涙さえ奪って〜ヒロインサイド〜

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12a、麻痺


 十八の誕生日、私はずっとアイスバーグがくるのを待っていた。子どもの頃の約束とはいえ、アイスバーグがそれを守らないわけがないと思っていた。

『ンマー、お前が18になったら考えるよ』
『ほんと?』
『ああ、本当だ』
『ぜったい?』
『ああ、絶対だ』

 アイスバーグと私の絆は固く結ばれている、と信じていた。あの日、アイスバーグが来なかったことを……理解しなきゃいけなかった。
 いつか、振り向いてくれるはず。いいえ、振り向かせてみせるなんて……思い上がりもいいところだった。
 慈しみ育ててくれたアイスバーグ。ずっと子どもの頃から大好きで、いつからかそれが恋だと知った。アイスバーグがすべてだった。

 あの日、アイスバーグに抱かれた日、私の恋は終わってしまった。もう何も残っていない。
 フランキー……どうして死を選んだの。わからないよ……には。




 三週間ぶりに会うアイスバーグの瞳はとても冷たく、私を突き放すようにみていた。
 心が凍りつくような気がした。私の愛していたアイスバーグは、なんだったんだろう。わずかに残っていた心が、きりきりと私を苛んでいく。

「ンマー、島をでるって本気なのか」
「……本気」
「どこに行くっていうんだ。お前の家はここだろう。エリノアさんが悲しむことをするもんじゃねェ」
「……アイスには関係ないじゃない! おかあさんと私のことなんか! 」
「関係ねェか? エリノアさんの気持ちを考えてみろっ! 」
「……私は……もういや! こんなとこにいたくない!」
、親孝行はな……生きてるうちしかできねェんだぞ。お前は」
「アイスバーグにはわからないわ! 私の気持ちなんか、なんにもわからない!」
「俺が憎いか? 」
「……」
「俺が憎いんならそれでいい。俺を憎んで生きていけ」

 おかあさん。おかあさんがなんだって言うのよ! いやだ! もういやだ!!! 駄目押しみたいに、言わないで!!! 私の欲しいのは、アイスバーグ、あなたの心……あなたの愛。

 なのに……『憎いか?』
 憎いわけがない……愛しているのに、どうしてそれを言わせてくれないの?

『俺が憎いんならそれでいい。俺を憎んで生きていけ』
 ガラガラと私の周りが崩れ落ちていく。あんなにも楽しかった日々は、何もかも幻想の世界でしかなかったの? 憎んで生きていけるわけがない……終わった恋なのに、私はアイスバーグを愛している。
 悲しいのに……心が軋むのに……涙は枯れてしまったみたいで……おちてこない。もう、これ以上……アイスバーグのそばにいられない。突き放すように吐かれた言葉は、私の心を麻痺させた。



 ぽっかりと心に穴が開いたような気がした。




 どうでもいい。なんでもいい。無気力になった私を海列車が遠くに運んでいく。
 ブルーステーションに、アイスバーグは来なかった。それが彼の意思表示なんだろう。
 十九年、何を見て生きてきたんだろう……と思うと、涙があふれだしそうになった。けれど、心が軋む音を奏でるだけで、涙は頬をすべりおちない。
 トムおじさま、フランキー……二人の冥福を祈るのだけれども……涙はかたくなに私を拒む。一生分の涙を使い果たしたのかな……と思うと、頬がバカバカしさに緩んだ。


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