「アイス……トムおじさまが……。フランキーは? フランキーは……どうなるの」
「……俺に今それを聞くな」
トムおじさま……フランキー。どうしてどうして……あんなことに……。
悲しくてしがみついたアイスバーグの瞳が悲しみでいっぱいになっている。悲しみの中に怒りを感じる。私ですら、トムおじさまを襲った運命を呪うのに……アイスバーグが嘆かないわけがない……。
いっぱい聞きたいことがあるけれど、アイスバーグはそれを許してくれない。そんなことを聞くことなど、できるはずがない。一緒に嘆くことしかできない……。痛いくらいにかたく抱きしめられ、沈んだ心に、かすかな期待が生まれる。
ダメ、期待しちゃダメ……と思うのだけれど、私の唇は大好きなアイスの唇を受け止め、喜ぶように割れる。好き、大好き……。アイスバーグ、愛している。こんなときなのに、私の心は喜びに震えた。
四年ぶりにあったアイスバーグは、記憶の中の人より男くさくなっていて……私の中を揺るがし、早熟な体は、キスだけで湿りを帯びていく。恥ずかしいほどに……。
アイスバーグの心は、おかあさんものなの? 聞きたいけど聞けない。だって聞いたらアイスバーグはキスをやめてしまう。そんなのイヤ。今、アイスバーグが求めているのは、何? 傷ついた心を慰めてくれる存在? それが私なら、それでもいい……。私はアイスバーグを愛している。アイスバーグが負った傷の深さ。それは……私の想像をはるかに上回るもの……。アイス……辛いよね。どうしてこうなったんだろう……トムおじさま……。
高まるキスの深さ……私は、背後にあったベッドに押し倒された。そのまま、アイスの手が私をなぶっていく。次々にほどかれる私のベール。乱暴な扱いに、服が悲鳴をあげる。私の服を取り去るとアイスは自分の服も脱いでいく。
ドキッとした。見ちゃいけない部分がどうしても眼に入ってしまう。
アレが男の……アレなの? 想像していたよりグロテスクで大きい。あんなの入るわけがないじゃない。
遮るもののない肌のふれあいに、びっくりしてベッドのはじに逃げようとする私を、アイスバーグは逃がさない。腰を捕まえられ、引き締まった筋肉が、私の体に覆いかぶさってくる。
怖い! 怖い! もっとゆっくりして欲しい。
けれど、アイスバーグの情熱が醒めることを恐れる私は、アイスのなすがまま、受け入れるしかない。
アイスの指先が、しっとりと潤うソコをなでる。私の体はビクつき、恥ずかしさに頬が染まる。外をなでられているだけなのに、滑らかな音をたてるソコは、私の体をとろけさせる。
怖いけれど、受け止めたい。ああ、でも初めてだとわかってしまったら、アイスバーグはやめてしまうかも……。そう思い、私は無理に慣れたふりをしてしまう。
アイスバーグの舌先が、胸の頂をついばみ、感じたことのない高まりを私に与え、その一方で、指先が潤いを確かめるように中に滑り込む。ビクンと飛び跳ねる体をアイスバーグはどう思ったんだろう。濡れすぎたソコは、私を煽っていく。
「い……ん……んん」
いや、とこぼれそうな唇をアイスバーグの唇が黙れと言わんばかりにふさいだ。甘い息が鼻から抜けていく。アイスバーグの荒い息が頬にかかり、アイスバーグの高ぶりを教えてくれた。アイスバーグも感じていて、私に興奮している。それが嬉しかった。
私の強張った両膝にアイスバーグが入り込んでくる。どうしたらいいのかわからない私の体は自然にアイスバーグを拒むように腰が逃げていく。でも、アイスバーグは許してくれない。アイスバーグの片腕で両腕を頭上に押さえられ、いやいや、と首を振る私にアイスバーグの体が膝を割ってくる。ぐっと開かれた下半身が、ひややかな風を感じる。
私は恥ずかしさとこれからくる痛みへの恐怖に体が震えるのを抑えられない。そんな私に、アイスバーグは何も言ってくれない。私の顔に浮かぶものを読み取るように……みつめるアイスバーグの目は怪しい色をしている。おかあさんに向けられたあの視線……欲情に燻る男の視線。やっと、私を認めてくれたみたいに感じ……心が浮きたっていく。
『好きだ』『愛している』『好き』『愛して』
そんな言葉が欲しい、言いたいのだけれど、アイスバーグが何も言葉を零さないから、私は言うのをためらってしまった。
恥ずかしさに染まる頬にアイスバーグの唇が落とされ、耳たぶがくすぐるような熱い吐息を感じ舌先が首筋を這い下に下りていく。もうすぐくる瞬間が怖くて、がちがちに固まる体に、やわらかなアイスバーグの唇と舌が這いまわり、その一方で下半身の疼きを確かめるように指先が苛める。
指先がふいに外れた、と思った瞬間、軋む痛みがきた。
「ん……っ……あっ……アイっん……」
思わず、アイスと大好きな人の名を呼ぼうとした唇を、アイスバーグの柔らかな唇が塞ぎ、下半身に更に痛みが走った。
ポロポロと涙がこぼれてしまう。ダメっ! アイスバーグは私の涙が苦手なんだから泣いちゃダメって思うのに、とまらない。
首を振ってアイスバーグの唇から逃れ、泣いてるのを悟られないように顔をそらすのだけれども……封じられた両腕、繋がる下半身がそれを許してくれない。
「くっ…………」
アイスバーグの辛そうな声が、私を突き放すような気がした。
抱かれているのは私で抱いているのはアイスバーグ。なのに、どうしてこんなにもアイスバーグが遠く感じるの。
自由になった両腕をアイスバーグの首にまわし、アイスバーグが私から逃げてしまわないようにすがりついて腰を押し付けた。アイスバーグの瞳に浮かぶもの、そんなの見たくもなかったから、ねだるようにしがみついた。
喉の奥から搾り出すような唸り声ともに、深くえぐるようにアイスバーグが私を揺るがす。
痛い、もっとそっとして欲しい……のに、言えない。アイスバーグが離れていってしまうのが怖いから、きゅっと唇をかみしめて我慢した。激情に流されるアイスバーグについて行こうとするのだけれど、未経験な体は悲鳴をあげる。そんな私を見下ろすアイスバーグの瞳に溢れるものは、哀れみ、後悔、怒り……そして悲しみ。
こんなにも辛い思いしているアイスバーグに、何が言えるというんだろう。何を求めることができるんだろう。私にできることといったら、慰めを求める傷ついた男に、体を与えることだけだった。
アイスバーグの愛が欲しい、心が欲しいと願ってきたけれど、ずっと私を見守っていてくれていた人に、今、捧げれるものといったらそれしかなかった。
愛のない行為に、傷つく羽目になることなんかわかっていた。それでも、やりきれない思いを私を抱くことで癒されるならと……思って抱かれた。少しだけ期待していたのも、事実……。十五のとき以来、会えなくなった大好きなアイスバーグがこうすれば振り向いてくれるんじゃないかって……。
欲しかった言葉は、聞けるはずがなかった。アイスバーグの心にいる人は……おかあさん。わかっていた。わかっていたのに、心が悲鳴をあげる。
とまらない、とめられない涙がシーツを濡らしていく。せめて背中からでいいから抱きしめて欲しいのに、アイスバーグは全てを拒絶するように、私に背を向けた。
バタンとドアの閉まる音で、目が覚めた。
行ってしまった。あの人は私をかえりみることなく……。
終わった。私の恋は終わってしまった。
フランキー……トムおじさま…………ごめんなさい。アイスバーグの心に宿る悲しみを私は癒してあげられなかった。
楽しかった子どもの頃、ドキドキしたアイスバーグのキス、フランキーの大きな手、トムおじさまの広い背中。そんな大事なものを、すべて失くしてしまったような気がして、涙はとまらない。
フランキー、どこにいるの……帰ってくるの……。もうフランキーしか私には残っていないよ。アイスバーグは、やっぱり私を拒んだ……フランキーの予想と違ったね。どこ……を受け止めて。
アイスバーグのそばにはもう……いたくない。アイスバーグの瞳におかあさんが映るのなんか、見たくない。