The Wind of Andalucia    〜 inherit love 〜

3. ドラム〜アラバスタ



冬島ドラム王国で、まざまざと見せつけられたクルー達の行動。

一国の王でありながら、逃げ出したワポルの不様さ。
ビビの言葉「それが一国の王のやることなの!!?」
ドルトンの言葉「国に”心”を望んで何が悪い!!!」。

どれもが、の心に深く沁み込んだ。

     いったい……国って何なんだ…国王とは………


何があったのか、詳しく分からぬまま、わけの分からぬまま、トナカイの引くそりに乗せられ、はGM号に戻った。

雪景色に夜桜の舞う中、トナカイの「トニートニー・チョッパー」歓迎の宴が、始まる。

は、少し離れた席で、クルー達を見ていた。
背中に大怪我をして、気絶していたサンジ。
ワポルを倒し、行きたいのに行きたいと言えないトナカイを勧誘したルフィ。
Dr.くれはと、対等に張り合っていたナミ。
ドルトンの言葉に反応し、男の心意気を見せたウソップ。
クールな態度を取りながらも、ウソップに手を貸すゾロ。


クルー達の行動に、サンジの言った言葉を思い出す。

「俺達は、自分に恥じる生き方はしてねぇ」



物思いに耽るうちに、宴は終わった。

「オイ、。トナカイ運べ!」
「ゾロ、ルフィとウソップ頼むぞ」
「なんで、俺がてめェに命令されなきゃなんねェんだよ!」
「あぁーん、俺様の手にあるもんが、見えねェのかよ!!」
年長組の二人の戯言を、鬱陶しく思いながら、チョッパーを手に抱く。

温かいぬくもり。
は、仲間を見つけることの出来たトナカイを、羨ましく思った。
勧誘はされたが、はっきりと、仲間として加わっていない自分。
海賊らしくないクルー達の行動。
思考はくるくると、を揺らした。




夜風に、風呂上りのの髪が揺れている。
サンジは、ラウンジの窓越しに見るの横顔に見惚れ、目が離せなかった。

赤い髪がなびく、誘うように。薄紫の瞳にいつも哀しみをのせて、小さく上品な鼻、
とりわけ目を引いたのは、唇。厚くもなく、薄すぎもしない。繊細な形が心をとらえる。
官能的で、まるでそこから熱を発するかのように。

     何故なんだ……を見ると、胸がざわめく。
     あいつは、男なんだと、言い聞かせても、
     俺の目は、を追っている……


、どうした?寝ねェのか?」
いつの間にか、そばに、サンジが立っていた。

「サンジ……背中の傷は、どうしたんだ?」
ちらりと、横目でサンジを軽く見て、波の音しかしない暗い夜の海に視線を落し、
答えが返ってくるわけは無いと知りながらも、聞いてみた。

「あぁ、これか?たいした事ねェよ」
に注いでいた視線を外し、同じように海を眺め、ルフィとナミを庇った結果、
気絶するほどの大怪我だったくせに、強がりを言う。

「サンジ……。サンジは何故、この船に乗ったんだ?この船のクルーは……変わってる」
サンジに向き直り、違う疑問を投げ掛けてみた。

「俺は、オールブルーを見つけるためさっ!」
くるりと、の方を向き、サンジの蒼眼がキラキラと夢を語る。

「オールブルー??」

「あぁ、伝説の海でな!」
サンジは、ひとしきり自分の夢を語る。
夢を語るサンジの顔は、いつもよりも幾分幼さを増し、輝いている。

「他のやつらだってなっ!みんな、でけェ〜夢もってんだぜ!!」
サンジは、にやりと笑った。

「夢か……叶うといいな」
     なんて顔して、夢を語るのだろう……
     私には、夢をみることすら叶わない……
少し寂しげな微笑を浮かべた。

「あぁ!叶えてみせるさ!!」
     何で、はいつも、こんなに哀しそうなんだ……
     バルドーの事が、まだ尾を引いてんだな……

     唇にふれてみたい俺……変だよな………
    

……。俺達は、仲間だ!自分一人で、考え込むんじゃねェ……」

「早く寝ろよ」
ぽんぽんと、軽くの頭の叩き、サンジは闇に消えた。

の心に輝くサンジの顔と夢が刻まれた。





ペルが大空に溶け、クロコダイルが空中に舞い、雨が降り、アラバスタの戦いが終わった。

ビビの国を思う気持ち。
ビビという仲間のために、命を掛けたクルー達の思い。
全てが、を打ちのめす。
    
     何という人達なんだろう……
     私は、私は、何を見てきたのだろう……





雨の降り注ぐアルバーナ宮殿の庭を眺めながら、は、一人回想する。

レンガ造りの王宮の一室。年老いた女のカナきり声が響く。

、お前は皇太子じゃ!しっかり、剣術を学ぶのじゃ!ライルなんぞに負けよって、わらわは、口惜しいぞよ」

「その王家の剣、グラムオブハートを、使いこなせぬとは……まったく!も、ふざけた事しおって!!!!」

様、その構えでは、敵は討てませぬ!」

!!」

様」

ぐるぐると、脳裏を過ぎる、祖母フレイヤ皇太后とバルドーの声。


「ええい!!!汚らわしい!!!父無し子の分際で、わらわに触るなどと!!
 よいか!そちを生かしてあるのは、ライルを王にしないためだけじゃ!!
 わらわの手駒は、そちしか、おらぬからのう……」

のような金髪に生まれおちればまだしも、そのような赤い髪に生まれおって!!
 バルドーの子だと、言い張る事も、出来ぬではないか!」


幼い自分が、若きバルドーに尋ねる姿が浮かぶ。

「バルドー、私の母上、父上は、どうして居ないの?」

様、今はまだ、バルドーの口からは、申せませぬ。バルドーがいつもそばに居て、お護り致します。
 さぁ、メイド特性のアップル・ストゥリューデルを、お召し上がり下さい。美味しいですよ」

「私は母上が欲しい!!父上が欲しい!!フレイヤ王妃様は、私のことがお嫌いなんだもの。
 私でなく、金髪の母上そっくりの子を、産んでいただくの。そうすれば、もっと、やさしくなれるでしょう?」

「・・・・・様」

なんとも言えない複雑な表情を見せたバルドー。

何故「今はまだ」と、言ったのだろう。もう、尋ねることも、叶わない。


内股を滑り落ちる赤い血、見咎められ罵られたあの日。

「女じゃとう!!!」

憤怒に燃える眼、ぎりぎりと喉にくい込む指。

「皇太后!おやめ下さい!!!」

縊り殺されるところを、バルドーに助けられた。

「ええい!!!口惜しい!!!バルドー!そなたは、わらわを、謀りおったな!!!」

「ふん!!女に生まれおって!!!わらわの役に立ちたいのなら、男として、生きよ!!!」

疎ましげに、自分を見つめる氷の様なフレイヤ皇太后の目。
私の存在全てを否定する、嘲笑。



忘れ去ってしまいたい過去が、押し寄せての心を苦しめた。




さん、まだ、寝ないのですか?」
ルフィを寝ずに看病していたビビに出会った。

「ビビ王女……。私は、貴女にお聞きしたい事がある。
 何故、そこまで、国を思う事が出来るのですか?王女としての責任だけですか?」
考えても、分からなかった疑問を、ぶつけてみた。

「私は、この国を愛しています。これが答えではおかしいですか?」
ビビの真摯な瞳がをみつめた。

「……国を愛する。………もう、休みます…」
ビビの答えに愕然とし、は背を向けた。

     愛……。愛するって………何だろうか
     私は、国を愛した事など無い!責任すら……放棄した………




聞くつもりは無かったが、聞こえてきたとビビとの会話。
サンジは、寂しそうに笑ったの顔を、物陰から追った。
    
     抱きしめてやりてェ……
     あの瞳に溺れてみてェ……
     瞳に光をのせてやりてェ……
     唇を……奪ってみてェ………

     何が、そこまで、お前を苦しめる。
     んっな!笑い方すんじゃねェ!!

     って、俺って……、やっぱ、おかしいよな………
     何だって、俺ァあいつの笑い方を気にすんだ?

サンジはフゥ〜っと、空に紫煙を吐きながら、自嘲気味に呟いた。

「くそっ!!何で、あいつは、男なんだ」

     




甲板にビビの声が届く。

「いつかまた会えたら!!!もう一度、仲間と呼んでくれますか!!!?」

左腕を高々と掲げてこたえるクルー達。
 
「これから何が起こっても左腕のこれが、仲間の印だ!!!」

船はアラバスタを出航した。




  

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