Realize 2
chapter 16 終焉
荒い息がおさまるまでそっと腕の中においてくれた。
決して強くはないけれど、守るように。
抱きしめるでもなく、ただそっと私を置く。

彼ー夏彦。

もう夜も遅い。

「家・・・?大丈夫?」
「ん・・?何・・」
「いや・・・」
「今は・・・一人だから。」

言いながら思い出した。
知り合ったときにはそばに人がいたことを。
スリルが欲しいから彼を求めたわけではなかったけれども。

「そうか・・・・」
夏彦はただ黙ってそのままいた。

「今・・何時?」
「・・・・10時近くだな・・・」
「そっか・・・・」

沈黙がイヤではなかったがそれでも私は努めて明るく言い放つ。
「お腹すいちゃったね、こんな遅くなると。」
「・・・・そうだな。」
小さく笑いながら夏彦が見つめる。
笑うと無くなる眼。
その表情を一つ一つ脳裏に焼きつけながら。
二度目は無いのだと知っていても。
それをおくびにも出さずに振舞う。

「ルームサービスにするか・・・外出るのおっくうだな。」
「ん。あっさりめがいいな。」
「ゆりは、そうだったね。」
「うん・・・」
・・・覚えてる・・・・・

時折話したたわいの無い戯言。

・・・もうそれだけでいい。

私を記憶に留めていてくれた。もうそれだけで十分だ。

私は力をもらったのだから。

生きていける。

彼が電話で話しているのをぼんやり眺めながら。

広い背中。
厚い胸板。
力強い腕。

声。

誰よりも私を呼んでくれた声。
確かに必要としてくれていたと、嘘でも信じさせてくれた声。

忘れないよ。
忘れない。

だから。

忘れて、ください。

ただ一度きりのこの出来事を。
貴方にとっての単なる戯れ、でかまわない、から。

心ごと、そのときは求めてくれていたと今は分かる。
そうして。

求めてくれていたこと、それだけが私に残っている。
それが間違いじゃなかったこと。

お互いに求めていたのだ。

彼‐夏彦‐と、私‐ゆり‐の間に。

繋がれた、ライン。

こうしたことも間違いじゃない。

だから。

私を忘れて、下さい。

「すぐ来るって。」
「ん・・・・・」

やわらかく沈むベッドの上で私は心が落ち着くのを感じた。
「何を考えているんだい?」
「・・・・・もう、だいぶ遅いなぁ・・ってぼんやりと。」
「そうだな・・・・」
彼の手が私の髪をなでる。
「本当に、触れたかったよ。」
「うん・・私も・・・」

その言葉に偽りはひとつも無かった。

ようやくたどり着いた、一つの終着点−。
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