The Wind of Andalucia 〜 inherit love 〜 8. グラムオブハート あたりが、夕闇に包まれる頃、藤の香を身に纏ってサンジとはGM号に戻ってきた。 梯子を目の前には、上る事に多少の躊躇いを感じ傍らのサンジを見上げた。 慣れないドレスにサンダル。先に上がって、下から支えてもらいながら上がれば良いのだが、 ミニ丈のドレス、スカートの中身を何となく気にし、それも出来ずにいた。 「さァ、プリンセス。お手をどうぞ」 サンジはにこやかに手を差し延べる。 サンジがどうする気なのか分からなかったが、躊躇い無くサンジの手に、手を重ねる。 次の瞬間、身体が空に舞い、サンジの肩に担ぎ上げられた。 「きゃ〜〜〜!!!下ろせ!!!!!!」 「あはっはは、我慢しろって!ちゃん。暴れると、落としますよ」 とんとんとんっと、軽やかに、サンジは梯子を上っていく。 「………」 は、羞恥心で頬を染めながらも、落ちるのはイヤだったのでやむなく我慢した。 甲板にとんっと、降り立ち、肩に担いだを大事な宝物のように抱き、ゆっくりとおろして行く。 サンジの肩に担ぎ上げられていた事と、初めてのドレス姿をクルー達に見せる事が照れくさく、 また、どう思われるか不安な心が、を動かし、思わずサンジの影に隠れた。 影からクルー達を盗み見るの顔は、何とも可愛らしく、普段は束ねてある赤い髪が やわらかなウェーブを作り、をますますレディに見せる。 隠れていても、所々見える身体の線と白いドレス。 「ちゃん、隠れてねぇで、出て来いよ」 身を捻り、サンジはの手を取り、自分の前にやさしく引き出した。 徐々に、クルー達の前にドレス姿のが現れる。 「んふっふっ、上手く行ったみたいね」 と、にやつくナミ。 がぼ〜んと、衝撃のあまり呆れ顔の男達。 「すっげ〜〜〜〜〜〜〜!!!きれいだ!!!」 のドレス姿に素直な感想を、ルフィが叫ぶ。 「オイ、なんで女装なんだよ!!」 一瞬見惚れながら、薄っすらと顔を赤らめたゾロがツッコミを入れる。 「オイオイ、手ェ〜〜握ってるぞ!!!!」 ツッコム先をとられて、慌てて他のツコッミを、ウソップが入れる。 「お〜〜きれいだぞ!って、やっぱり!!サンジは男色家なのか!!??」 サンジの態度に薄気味悪いものを感じ、チョッパーが騒ぐ。 「あら、可愛らしいこと」 何となく、は女じゃないかしらと思っていたロビンが、自然な微笑みを浮かべる。 「馬鹿ねぇ〜〜〜あんた達!まだ、分からないの?」 ナミが呆れたように言った。 「なんだ、ナミ?」 「は女の子よ」 ナミが、しれっと言う。 「「「「えェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!????」」」」 「まっ、そーいうこった!」 サンジが紫煙を吐きながら、大した事でもなさそうに、それでも隠し切れない嬉しさのにじむ声で、言った。 「だいたい、あんた達、分かんなかったわけ?少年のわりに細い体つきとか、しぐさとか アラバスタで一人お風呂に入らなかったわけとか」 「「「「おっ!!!!」」」」 それぞれに思い当たるふしのある4人は、ポンと手を打つ。 「それにね、サンジくんがやたら反応してたでしょう。 女好きのサンジくんの目は、誤魔化されなかったって事ね」 うっしっしっ、してやったりという表情を浮かべ、ナミは話をサンジに振る。 「なんだ!サンジ知ってたのかヨ〜」 口と尖らせ子供の様にぶぅぶぅと、ルフィが文句を言う。 「けっ、大方、変な事ばっか考えて、身体が先に反応したって、とこだろうよ。こいつの場合」 ゾロがぼそりと言う。 「「「「うん、そうね!!!」」」 こっくりと頷き、相槌を打つ3人。 「てっめェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ら!!!!!オロス!!!!!!」 びきびきと、青筋を立てたサンジが、ギャーギャー逃げ回る3人を、一人づつ蹴飛ばし、ゾロに向き直った。 「てめェ〜照れ隠しから、じゃれてくんな!!!」 サンジの蹴りを鞘で軽く受け止めはねかえし、すかさず次の蹴りに備えるゾロ。 「上等だ!てめェ〜に言われたくねェえ!!!」 ずばっと図星とつかれ、余計に頭に血が上るサンジ。 「身体がって!!何だよ!!!!こころだよ!!!!先に反応したのわァァァああ!!!」 これだけは許せんっと、叫びながら、ゾロの頭目がけて回し蹴りを放つサンジ。 「あぁん!エロコック!!!説得力ねェぞ!!!」 すっと、しゃがみ辛うじて蹴りをかわすゾロの毛先を風圧が襲う。 「あーーーーーー!!!やめんか!!!うるさい!!!」 「うごっ!!」 「うげっ!!」 うざい喧嘩に、ナミの鉄拳がおちた。ぷしゅ〜と、沈むサンジとゾロ。 「ぷっ!」 耐え切れずに、ロビンが吹き出した。つられて、クルー達全員が笑い出し GM号を楽しげな笑い声が、駆け巡った。 「おぉぉ〜〜〜しっ!!!女の乗船に乾杯だぁぁぁ〜〜〜!!!!」 意味の通るようで通らない宴会が、夜中まで続いた。 は、自分が男であろうが女であろうが、男装であろうが女装であろうが、関係なく 一人の仲間として受け入れてくれたクルー達の気持ちが嬉しかった。 次の日の朝食の席で、 「じゃあ何だ?はおばあさんの命令で、男として生きてきたのか」 ルフィが、満腹になった腹をさすりながら言った。 「でも、変だな。国を出て、王位継承権が無くなったはずじゃなかったのか?」 ウソップが、もっともな意見を言う。 「襲われたんだったな!怪我は無かったのか??」 チョッパーが、心配そうに言う。 「おう、それなんだがよぉ、あいつら、剣がどうのこうの言ってたぜ」 サンジが、今思い出したという顔で言った。 「剣!?って、腰にさしてる剣の事では無いって事よね…」 ナミが、の腰を見ながら言う。 「あれじゃねぇのか?母親の形見ってった装飾剣」 ゾロが面倒くさそうに言う。 「これが、何なのかしら?いわれがあるって言ってたわよね?」 席を立ち、剣を持ってきたから受け取り、手にした剣をじろじろ見て、ナミはサンジにまわした。 「あぁ。この剣の名は「グラムオブハート」我が王家の血筋に伝わる剣だ。 バーリー家の祖先が王制を執った時代から伝わるもので、歴代の王が所有者なのだが フレイヤ王妃は、ラーズ王には・・・・お渡しにならず、私の母上王女に お譲りになられ、今は母上の形見という形で、私が所有している」 「コレのいわれは、其れだけでは無く。伝承なのだが「我、手にし光り輝く者、真の王者なり」 といった碑文があり、本当の所、私が所有者というのは、おかしいのだがな。 随分、この剣を振るったが、私には使いこなせなかった」 「んっ、ウソップ、ここはずせねぇか?」 じっと、魅入っていたサンジがウソップを呼ぶ。 「どれどれ」 ごそごそと、剣の柄飾りを調べる。こりっと、微かな音がして、赤い宝石が外れた。 「ん?何か入ってる」 取り出された物は、銀製の「小さな王冠を抱いたライオンの紋章」 「こっこれは、皇太子の証。どうして…ここに……」 は唖然とした顔で、呟いた。 「って事は、狙いは、コレね」 「それだけじゃないわね、航海士さん。これを見て、さっき街で手に入れた、最新版の新聞よ」 アンダルシア王国、ラーズグリフ王、ご逝去。 殿下とライル王子、王位継承争い…… 国民の犠牲の上に、新権力…… 「まさか!!」 他国を訪問中の船の上で襲われ、自分自身の存在が争いの生む事に嫌気がさし、そのまま バルドーと共に出奔し、もう争いは起こらないであろうと、高を括っていた自分の甘さに愕然とした。 「どういう事だ?」 「がここにいるのに、争いがおきるなんて、おかしいじゃない?」 「察するに、偽者の王子がいるっつーこったな」 「おっ!マリモのくせに、鋭いな」 「けっ!てめェに言われたくねェ」 「あーー!!うるっさい!!!」 「は、どうすんだ!?」 めったに見せない真剣な声で澄んだ眼で、ルフィがを見据える。 ルフィの声にはっとしたクルー達の眼が一斉に、に注がれた。 「私は…」 を真剣に見つめるサンジの蒼眼が、答えを言わせる。 「私は、もう逃げない!」 サンジの蒼眼から視線をはずさずに、きっぱりと言い切った。 「しっしっしっ、そっか」 途端に、くっしゃっといつもの笑顔を見せるルフィ。 「偽物ってのが、気になるな」 「皇太子の証があるつーことは、まだ、狙ってくるな」 「どっちがだ?」 「さぁ〜な、まっ、どっちが来ても斬るだけだ」 の吹っ切れた態度にある種の尊敬の念を抱き、呟くゾロ。 「待って下さい。大事なのは、偽者を討つ事。 私が女である事を示して、真に正統であるライルを、王にする事」 「そっか!ニセもん、ブッ飛ばせばいいんだな」 「いや!!これは、私の国の事。偽者を倒す事も。私のすべき事。 私が、逃げ出さなければ、起きるはずのない争いだ。私の手で……」 自分の存在を賭けた決意のこもった薄紫の瞳が、きらりと、光を帯びる。 「、分かった!!」 きっぱりと、ルフィは言い切った。 「分かった!」 ゾロは、ニヤリと笑った。 「ちょっと!!あんた達、何、納得してんのよ!!」 ビビの時との態度の差に、ナミが慌てて口を出す。 「まあまあ、ナミさん、お茶どうぞ」 「サンジくん…」 いいの?と、言外に意味を残しナミは心配そうに、サンジの顔に出る表情を探る。 「ちゃんが、自分の意志で決めた事です。口出しする事じゃないでしょう」 ナミがどう言って欲しいのかを、薄々感じながらも、顔に出さずお茶を注ぐ。 「それはそうだけど……」 サンジの表情にふに落ちないものを感じながら、それでも、の意志を尊重すべきだと 言うサンジの言葉に、納得し言葉を濁した。 「とりあえず、アンダルシアまでの、エターナルポースを手に入れるなり何なり 俺達が、出来るだけの事をしましょう」 お茶を手渡しながら、サンジはにっこりと、ナミを安心させる笑みを浮かべた。 「それなんだけど、コレが役に立つんじゃないかしら?コックさん」 もう一つの赤い宝石を外すと、それ自身が小振りのエターナルポースになっていた。 「「「「「「やった!!!」」」」」」 「よっし!!!行くぞ!!!!!アンダルシアへ!!!!」 ルフィの声が、GM号に響き渡った。 |