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私も。
パートナーも。
彼”夏彦”も。
それぞれの時間はめぐる。
私の中のコップに溜まった水、ぎりぎりの表面張力で保たれていた感情。
それに一滴の、波紋・・・・・
ほんのささいなものだったのかもしれない。
けれども溢れ出たそれは、もう、戻ることはない。
流れ出てしまった・・・その瞬間に彼への感情が、情に変わった。
触れられても感じない、感じられないなら受け入れたくない。
そんな自分を肯定し、そして、今、穏やかな中に私はいる。
身体が先に悲鳴をあげた。
心が伴わない交わりが、私を壊していく・・・・。
触れられたくないのに、パートナーは何度と無く触れようとする。
そして、私の感情、状況などお構いなしに触れる。
「したい」
言われれば言われるほど、パートナーを哀れんでいる自分がいる。
それしか彼には確かめるすべがないのだろうから。
言葉ではなく身体をつなぐ以外方法を知らない。
言葉にするのは自分じゃなくなるからというプライドなのはわかっていた。
だが、私が欲しかったのは言葉でも身体でもない、気持ちが欲しかった。
私を大事に思う、気持ちが欲しかったのだ・・・。
ふざけるなと心のそこから自分に向かって叫んでいる自分がいる。
受け入れてやるのが義務だと、叫ぶ自分。
その感情を受け止められない。
彼の自分だけのセックスに、私は身体を反応させることが出来ない。
私は、ただの、彼のはけ口でしかないから。
ストレスを吐き出す、道具でしかないから。
きっと彼は違うと反論するだろうけども。
片方だけの欲望で抱かれることはもはや私にとって苦痛以外の何者でもないのである。
彼の欲しがるままに自身を与え、それが自分の満足であると摩り替えていた。
違うことを身体だけが先に知っていた・・・。
ぷつりと切れた糸・・・・感情が波立たない今、彼のほうがそのうちじれてくることだろう。
それまで、私は、彼のためにそれ以外のできる限りのことはしよう。
それは私の”責任”だから。
彼”夏彦”は?
仕事が忙しい、のだろう。
そして、いつしか連絡も途切れがち。
それもそうだろう。
私に割く時間は彼の余暇だけでいい。
彼が重要視すべきは、リアルだ。
仮想空間の私は彼の重荷になんてなりたくない。
彼にとっての何かでありたいなど、望むべきものではないのだから。
これ以上深入りすれば、彼の迷惑にしかなりえない。
彼が私を好きかではなく、私が彼を好きなのだ。
それだけ、ただ、それだけだ。
私の中に彼がある、それだけあれば、いいのだから。
何度でも言い聞かせて、私がそれ以上を望まないように。
人間だから欲はでる、だからこそ、自制心だけは失わないよう。
一人で歩くだけの勇気。
それだけの力が私にはあるはずだから。
でなければいつまでも私は同じことを繰り返す・・・・。
でもどうかどうか、私から彼を突然に奪ったりしないで。
運命が、回っている今だけは。
離れる日がくるのだろうけど。
私の心が、どこを、誰を見ているかなんて、考えていないのだ。
ただ、私は私自身の後悔の無いようにしたいだけ。
変調をきたしていた身体は今は、ようやく平静を取り戻しつつある。
体力も。
気力も。
神経も。
すべてをすり減らしていたのだということが、わかった。
自身の知らないうちに。
パートナーを想う、その感情だけで、すべてをねじ伏せていた。
でも、気がついてしまった・・・何かで。
崩れていく・・・
作り上げてきた、ものが、脆く、儚く・・・・
何度も何度も補強していた、自分の感情だけで。
彼が、
彼の周りが、
多くの波をぶつけてきたことに対して。
眼を瞑ることで、
見なかったことにして、
彼だけを頼りにして。
心や頭よりも、私の身体は正直に答えをはじき出していた。
悲鳴が、身体から先に上がった。
そして、私はパートナーへ選んだ言葉を並べた・・・・
「身体が、セックスを受け付けない・・」と。
貴方が嫌いなわけじゃない、これは本当。
でも、貴方が好きなのは私ではなく私の身体。
自分の思うとおりに奪える、私の身体、だということ。
心は二の次、私の気持ちなど身体でつなげると思っている。
でも・・・・身体だけでは心はつなげないのだ。
心が伴って、初めて身体が反応する。
それは、彼”夏彦”に言葉で教えられた。
「心の無い身体は私にはなにもしない。」
わかりやすい『言葉』で教えて、態度で示す、彼に私は傾倒していくのをやめることが出来なかった。
私が欲しかった「なにか」だったから。
彼”夏彦”は何の気なしだった。
何気ない言葉で。
何気ない行動で。
彼にとってはほんのお愛想程度のことだったのかも知れないけれども。
いいえ、彼にとっては当然のことだったのだろうけど。
受け取ったことが無かった。人が人を「思いやる」心。
彼からもらったそんな些細な事が何よりも嬉しくて、泣き出しそうになる。
そうすれば、彼が困るだろうけど。
それほどに、私は人から好意を受け取るのが下手だったのだろう。
心の中の彼の存在が大きくなっていくのを、躊躇いながらも受け入れてしまうしかなかったのだ。
私の存在そのものを受け止めてくれたような気がしていたから。
私の心は、私だけのもの。
そして、今、心の一部は、彼”夏彦”に持っていかれていることは自覚している。
そして、また、一部はきちんとパートナーにあることも知っている。
彼しか、知らないという事実。
それらの感情をなんというかは、正しい言葉を知らない私が。
彼への感情は”不可解”
パートナーへの感情は”情”だろうと思ってはいるが。
どんな運命のいたずらだったのだろう・・・・。
彼”夏彦”とつないだのは身体ではなく、言葉が、気持ちが、先だったのだ・・・。
まだ、そのぬくもりを、私は、知らない。
知っているのは、彼の紡ぎだす、おそらくは心からの言葉だけ。
逃げない。
もう。
私は。
とどまることなど出来ない。
回り始める時間ならば。 |