目が覚めたら、あちこちが痛い。焦げ臭い匂いが鼻をついた。
「目〜覚めたか? 」
「ああ、いったた」
頭を振ったら、肩がひどく痛んだ。
「一応、手当てしておいたが、しばらく痛むだろうよ」
「ああ、ありがとう」
「明日、手ごろな島に送ってやる」
「……お別れだな」
「そんな顔するな」
「どんな顔だというんだ」
「抱いちまいそうになる顔」
「……バカ」
この期に及んで何を言い出すんだ、この男は。抱いてと懇願すればいいのか、もう一回拒絶されたら、プライドずたずただぞ。
ぽろぽろ涙がこぼれた。そんな私を抱き寄せ、滴る雫を舌が舐めとる。
「黙って抱かれてろ。ああ、最後まではいかねェよ。おれの血筋がそれを許さねェからな」
その言葉だけで、十分だった。
「おれのおふくろはな、おれを腹の中にずっと置いといた。血筋だと知られねェようにしたかったんだろう。そのせいでおふくろは死んだ」
火拳の手が素肌をさらけだしていった。言葉とは裏腹に、私を求める火拳の肌は熱い思いを伝えていた。
「このままおれのとこにくるか? 攫っちまいてェくらい、おまえに惚れた」
火拳の口からこぼれた言葉は、私を喜ばせた。一瞬で開放された。
唇が何度も火拳の唇でふさがれ、耳が火拳の言葉をとらえ、心にともった情熱が私を攫っていった。荒々しいキスに息がつけない。体が火拳を求めて火照る。恥ずかしいほどに。
火拳の体も火照っていた。重なり合う肌が熱い。それでも、火拳が私の中に入ることはなかった。
『おれはガキが欲しくねェから。責任のとれねェことはしない主義なんでね』
中に入れることだけが、愛の行為ではないと身をもって教えてくれた。
何度目かの高みで、私は意識を飛ばした。薄れ行く意識の中、背中で火拳が爆ぜたもの感じた。
◆
清潔なシーツにくるまれて目が覚めた。いつのまにか、島に運ばれたようだ。
「よぅ、起きたか? 大丈夫か? 」
「ああ、どれくらい……」
「三日、寝っぱなしだ。熱が出てな……もう大丈夫みてェだな」
かすれた声に驚いた。軽く喉を鳴らすと、火拳が水の入ったコップを差し出した。
受け取ろうとしたが、手が思うように動かなかった。寝すぎでしびれたようだ。
困った顔をしたら、火拳はニヤッと笑い、水を自分の口に含んだ。まさか! と思ったら遅かった。火拳の唇が合わさり、生ぬるい水が流れ込んだ。はふっと息が漏れた。そんな私に火拳は眉をあげ、もう一回? と目で尋ねた。
「自分で飲める」
「残念」
頬が火照る。なんて甘い誘惑をいともたやすくこの男はしかけるのだろう。
火拳の手が火照った頬を軽くなぜ、額をおおった。
「まだ、熱あるな」
「そう、頭はすっきりしてるが」
「うんうん唸って、心配したんだぜ。おれのせいだしな。無理させたな。すまん」
ばっばっと、意識を飛ばす前のことが脳裏に浮かんだ。途端に頬が燃えるくらい熱くなった。
「おいおい、また熱あがったんじゃねェ? 大丈夫か? 」
「……」
恥ずかしくて思わず、布団に顔をうずめた。とてもじゃないが、まともに火拳をみれない。
「首まで真っ赤だぜ。」
からかう口調に、頭がついていかない。
「ああ、そうだ。シャワーあびてもいいってよ。医者が言ってたな。一緒にあびる? 」
そんなことを言われたら、ますます顔をだせなくなるではないか。
「? 」
「お、おかまいなく」
「あっそ、じゃあ遠慮なく」
がばっと布団をはぎとられ、抵抗するまもなく抱き上げられた。
「ぎゃっ! 」
「暴れるなって」
じたばた手足を動かしたが、火拳の力強い手は私を離さない。お姫様抱っこ、そりゃ憧れてはいたが、実際やってもらうのは嬉しいが状況が不味いだろう。
一緒にシャワーなど、できるわけない。もうパニック、頭はショート寸前だ。
「っと、シャワーあびたいだろ。終わったら呼べばいいからな」
火拳は脱衣室に私を残し、さっさと出て行った。ほっとした。どうやら一緒にあびるというのは冗談だったらしい。
鏡に映った自分の姿は、なんだこれは!? と驚いた。
長かった髪は所々焦げたせいで不揃いになり、シャープだった頬はシャープどころかげっそりとこけていた。
体中を覆う包帯にうんざりした。どうやら私を診察した医者は大げさに包帯を使うタイプだったらしい。
どんだけひどい傷を負ったんだろうとびくびくしながら包帯を解いたが、目を見張るほどの傷はなかった。そりゃそうだ。ひどい傷があったら、あんな激しい行為は出来なかっただろう。
また思い出してしまった。火拳の指がどれだけ私に出入りし、その度に……マズ。ダメだ。思い出したら、体が火照るどころか、恥ずかしすぎて……興奮しすぎて、鼻の奥がツンと痛くなってきた。鼻血がでたら、洒落にならんだろう。
さっさとシャワーを浴びてしまおう。焦げ臭い匂いと自分が放つセックスの匂いに耐え切れない。
2010/2/19