The Wind of Andalucia    〜 inherit love 〜

2. 船出



「さっ、これが俺達の船だ。乗れよ」

可愛らしい羊船首に、不釣合いな海賊旗がはためく。

「…海賊なのか?」
心もち首を傾げ、聞いた。
 
「そっ!海賊ってもヨ、色々だ!俺達は、自分に恥じる生き方はしてねぇ。でな、俺ァ、この船のコックだ」
サンジは、にやりと笑った。

「ふっ、そうか…」
海賊船に乗る事になるとは思いもよらず、思わず苦笑し、改めて、サンジという男の不思議さに、戸惑った。

「ちょっと、コレ喰って待ってろヨ、腹減ってんだろっ?仲間が帰んのが、遅ェからヨ、俺ァ探してくっから」

「あぁ。分かった。ありがとう」

サンジの用意してくれた軽食をつまみながら、色々な事に思いをはせるうちに、は、看病疲れからか深い眠りに就いた。





「サンジーー!!誰だ?こいつ??」

「あっ!悪ぃ…話すの忘れてた」
サンジはクルー達に、とバルトーとの経緯を、手短に話す。

は、ざわざわと周囲が騒がしくなっても、起きる気配を見せず、GM号は、一路、アラバスタへと、進路をとった。




「きゃっ」
GM号が、水面に叩きつけられる衝撃で、は目覚めた。

「起きたのね。私は、航海士のナミよ。よろしくね」
オレンジ色の髪の女性が、やさしく微笑む。

「私は、ビビです。こっちのカルガモは、カルー。よろしくお願いします」
「クエー」
空色の髪の少女と鳥。

起きたばかりの回らない頭で、ぼんやりと考えた。
     この二人が、サンジの言ってた女の子なのか…
     確かに、凄い綺麗な人だ……
     私と、そう変わらないくらいの年かな。
     海賊船に乗ってるなんて…

「私は、。次の島まで……よろしく頼む」
と、頭を下げた。

「で、あっちで騒いでるのが、うちの船長よ」

船首で、わけの分からぬ歌を歌っている二人の少年が、眼に入った。

「ルフィさ〜ん!!さん、起きましたよ〜〜〜!!!」

「おぉお!!起きたのか!!おめェ〜〜すっげぇ〜〜〜〜〜〜綺麗な髪だな!」
麦藁帽子を被った少年が、澄み切った邪気のない黒い瞳を向ける。

「シャンクスの赤い髪、思い出すな!しっしっしっ」
屈託のない笑顔を、見せる。

!!!俺の仲間んなれ!!」

「はっ?私は、次の島までで、結構だ。よろしく頼む」
    これが、海賊船の船長なのか?
は、ルフィの笑顔に言動に、戸惑っていた。

「いや!!ダメだ!!しっしっしっ、シャンクスが、そばに居るみてぇだもん!ずっと居ろ!!!
 黒だろ〜オレンジに、金、緑、青で、赤。すっげ〜〜〜〜!!!!」
わけの分からぬ理由を付け、ルフィはを海賊に勧誘した。

「オイ、どういう理屈なんだ?そりゃ?」
長い鼻の少年が、ささやかなツッコミを入れる。

「ルフィ、あんた我がまま!!変よ、それ!」

「ルフィさん…」
いつもの事であるが、呆れたように呟く。

「俺は、勇敢なる海の戦士!!キャプテ〜〜〜〜ン、ウソップ!!俺には、8000人の〜うげっ」
ナミの鉄拳が、長い鼻の少年に落とされた。

「で、こっちが船大工のウソップ」

「オイ!俺は、船大工じゃねェよ!!狙撃手だ!」
虚しいツッコミを入れるが、誰も聞いていない。

「で、あっちで、寝てるのが剣士のゾロよ」
少し離れた位置で、気持ち良く寝ている姿が、眼に入った。

、三本の剣。まさか?三刀流なの?」
傍らの三本の剣に眼を留めたナミが、尋ねた。

「三刀流!!!すっげ〜〜〜〜〜〜ゾロ!ゾーロ!!起きろ〜〜!!!!」
ルフィの手が、グーンと伸びて、ゾロを引き寄せた。

「三刀流!!三刀流!!ゾロと一緒だぞ〜〜〜!!!」
ルフィの眼はキラキラと輝き、ゾロの肩を掴み、がくんがくんと、揺さぶる。

「んあ!!何してくれてんだァ〜〜てっめェ〜〜〜〜!!!」
せっかく、寝ていたところを、無理矢理起こされたせいで、機嫌の悪いゾロは、ひとしきりルフィとじゃれ合う。

「手が、伸びた……。悪魔の実なのか」
唖然として、ナミに聞いた。

「そうよ、ルフィはゴムゴムの実を食べた能力者なの。悪気はないから」
あっさりと、答えた。

「ぁあ……お前、名前何っつった?」
思いっきりルフィに報復したゾロが、鋭い眼差しを向けた。


"きっ"と、負けぬくらいの強い眼差しを返した。

「三本とも、お前が使うのか?」

「いや、私の剣は、この一本だけだ。あとは、バルドーの剣と、……母の剣だ」

細身の軽い剣。
重量感のあるロングソード。
金の浮き彫りの鞘、赤い宝石が二つはめ込まれた柄、見事な装飾剣。

に、眼で「触ってもいいか」確認を取り、ゾロは装飾剣を手に取った。
すらりと、鞘から剣をひき抜く。

陽光を浴びて、ぎらりと輝く刃。奇妙な感覚にゾロはとらわれた。
「……これは…ちょっと、普通じゃねぇな」

「分かるのか。その剣は、いわれがある」
と、言っただけで、それ以上言いたくないとばかりに、口を閉ざした。

「ふぅ〜ん。まっ、俺には興味は無え」
チンと、鞘に戻し、に返した。

「なぁなぁなぁ、仲間んなれよう!!いいだろ〜〜赤い髪、俺好きだもんよ〜」
いつの間にか、戻ったルフィの声と、ひたすら、虚しいツッコミを入れるウソップの声。

ナミは、やってられないとばかりに、さじを投げ、ビビとアラバスタまでの航路を話し合っている。


は、クルー達の話を、聞くとも無く聞いていて、容易に、ビビがアラバスタの王女である事を知った。

ビビの言葉「必ず生きてアラバスタへ……」が、の背に重く圧し掛かる。

海賊団なのに、まるで海賊に見えない彼ら、そしてビビ王女。
の心に、不思議な感覚が芽生え始めた。自分でもわからない気持ちだった。




甲板に崩れ落ちるオレンジの髪、ナミが発熱した。
にとって、その病状は、見る限りバルドーと同じもの。
出来る限り看病を続けるが、死が迫っていることは、には、分かっていた。
どうする事も出来ず、じりじりと時間だけが過ぎていく。

決断は下された。

「一刻も早くナミさんの病気を治して、そして、アラバスタへ!!それが、この船の”最高速度”でしょう!!?」

アラバスタの王女の発言は、クルー達を動かした。

     何という違い!一国の王女としての強さ。自分には……無い

ビビの言葉は、の心に深く沁み込んだ。


  

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