The Wind of Andalucia    〜 inherit love 〜

9. ログ



甲板で佇むを、島に漂う甘い藤の香が包み、郷愁を誘う。
    この島の気候はアンダルシア王国によく似ている。
    バルドーの屋敷の藤棚は、今も見事に咲き誇っているのだろうか。
    母王女を偲び藤棚で瞑想するバルドー

バルドーの面影が脳裏に浮かび、やさしくに微笑みかける。
    あぁ……バルドー
    あの時、何故バルドーは「国へ帰らない」と言った私を、諌めなかったのだ。
    考えても分からない事が、私にはありすぎるな……
    私は、バルドー……やっと、帰るよ………

の顔に、微笑みが浮かんだ。自分の心に「国へ帰る事」への迷いが無く
郷愁の思いと、今やるべき事から「逃げない」と、言う事の出来た自分が嬉しかった。




ナミが出港の采配を振るう中、考え事をしていたロビンが、ナミに話しかけた。
「この島のログは、溜まったのかしら。航海士さん」

「えっと、あと半日ってところネ」
どうしてそんな事を聞くのかという顔をナミは見せた。

「まだ、出港できないわネ」
眉間に幾分しわをよせ、に困ったわネといった意味合いの視線を、ロビンは投げ掛ける。

ロビンの言わんとする事を、感じ取ったが説明を始めた。
「あぁ、アンダルシアはログの溜まりが遅く、一ヶ月かかる。
 国でどういう状況に陥るのか、わからないのだから、
 この島のログが半日で溜まるのならば、出港は待ったほうがいいだろう」

一刻も早く国へ帰りたいであろうに、表情にも声にも出さず
アンダルシアからGM号が動けなくなる事態に備えようと、淡々と話した。

自分の事で精一杯のはずなのに、クルーの事をも心配するの態度に、ナミは胸につまるものを、覚えた。

「そうね。まぁ男共は、ほっといて女三人で作戦を練りましょう」
にっこりと、、ロビンに笑いかけ、ナミは出港を遅らせる事を告げに行く。

「ねぇ〜〜〜みんな!ログの溜まるまで半日あるから、出港を遅らせるわ!各自…」
ナミの声を遮って、ルフィが飛び込んできた。

「なぁなぁなぁ、ナミ!オレ行ってもいいのか」
昨日、ナミの言い付けを守り、みんなが帰るのを辛抱強く待っていたが、誰も帰らず、島に降りれなかったルフィ。
うずうずと湧く冒険心を、キラキラと輝く瞳とそわそわと揺れる肩に秘め、ルフィが尋ねる。

「はいはい、ルフィ…。んっとにもう!あのバカ!!!!」
ナミの注意を聞こうともせずに、ルフィは鉄砲玉のように、すっとんで行った。

「半日か。まぁ海軍もいねぇみたいだし、大丈夫だろ、ナミさん」
声に苦笑を滲ませて、サンジはナミを安心させる笑みを向けた。

は、ちらりと目に入った光景に、胸がちりりと痛くなり、どうして痛いのか、自分に問うが分からず、
「アンダルシアに早く帰らなくては」と、焦る心のなせる業なのだと、自分に思い込ませた。



新聞を見るかぎりで得た情報は、
ラーズグリフ王が亡くなったと共に、タイミングを計ったかのように、
行方不明の殿下が兵を率いて上陸し、行方不明になった時点で「王位継承権放棄」と、みなされた事を不服とし
「正統な王位継承のため」に、派の重臣民衆を巻き込み、王宮に攻めつつある。
としか、書いておらず、くわしい情報とは言えぬものだった。

「あーもう、とりあえず、アンダルシアで情報収集しつつ、動くしかないわね」
作戦の立てようが無い事に、ナミがサジを投げ、サンジにお茶の催促をした。

グラムオブハートと皇太子の証がこちらにある限り、自分が「本物の殿下」である事を示すのは容易いが、
バルドーしか信頼できる側近を持たなかったは、頼るべき人物も思い浮かばず、状況も読む事ができず、
アンダルシアについてから考えるしかないと言うナミの意見に賛同するしかなかった。

焦る心がの表情をわずかに曇らせる。
    焦っても仕方ない。アンダルシアで、この人達にもしもの事があったら、
    私は、自分を許せなくなる。
    もうすでに、私のわがままのせいで、国で命を落とした者もいるであろう。
    今、私にやれる精一杯の事を、考えよう。

ナミ、ロビンに、お茶の給仕をしていたサンジは、離れた所で考え込んでいる物静かなを見ていた。
ナミに一言二言、何かを言い、サンジはの元へやってきた。

ちゃん。ちょっと、付き合えヨ」
ドスコイパンダのピンクのエプロンをはずしながら、サンジはにっこりと笑いかけた。

何、という顔を向けながら、このまま船で焦れていても仕方ないかと、気分転換のつもりで、
サンジの後を追い、二人で街へ出掛けた。



島の大通りに立ち並ぶブティックを、ウィンドーショッピング。

「おっ!あれ似合うんじゃねェ」
「うっほっ!!すげェ〜あれ買うか?」
アンダルシアの事に触れず、ただ服を選ぶ行為だけに専念するサンジ。

たまに見せる、女性の下着へのこだわり、ラブコックモードになるサンジに呆れ
いつしか心からは笑っていた。



さびれたよた者しか集まらない酒場に、傍らにきつい香水を纏った売春婦をはべらせ
白いマントを纏った男が、口角に泡を滲ませ、どんよりとぬめる目で、目の前にたむろする
昨日、サンジとを狙った男達を、睨みつけている。

「まだ殿下は見つからんのか!!!」

男の口角から、呑みきれなかった酒が、たらりとだらしなく滴り落ちる。
真横に座る売春婦の舌が、それをからめとっていく。売春婦の舌をうるさげに避け
男の手は、ドレスの下の乳房を弄る。嬌声に喘ぐ売春婦の姿に、喉をごくりと鳴らす男達。

「はい。昨日、あの一緒に居た金髪の男は見つけたのですが」
しどろもどろで、サンジとドレス姿の赤い髪の少女の事を、報告する人相の悪い男達。

きらりと、意地悪く光る男の目。
「ほう、お前達はまぬけか。その少女は殿下の変装であろう。
 さっさと連れて来い!!それが殿下でなくとも、金髪の男が鍵を握っている」
二人のどちらかでも捕まえてこいと、口汚く、男達にののしりの言葉を吐きながら白いマントの男は命じた。

さびれたすえた匂いのする酒場に、そぐわない服装。
あきらかに、命令する事に慣れきった声。

「くっくっくっ。あのお方のお待ちかねの品、もうじき手に入りそうだ」

握り締めたグラスの中の酒が、男の笑いを受け、ゆらゆらと不吉に揺れた。
もう一方の手は妖しげな動きをくり返し、酒場に淫靡な匂いが立ち込めた。



その頃、サンジとは、ウィンドーショッピングの結果、
この島の衣服はアンダルシアでも通じる物があり、アンダルシアでのクルー達の服装を、
カモフラージュする事の出来る物などを買い、おまけに何故か、サンジの見立てで、
新しいドレス、下着なども買い、二人は嬉々とした表情で軽やかなステップで、帰路についていた。

の周りに甘い風が舞う。後から強い風が吹きつけ、昨日から結んでいないの髪を
吹き上げの視界を遮り、陽にさらされたことのない白いうなじが、サンジを誘う。

目を奪われたサンジは、荷物を取り落とし、何も考えず本能のまま、後から抱き寄せ、うなじに唇を落としていた。

突然のうなじへのキスに、の心は揺れ動き、何も考えれず、サンジの抱擁を解くこともせず
そのまま、サンジの手がを振り向かせ、甘いキスを唇にくりかえすのを、許した。

物陰から二人を盗み見る視線にすら気付かずに、お互いの存在のみに気を取られキスを交し合う二人。


「お〜い、サンジィ〜〜〜腹減った。メシ〜〜〜〜〜」
甘い二人だけの世界に飛び込んできたルフィの声に、ぱっと、サンジの抱擁を解き
赤く染まる頬を抱え、は恥ずかしさのあまり、船へと逃げ帰って行った。

「くっそゴム!てめェ〜〜〜!!!」
本能のまま突き進んだ自分のアホさかげん、いいところで邪魔された怒りが込み上げ
やつあたりの蹴りがルフィに落とされた。
オレ、何かやったかと悪びれないルフィに脱力し、メシをせがむルフィに呆れ
    あのままだと、押し倒しちまうとこだった。危ねェ〜
と、苦笑した。



脇目も降らず、ひたすら恥ずかしい心を抱え、船へと走るの前を昨日の男達が遮った。

「おい!そこの娘。殿下だな!!」

まだ狙われる可能性がある事に何処かで気付いていながら、単独行動をしてしまった
自分の迂闊さを、頭の隅で呪った。

間合いを詰め寄って来る男達を、なぎ払おうにも、腰に携えているはずの剣も無く
男の無骨な手が、にかかる。
汗臭くぬめりを帯びた感触が、の背筋を凍らせた。

「嫌だ!!触るな!!!」
その場にうずくまり、不潔な手から、逃れようとしか出来ない

を掴んだ手が、すっと離れた。

「てめェら!!!しつけェーぞ!!」

はっと、顔を上げたの目に、蒼眼を怒りで染めたサンジと、悪びれないルフィの姿が入る。
嬉々とした表情でルフィの攻撃が出され、その場に居た20名程の男達は一瞬の内に、地に沈んだ。

ちゃん。悪ィ、大丈夫か」
一人にしてすまなかった悪ィなのか、キスして悪ィなのか、分からないが、心配そうに
サンジの手が、やさしくを引き起こす。
背筋に走った悪寒が音も無く消え、甘い心地よさがを包み込む。

     何故だろう、サンジの手はいつも私を安心させてくれる。
理解の出来ない思いが胸に溢れ、ためらいがちな笑みを生む。

「大丈夫だ」

「しっしっしっ、メシ〜」

大した事など無かった素振りでいるルフィに、ほっとする思いで、三人は船に帰った。



さびれた酒場のカウンターで、酒を煽る白いマントの男の元へ、標的に易々と逃げられた事
1億ベリーの賞金首麦わらのルフィの仲間だった事などの、報告がされた。

「何だと!!麦わらの小僧にやられただと!!!」
蛇のような男の目がぬめりを帯びた。

「くっくっくっ。海賊めが……。もう、よい。居場所は分かった。はっはっはっ」

白いマントをひるがえし、男達を引き連れ、GM号の停泊する港へと歩き出した。
邪悪な瞳が楽しげに男の心を語る。言い知れぬ男のぬめるような微笑が、引き連れられた
男達に恐怖を植えつけていった。
    


急いで帰った船で、ナミ、ロビンに遅くなった事を詫び、サンジが大急ぎで作った昼食を楽しみ
後1時間ほどで、ログが溜まるというときに、見張り台で一応の監視をしていた
ウソップの声が、GM号の上に響き渡った。

「オーイ!!敵襲だ!!!!」

満腹の腹をさすり、羊頭の上に立つルフィ。

ラウンジ内にいたゾロ、サンジに、さっと緊張が走り、

「ここから出るな」
一言残し、ゾロは戦闘へと駆け出して行った。

「チョッパーここは、任せたぞ」
「うん。オレ頑張るよ」
「ナミすわぁん、ロビンちゃん。待っててね」
大量のピンクの煙を残し、の頭をポンッと叩き、
蒼眼で、大丈夫だ。安心してろ!と、告げ、サンジも戦闘に加わった。

ルフィ、ゾロ、サンジの三人に敵う相手共では無く、ログもそろそろ溜まったので
そうそうに島を出港する準備にかかるが、諦めず湧いて出てくる敵に
嫌気のさしてきたゾロの視界に、建物の影に潜む白いマントの男が入った。

「しつけェーぞ!!あぁん!!てめェーらが、俺に敵うのか、あん!?」
バシバシッと、剣で叩き切りながらも、あのマントはと、思うところのあるゾロにナミの声がとんだ。

「ゾロ!もう出るから〜〜みんな、海に落しちゃって!」

「………」

指示されるのは御免だが、逆らう方が面倒くさく、ゾロは言われた通りに、つぎつぎと海に落としていった。

「けっ。所詮、雑魚」
スッパーっと、紫煙を吐き、ニヤッと笑うサンジに

「腹減った!!サンジィ〜〜〜〜メシ〜〜」
情けない声で、ルフィが追加ご飯を請求する。

”どこん”とナミの鉄拳が下ろされ、床に沈むルフィに

「「「「また、喰うのかよ!」」」」
と、男4人のツッコミが入り、ルフィらしさに、笑いのとまらなくなったと微笑を浮かべるロビン。

クルー達の上に、甘い藤の香の風が、ざわっと、出港を祝うかのように、吹きつけ
帆をぶわっと膨らまし、GM号は、アンダルシアへと進路を向けた。



  

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