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まるでそれが当たり前のようにドアの内側で抱きすくめられ、唇を塞がれる。
待ち焦がれていた、夢見た彼の腕の中で息が詰まるほど。
離れては、戻り、戻っては離れる。
何度も何度も、吐息を絡ませるようにキスを繰り返す。
ついばむように、いとおしむように、離れるのを惜しむかのように、口付ける。
堰を切ったように求める感情。
−ああ、こんなにも私は彼を求めていたのだ。
そんなことを感じながら、口付けに酔う。
初めての、キス。
初めての、抱擁。
望み、描いていたそれが叶えられていく。
胸の奥が少し痛む。
彼を思い出すから。
間違っているとわかっていて求めた彼を思い出す。
私の中に、彼『も』いる事実にその瞬間気がついたけど。
彼−夏彦の声が私を捕える。
「・・・ゆり・・・・・こうしたかった・・・ずっと・・・」
なんのためらいも無く私の唇が言葉を紡ぎだす。
「・・・・私も・・・夏彦・・・さん・・・」
欲しかった、誰よりも何よりも愛おしい彼が。
口付けながら何度も何度も名前を呼び合う。
欲しかったのだ、私と同じように彼も。
そう信じたい。
信じていたい。
この腕のぬくもりが嘘だなんて考えたくない。
数え切れないキスの雨に私の身体の力が抜けていく。
膝がかくんと折れる。
彼は私を抱き上げると、そのまま部屋の奥へと連れて行く。
薄暗い広めのシティホテルのベッドに私を横たえる。
カーテンの隙間から夕暮れと闇の紫が差し込む。
「ゆり・・?」
「・・・ん?・・・なぁに?」
上から見下ろす彼の瞳に私が写っている。
「逢いたかったよ・・・・ずっとね・・・」
「うん・・・・・・・」
両手を彼に伸ばし、その肩から首へと触れる。
彼の手が私の頬から首筋へと、そしてシャツのボタンにかかる。
「・・ぁ・・・」
恥ずかしさに声が思わず上がる。
「怖い?」
「・・・うん・・・・」
素直に頷く。
「俺も・・だ。怖いよ。」
「夏彦・・・さん・・・も・・?」
「ああ・・・ゆりを・・本当に抱いてもいいのか・・?」
柔らかく、優しい瞳。
かわす視線が絡まり、互いを求めていることを知る。
抱き合うことに後悔するかもしれない。
それでもいい。
今、このとき目の前にいる求めている人とふれあい、つながりたい。
後悔なんか、あとで、いい。
素肌がひんやりとした空気に晒される。
熱く火照る身体に彼の指が、手が滑り落ちていく。
乳房をおおうブラの上から大きな手が包み込み優しく掴む。
「・・・ぁ・・・」
その、感触に思わず押し殺したような声があがる。
「いいよ・・・もっと・・・」
隙間から手を入れてホックをはずすと、締め付けられていたそこが露わになる。
「写真より・・・なにより・・・・」
彼が囁く。
耳元に唇を寄せて。
「ここに・・・ゆりが・・いる・・・」
「なつ・・・ひ・・こ・・さん・・・・」
記憶が巻き戻る。
あの時。
チャットでしたこと。
電話で感じたこと。
全てが。
私の中によみがえってくる・・・・。 |