拳以外はイヤだよ〜な方は、トップに戻って、10話に進んで下さい。