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降りた階にある彼の部屋に行くと、彼はなにやら電話で頼んでいた。
私は所在なさげに窓から外を眺めていた。
かちゃんと受話器を置く音がした。
一瞬、私は身体を強張らせる。
「・・そんなに緊張しなくても、とって食べたりなんかしないよ。」
笑いを含ませた声で彼は私に言った。
「今、ランチ頼んだから・・・食べるでしょう?」
こくんと私は頷くしかなかった。
「座って・・・」
彼の誘いのままに、チェアに腰掛ける。向かいに彼も座った。
指先できちっと締めていたネクタイを少し緩める。その優雅な動きに一瞬見とれた。
「ん?」
慌てて視線を落とす。彼は笑顔を浮かべながら
「自己紹介は改めて必要は・・・ないね?」
こくんと頷く私。
そして、沈黙。
長かったのかもしれない、短かったのかもしれない。
ただ、その時間があった。
部屋のチャイムが鳴り、すぐにルームサービスが届けられた。彼は私にサーブすると、自分の分を持って座る。
食べるように促されたが、私は手を出すことが出来なかった。
彼は食べかけたそれをおくと私をじっと見つめた。
「・・・・どうして、声をかけず出て行こうとしたんだい?」
やさしい、それでいて答えを濁すことを許さない、言葉。
「あの・・・・」
「はい?」
「やっぱり・・・帰ります・・・私・・」
私は立ち上がり、コートとかばんをまとめてもってドアの方へ向おうとする。
その私を彼の腕が拘束した。
「答えて・・ごらんよ・・・」
背後から、囁くように、彼は言う。
「会いたく・・無かった?」
・・・違う・・・
「幻滅・・・した・・」
・・いいえ・・・そうじゃない・・・
彼の手が、ゆっくりと私の肩から腕にかけて流れる。柔らかいタッチが私を動けなくする。
吐息がかかるほど近く、私の首筋に彼の唇が降りてきた。
・・だめ・・・・・
私は、最後の理性は、そう叫んだ・・・・はずだった。
気が付いたとき、私は彼の唇を受け止めていた・・・・・。
抱えていたコートもバックも音を立てて床に落ちる。
彼の手が私の腰を抱く。
彼の舌が私の中へ入り込み、歯列を割り、私の舌を絡め取る。
徐々に深く、熱く、私を流していく。
彼から与えられるだけのそのキスに私は、もはや戻れないことを知る。
彼氏のことは、思い出しもしなかった。
理由なんてわからない。
私はただ、彼を求めて、ここに来たのだ。
認めたくなくても、認めなくてはならない事実だ。
私は、理性にふたをする。
―私の罪・・・・・―
その言葉を封印にして。
彼は私からの抵抗が無いことを感じ取り、ようやく私を抱く腕を緩める。
すでに彼の瞳に映る私の頬は上気し、息すらもうまく出来ないほど。
くすくすと小さい笑い声。
見上げると彼の目が笑っていた。
「・・・・かわいい・・・」
「なっ・・・・・」
言われ慣れていない言葉に私は戸惑う。
「言われたことないかな?」
私は頷くしかなかった。
気が強いとか、可愛げがない、の方が多かったような気がする。
「さぁ・・」
彼は、私から離れた、まるでもう、私が逃げないと決めているかのように。
そしてベッドに腰掛ける
「・・脱いで・・・・そこで・・」
足を組んで、私を見つめる。
「見てるから・・・・貴女のことを・・・すべて・・・・」
・・一挙手一投足、もらさずに・・・
「見て・・・もらいたいんでしょう?」
クックッと喉の奥で笑う彼。
”いつも暗い部屋?”
”うん・・・だって、恥ずかしいじゃない・・”
”でも・・・・?”
”?”
”本当に?”
”・・・・”
”恥ずかしくても・・・本当は・・・・?・・”
”・・そんなこと・・・・”
”試してみなくちゃわからないよ?” |