realize
34th departure
彼”夏彦”への想いを、昇華させるために、私が選んだ方法。
私は彼への感情を、言葉にして、メールを送るようにしていた。
以前から送っていたメールには、とてもかけなかったことも。
本音でも、書くのをタブーにしていたことを。

ただのチャットパートナーでしかない私にそんなメールを送られても困る。
そう考えるだろうことも予測していたが、あえて、送った。

伝えないで、終わらせたくなかったから。
私の本当を言わないまま終わったら、未練だけが残ってどうにもなくなるから。
言いたいこと、伝えたいことをきちんと彼には伝えておきたい。

リアルなパートナーに今まで出来なかったこと、彼にすることできっと出来るようになる。
そう、思いもした。

私のすべてをぶつけて、彼”夏彦”には。
そうでなければ、失礼にもなると、感じる部分もあったから。

・・・・彼は受け止められる部分では受け止めてくれた。
嬉しかった。
何も答えが欲しかったわけじゃない、もらえれば嬉しいけれども、目的はそうじゃない。

後悔が残らない、そう感じつついる自分が、少しいた。
ただのチャットパートナーとして、じゃない、何らかの形でも求められていると確信できた。

感情が落ち着いたころに、彼からのある1通のメールに私は驚きを隠せなかった・・・・・・。

どうして・・・彼は・・私に・・・・

私の手元には数字の羅列があった・・・・
何度見つめなおしても、それは消えることは無かった。

”080−****−****”

どうしようか悩んだ。
かけてよいものか、迷った。
それでも・・・・

一度でもいいから声が聞いてみたかった。
直接、触れ合うことが無いまでも、これだけ感情が動いてしまった事実を確かめたかった。
そして・・・・

前に想像したことがあった、あのチャットがリアルに耳元で囁かれるのを。
それだけで、私の身体は確実に反応をした。
身体のほてりを抑えることが出来ず、思わず、自分で自分を慰め、今までに無く感じたことすらあった。
囁く吐息に。
言葉に。
声・・・だけはわからなくても。
彼の言葉をこの身で、確かめられる日は来ないだろうとも感じていた自分はいたのに。

そんな私におとずれた、わずかなチャンス・・・・・
パートナーのいない夜だった、彼からのNoが書かれたメールが来たのは・・・・
私は返信してしまった、彼の都合を確かめたくて・・・・

ゆり”声を聞いてみたいと思うのは私だけ?”

そんな謎かけ風に、少しでも負担を減らしたくて、軽口をたたいてみるも、

夏彦”さぁ?”

と簡単にはぐらかされる。
いいえ、そうじゃない、そういわれたい私を見抜いているだけ。

ゆり”わ〜〜かった!!かける、かけます!!”

私は、そう、結論から言えば、ただ、単純に声が聞いてみたかったのだ。
彼の声を。
私はとても緊張しながら、番号を押した・・・・。

数コールののち、回線がつながった・・一瞬声が出なかった。

それでも、どうにか言葉をつむぎだし、会話を始める。

彼の声の第一印象は、穏やかな声だと感じた。
耳に心地よく響く声。

(ゆり・・・)

名前を呼ばれたその瞬間、びくんっと私の身体に電流が走ったように感じた。
私はそのとき悟った。

私、本当に欲しかった、私。
それは、私自身を認めてくれる言葉。
私の「名前」
それは私自身だから・・・・。

だからこそ私は彼に呼ばれる自分の、名前が身体の奥底に、響いてくる・・・。
身体に熱が帯びてくるのがわかった。
そして、潤ってくるのも、わかった・・・・。

まだ、彼は何も言っていない。
チャットのような行為すらも、していないその時点で。
そう、ただの会話の時点で。

私は、全身に快楽が沸いてくるのを、押さえることが出来ていなかった。
きっとそれを感づかれていたのだろう。

彼の言葉が一瞬、私を貫いた。

(パジャマ越しに、乳首を摘んで御覧なさい・・・・・)
「や・・・・」

かすれがちになる声。
拒絶の言葉を口にしながら、私の指先は、彼の言うなりに動いていた。
シルクのパジャマ越しにわかるほど硬くなったそれは容易に摘むことが出来た。
押し殺した吐息できっと彼にもわかったのだろう、
彼の言葉が、私の耳元でリフレインする。

(ふぅ・・・・)

息の吹きかけられる音が回線越しに、直接私の耳に届く。
思わず身体を仰け反らせ、ベッドをきしませる。
もう、触れることなんて無くても、自分自身の潤みをいやというほど感じていた。

「ぁ・・・やぁ・・・・」
否定の言葉が、否定を成していない。
彼の言葉すら正確には耳に入ってはいない。
ただ、うつろな意識の中で、彼の指示だけが私の手を、指を、動かしていた・・・・。

息が荒く、なっていくのを止められない。
身体が高ぶっていくのを止められない。
彼の声で、私の身体が翻弄されていく。

・・・きっとそれは、私が望んだこと・・・・

彼はそれを見抜いて、いるのだろう・・・。

下着の中に誘導されると、そこはもう、あふれんばかりの蜜。
指先に熱く感じられるほど。

でも、覚えているのはそこまでだった・・・・

次に意識を戻してくるときには、全身に残る、気だるい、感覚だけ・・・

ほんの少しの電話で、私は、絶頂に達せられてしまったのだ。

きっと彼は呆れているだろうと思うと、恥ずかしくて仕方がない。
それでも、私の息がおさまるまで、彼は電話を切らずにいてくれていた。

(イってしまいましたか・・?・・・)
答えられるはずもなかった。
初めての電話。
初めての声。
それだけで・・・・。

狂おしいほどの快楽が私の全身を翻弄した。
初めてだった。
リアルじゃないのに。
彼はそれほどのことなんてしていないのに。
それこそ、彼は、息一つ乱してなどいなかったように感じた。

まさか、こんな風になってしまうなんて・・・・・。
でも、本当は。
望んでいたのかもしれない。
私が、彼に、どんな形でもいい、ある意味のリアルで、イかされてしまうことを。
呆れられるのを承知で。

彼は、無理に逢おうとは言わなかった。
今は、まだ、私自身が揺れている。

パートナーとの離別を私は心に決めていた。
その決断のきっかけに彼を利用してしまいかねない自分が少し見えていたから。
そして私はパートナーにずっとだまされていたことを知ったから。

今までの私はなんだったのか・・・・?
彼とともに生きたいと必死でがんばってきた。
2人のためだからと。
そのすべてを壊すような裏切り・・・・。

最後の決断を、するべきときが近づいてきている。
その情を断ち切ることが出来るか否か?
きっと今すぐじゃないのだろうけれども。
私は、おそらく断ち切ることになるだろう。

でもそれは、
彼”夏彦”がいるからじゃない。
彼は”きっかけ”に過ぎない、きっかけがあっても結果まで行き着くことなど皆無に等しいから。

私が私を知るためのきっかけ。
それは、いつかは通る道。
早まるか遅くなるか、気がつけないか。
どれか。

私はそのきっかけを彼に与えてもらったと感じている。
彼は意識なんてしていない、彼は当たり前のようにそこにいて、そして・・・・
いつか当たり前のように去っていくのかも知れないけれども。

自分らしく生きる道を模索している・・・・・。おぼろげに見えている、その明るいけれども細く険しい道を・・・。
35th The wavering heartへ

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