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・・いつまで続けることができるのか・・・?
このような関係を。
私は、夫にばれることを恐れてやまない。
その理由を考えたとき、私はもっと自分自身に戦慄を覚えた。
私のいやらしいまでの、利己主義。
私は夫を失うことも嫌だし、”夏彦”と呼ばれる彼を失うことも嫌なのだ。
なんと言うエゴイズムなのだろうか・・・・・。
もはや限界であった。
あの世界で”夏彦”と過ごす時間で私が得る最上級のそれ。
現実の世界で夫と得るリアル。
どちらも欲しいというのはあまりにも都合が良すぎる。
そのころにはもう、私と彼”夏彦”の間には別の連絡手段が出来上がってしまっていた。
フリーメール・・・・と呼ばれるもの。
互いが逢う為に使う連絡手段。
確実に逢うことを互いに望んだのだ。
二人でいる時間が長くなっていることを私は感じ取っていた。
単純な時間ではない、内容だ。
夫といる時間の方が確実に長い。そんなことは当然だろう。
しかしながら、その内容はといえば・・・・となる。
愛情を感じないわけではないのだ。
・・・・・愛情・・?・・・
一瞬、私はその言葉を使うことに、ためらいをおぼえた。
二人の関係は今,私の中でぎりぎりのところまで来ていた。
その感情のアンバランスと仕事の多忙さから私は一時体調を崩した。
その間に、いろいろと自分の中を見直すいいチャンスだと思うようにした。
彼”夏彦”からは身体を心配するメールが何度か届いていた。
それに返事を返しつつ、私はこの関係の終わりを見据えたのだ。
彼に言っていない最大のフェイク。
既婚者であるということ。
彼は恋人も妻もいないとは最初から言っていた。
私は彼がそういう点で嘘など言っていないことは理解していた。
話すこと,彼には誠実さを感じ、真剣に私に対峙していると思われる。
私もそんな彼だからこそひかれたのだろう。夫とは違う、彼に。
認めなくてはならなかった。
たとえそれがどんなにか卑怯な現実でも。
私は間違いなく、夫とは違った形では、あったが、彼”夏彦”を自分の心の奥底に住まわせてしまったことに。
その、感情はある意味私を苦しめ、そしてそれを上回るほどの幸福感を与えてくれる。
だが・・・・。
罪悪感と引き換えに手に入れた禁断の果実だったのだろう・・・・。
その実を一度でも味わったら,もうもとの自分には戻れないのだ。
責はあくまでも自分にだけ存在する。
他の誰も引き受けてはくれない。
そう、私はもう、これ以上の関係を彼のためと言う名目でもって止めようと思った。
でも本当は自分がこれ以上堕ちていくのが怖かったのだ。
私は彼”夏彦”が欲しいのだから。
彼という存在を自分の中に置いておきたい、それを欲望と呼ぶのかそれとも・・・・。
たとえ何も与えることが出来なくても。私は彼が欲しいのだ。
逢ったことも無い、声も聞いたことすらない相手。
文字だけの相手であるのにもかかわらず・・・だ。
それだけ相手を信頼してよいのかどうかわからない。
だが私は自分の直感を信じているのだ。
もし、これでだまされていたとしてもそれは自分だけの責任だ。
彼には・・・何の落ち度もないのだ。
私はようやく、久しぶりに彼に逢いに行った。
ゆり>こんばんわ?
夏彦>久しぶりですね、ゆり・・・体調はいかがですか?
ゆり>ええ。もう大分いいんですよ。
そんな当り障りの無い会話。
私は最後にしようと思っていた。
夏彦>体調を崩していては、課題も何もなかったですね・・
ゆり>少しは・・・・したけど。
夏彦>少し・・とは?
ゆり>だから・・・
そう、彼が私に出した第二の課題。
その答えは、自分の身体に嫌というほど教え込まれていた。
逃れられないと思えるほどの甘美な誘惑と彼”夏彦”の巧みな誘導。
私の身体も心ももう、その場所では彼にだけ向っている。
最後ならば・・・・最後だから・・・。
私は回線の向こう側の彼を想う。
おそらく、今自分の中で大事だと感じている彼のことを。
失いたくない・・強烈な思いと、離さなくては彼のためにならないという思い。
彼に気付かせてはならない。
こんな私の考えなど。
だからせめて、彼との時間に没頭した。
彼は私を言葉で責め立て、私はそれに身体を疼かせてしまうのだ。
甘い甘い深みに嵌っていく自分がわかっていた。
彼の第二の課題、それは彼の言葉をルージュで身体に記すこと。
パートナーに気付かれないよう、そっと会社で小さく書き記す。
”見て・・”
小さな文字で、自分の内腿に。深紅ルージュの文字。
身体に刻み付けられたある意味の所有の証。このとき私は彼のもの。
パートナーのことを忘れていた。
私がどれだけ淫乱なのかを思い知らされ、それを思い出すにつれ私の決心は揺らいでいながらも。
夏彦>なんと書いたのですか?
ゆり>だから・・・夏彦さんの言ったとおりだよ・・
夏彦>私は、貴女に無理にしなさいとは言わなかった。
夏彦>貴女が自主的に書いた、その文字が知りたいのですよ?
ゆり>・・・だけよ。
夏彦>・・・?・
ゆり>見て・・・とだけよ。それ以上は・・・・
夏彦>そうですか・・・
私はそのあとの彼の言葉を待った。
夏彦>では、、ゆり、今ここにルージュを持ってらっしゃい・・
ぞくっと背中に快楽の電流が走った。
何を言われるのか、判っていたのだと思う。
私は、その時点ですでに潤いを実感していた。そしてこれから行う行為に身体を疼かせていた。
彼を・・私の身体に残したかった。
これが最後と決めていたから・・・・。
これ以上、自分の中を見たくないから。
それからあとのことはあまり覚えていない。
あまりの快楽と、狂乱に自身が殆ど気を失いかけていたから。
彼の言葉に責め立てられ、焦らされ、幾度となく絶頂に登りつめていた。
彼もおそらく同じ思いだったと信じている。
私はこんな快感を今まで知らなかった。たとえ肌を触れあわせなくても。目の前にいなくとも。
相手を感じ、そして自分を伝えることが出来るのだ。
全身に残る甘美な疲労感が、私を幸福感で満たし、そしてよりいっそうの罪悪感に捕らわれる。
・・・・終わりにしよう・・・・
私は翌朝の彼を待っていた・・・・
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