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たわいもない会話を交わしながら、簡単なディナーを楽しむ。
なんてこともない。
まるで昔からそうあったかのように。
でも私は。
私だけは知っていた。
最初で最後。
望まない、望めないのではなく、望まない。
先を望まないこと。
これが私が決めた、彼−夏彦−とのルール。
次は無いのだ。
だから忘れない。
今夜のことも。
今までのことも。
決して交わることのないと思っていた接点で因果か偶然かで重なったあの時。
彼がいなければきっと私はまだあのままだっただろう。
何も気がつかないまま、そのままいただろう。
それはそれで幸せだったのかもしれないが。
今はもう、それが幸せでは無いと知っているから。
彼と出会えて、私は初めて知った。
私は愛されてはいなかったのだと。
ただ便利なものでしかなく、名前も何もないものであったと。
だから、自らを守るために自ら生きるために。
私は一人になったのだから。
そこに彼の力が無かったなんて言わないから。
それ以上求めないから。
「ん?」
彼−夏彦がふいに私を見つめていることに気がつく。
「どしたの?」
「・・ん・・・いや・・」
「なぁに?」
小首をかしげて私は彼を真正面から見つめた。
優しく微笑みながら彼はただ見つめていた。
照れくさくなり私は食事を終えると窓辺へと移動する。
「夜景・・・綺麗。」
「見たこと無いの?暮らしているのに。」
「暮らしているからこそ、見ないのよ。いつでも見れるって思うから。でも綺麗。」
「そうか・・・」
そっと後ろから彼が私を抱きしめる。
暖かかった。
切なかった。
次は無いと知っているからこのぬくもりが。
どれだけか恋しかったのか。
自分でもわかる。
「・・・もう一度・・・抱いて・・ください・・・」
窓ガラスの鏡ごしに眼を伏せてつぶやいた。
思い出にするから。
忘れないために。
彼の手が私の身体を強く抱きしめた。
たまらない。
もっと強く。
跡が残るほどに。
そのぬくもりを−
刻み付けたい。
だから−と。
振り向いた私の唇に彼の唇が降りてくる。
受け止めるその暖かいぬめりが私の意識を奪っていく。
「・・ぁぁ・・・」
どちらの声だったのかわからない。
でも互いの声だったのだろう。
眼下に見慣れた、初めての景色。
窓辺に身体を預けながら肌が晒されていく。
「ゆり・・・」
熱を帯びる声が、求めているのだと教えてくれる。
全て、教えてくれた。
知らなかったそれを全て。
関係ないのだ。
何も。
身体と心を抱き合うときには。
なにも、余計なものなど。
彼の唇が乳房をなぞる。
肌に残るそれが快楽を煽る。
頂点にしこるそれをきつく吸い上げると私の脳天に電流が走る。
「ぁあ!!」
「ゆり・・・」
「いい・・・・も・・・とぉ・・・」
覚えていたい。
覚えていたい。
忘れない。
だから、最初で最後にもっと抱き合いたい。
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