Realize 2
chapter 27 旅立
雑踏の中、一人、プラットホームに佇む。
本当ならば、傍らにもう一人いるはずだった。
捕まえて、離したくは無かった。
まだ、待っていてくれると都合の良すぎる夢を見ていた。

タイミングを逃してしまったのは彼女であり、自分でもあったと。
すり抜けた抜け殻を抱いて。
ただ一度だけの思い出。

連れ去ってしまえば、多分−
彼女じゃなくなる。

あの時の彼女は、確かに自分だけの彼女だから。
煙とともに薄れていくように。
彼女にとってもあの時の自分は確かに彼女だけの自分。

だから−

いつか、記憶の引き出しの奥底にうずもれていくのだろう。
列車が入ってくる。
扉が開く。
トランクを手にして、乗り込むと、背後で扉が閉まる空気音。
発車のベルが、鳴り響いた。

指定席に腰掛けると窓の外には美しい新緑の景色。
少しだけまぶしさを増した太陽。
新たな季節。
新たな時間。
別々の道を選んだことを実感して。

・・・・ゆり・・・・

夏彦は苦い後悔をかみ締める。

もし、あの時、君の、想いに応えていれば。
もし、あの時、君に、逢っていれば。

もし−

あの時はああする方がゆりのためだとそう信じた。
間違っていたとは今も思ってなんかいない。

それでも−

過ぎ去った時間はもはや戻らない。
この後悔すらも自分の、そして彼女の糧になって、これから先進んでいけるならば。

良かったのだと、そう思える時がいつか来るなら。

シートに深く腰掛ける。
横は終点まで誰も座ることがない。
キャンセル出来なかったチケット。

最後の時間−

規則正しいレールの音が彼女から離れていく距離を刻んでいく。

確かに抱きしめた彼女を。
そしてすり抜けた彼女。

互いの記憶の奥底に埋めて、新しい道を歩くために。

前だけを見よう。
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