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ーそのキスはあまりにもやさしくて。
もう、どれくらい触れ合っていなかったのかということを自分自身で忘れてしまうほど。
別れてしまったパートナーとの最後のキスはいつだったのだろうか?
それすらも思い出せないほど過去だった。
本当に欲望の排泄のみを求められていたのだと、互いを求めたのではなくただの解放だけ。
自分の欲望だけを満たすためだけの道具だったのだとあらためて気付かされる。
本当はキスするだけで幸せだったのに。
抱き合うことも、何よりも。
そんなことすら忘れ去ってしまうほどの乾いたー関係だったのだ。
いつからだったのだろうか?
それも、もう、忘却の彼方。
今はただ、この感覚だけが私を奪いつくす。
「ん・・・・んん・・・」
頬に触れた手の感触を感じる間もなく、唇を塞がれた。
それはまるで予定調和のようで、なにも不自然さが無かった。
そこに私は、慣れているのだという感覚を覚えた。
・・・・身体だけでいい、ただ、それだけで。
それ以上を望めばきっと破滅する。
この彼にはきっといる。
でも今だけ。
互いの快楽を求めて。
少なくともその間だけ彼を独り占めできるなら。
何も考えたくなかった。
ただ、そのあまりにもやさしく、やわらかい口付けに酔いたい。
その瞬間だけは私を愛しいとそう思ってくれていればそれでいい。
頬を挟まれ、舌を絡める。
力が抜けてくる。
必死になってしがみつく彼の肩に。
その手にすら力が入らなくなる。
離れては戻り、戻っては離れる、
そのキスが私の身体のこわばりを溶かしていったのだと気がついたのは後からだった。
ただ夢中だった。
そのキスをもっと欲しいと、ただそれだけで。
彼の手がカットソーの中へと滑り込んでくるその感触。
少しだけ冷えた手が私の熱さを教えてくれる。
その指先がほんの少し乳房に触れたそれだけで。
私の唇からは喘ぎが漏れてしまう。
抑えきれないそれに後押しされるように彼の手が下着をずらす。
キスを繰り返しながら、指先が身体を弄っている。
声は彼の唇に吸い込まれ、熱い吐息が互いを高めていく。
こんなキスはしたことが無い。
相手が違うとこうも違うのかと、ある一点冷静な部分で観察をしている自分がいた。
かつてしていたのは、キスなどではなかったかとすら思うほど。
それほど、彼のそれはそうー
全身を愛撫するかのようなキス。
そう錯覚させるかのようなキス。
まるで私を好きであるかのようなキスー
そんなことはないのだ、と言い聞かせながら。
求めた。
ただ、ほんの少し揺らいだ彼につけこんだと思わせて下さい。
そうじゃなければ。
そうでなければ。
そのとおりでなければ。
私は彼を求めてしまいかねない。
偽りの愛情でかまわないと。
私を好きになってください、とー望んでしまうときが来てしまう。
望めない何かを望みながら、私は彼のキスを受け止め、返す。
もっと触れて。
私のすべてに。
素肌が外気を感じ、彼の瞳に私の身体が晒されていく・・・・・・。 |