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そんな会話を思い出す。
彼はただ、じっと私を見つめる。ただ・・・見つめつづける。
その視線の奥で、私の裸体を見ているようで・・・。
私は体の奥が、音を立てるのを聞いた。
「手伝わないよ・・・貴女が・・・自ら・・脱ぐんだ・・俺に・・見せてご覧・・・」
柔らかく、やさしい、拒めない声に。
私は身震いする。
”貴女は・・・見られたいんだよ・・・・”
”そんなこと・・・・”
”じゃ、どうして、そんなにレスが遅くなるの?”
”それは・・・・”
言い訳の出来ないこと。
「さぁ・・・・今ここにいるのは俺と貴女だけだ・・・大丈夫・・・・見るのは・・俺だけだ・・・」
”俺しかいないよ・・ここは貴女と二人だけの世界だ・・・”
思い出す・・・彼のその言葉で、自室で一人、言われるがまま行った行為を。
私の指が、ニットの裾にかかる。
「・・・そう・・・・」
彼は小さな声で私に言う。
導かれるまま、私は上半身の服を脱いだ・・・。
空気の刃が私の肌をさす。彼の視線はもっと鋭い刃だった。
「下も・・・」
スカートのホックを外す、ストンといとも簡単に脱げてしまう。
下着だけになった私は思わず、両手で身体を覆った。
「手は・・・横だよ・・隠すな・・・」
うつむいて、彼の顔なんて見れなかった。
「・・・そんな下着・・なんだね・・・とても・・いやらしいよ・・」
繊細なレースの上下ペアの下着に、同色のガーターストッキングだけの私の姿を観察する彼。
かぁっと全身が熱くなる。
「さ、次だよ・・・・」
彼の言葉には容赦が無かった。やさしい言葉の中に潜む、悪魔の囁き。
その甘美な誘惑。
私の指が自分のブラのホックを外す。
布に締め付けられていた乳房が、解放される。
「は・・ぁ・・・・・」
私の口から、ため息が洩れる。
「・・・・・・・」
聞こえているはずのそれを彼は黙殺した。
私は腕から肩紐を抜き、それを床に落とした。
「次・・・・・」
彼は、呟く。私は震える指でショーツに手をかけるが、それ以上がどうしてもできなかった。
「・・お願い・・・・許して・・・」
搾り出すように声を発する。
彼は無言で首を横に振る。そしてただ、見つめる。
「・・・だめ・・・・・・」
「・・・・その言葉は・・・・聞こえないな・・・」
”否定は・・・・だめだよ・・・”
”でも・・・”
”どうして、出来ないのかちゃんと説明してごらん・・”
彼は動こうとはしない。
私は一歩、彼へと近づく。
「それ以上近くにくると、貴女が見えないよ・・・」
小さく笑う、彼。
「見ててあげる・・・貴女を・・・ほら・・・・」
彼の視線が私の全身に絡みつくような感覚に襲われる。
そして、私の足を止める。 しかしどうしてもどうしても最後の砦を攻略できない私に彼は、視線だけで私を犯し始める。
「いつまで・・・そうしている・・?・・・見られているだけの方がいいの?」
彼の視線が私の胸元から、ゆっくりと下へと降りてくるのが肌に感じられる。
ぴりぴりとした熱さがそこから私の全身を犯す。
彼の、視線。
ただ、それだけで私は・・・・。
”・・・・・・”
”・・・じゃ、わからないよ。どうして欲しいんだい?・・・”
”・・・・・して・・・・”
”聞こえない。”
彼は、ふと、立ち上がり私の横をすり抜け、窓際へと歩く。
そして、一気にレースカーテンを左右に開いた。昼間の太陽が強く部屋に一気に差し込む。
「やぁぁ・・・・」
「・・・大丈夫さ・・・この部屋は外からは見えないよ・・・・」
私は身体に腕を巻きつけてしゃがみこんだ。
彼は戻りしな、私の背後に回ると、強引に私を立ち上がらせる。
「まだ・・・残っているよ・・・こ・れ・」
そう言ってショーツの腰のラインを指先でなぞった。
「ぁ・・ぁぁ・・・」
小さく、喘ぐ私。
・・・なんて浅ましい・・・私の身体・・・
彼のほんの些細な行為で、芯から炎が上がる。
ぎしっとベッドのスプリングが軋む音。
”・・・すごく・・・感じているね・・・”
”・・・ぁ・・ああ・・・”
”まだ、俺は・・・見てるだけなのに”
”それだけでそんなにあふれさせてる・・・・・”
”や・ぁ・・・・・”
「・・・見られたくない?」
「・・・・え・・・?・・」
突然の問いに戸惑う。
「その布の内側を。」
びくんと私は身体を強張らせる。
―見抜かれている・・・・。
「言って・・やろうか・・・?」
「・・・や・・・・・め・・・」
彼は薄く笑いを浮かべて
「感じている・・ね?」
彼の声が私の耳に決定打を与える。
「その・・・下着を降ろしたら・・見えてしまう・・・」
「・・・・・・」
「貴女とそれの間にある・・・」
「や・・やだ・・・・」
「透明な糸を・・・・」
「・・んん・・・やぁ・・・・・」
「俺は・・まだ・・・・殆ど触ってなんかいないよ・・・・」
彼は続けた。
「・・さ・・・・もう・・俺は知っているんだから・・・」
彼の言葉が私の手を操るよう。
私の指先がまた、ショーツにかかる。震えながら、ゆっくりと下へと落としていく。
まごうことなく、降ろしたショーツにはシミが残っていた。
「いい子だ・・・・・」
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