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ふと、涼が離れる。
上がった息を整えるように私はその動きをぼんやりと見つめていた。
「ゆり。」
一言だけ。
わかるー
私はただ彼を見つめた。
その瞳は私だけを見ている。
恋焦がれるように私を見ている。
ある種の欲望で。
そっと身体を起こす。
小さく頷いた彼の手が蠢いた。
・・・ああ・・・・・
そうされたいのだ。
私は、そうされたいのだと。
腕をそっと後ろに回す。
私の肌に黒い紐が巻かれ始める。
その食い込む感触が私の意識を混濁させる。
縛られる。
その事実、その感触に私は酔うことを覚えさせられる。
普通のやり方じゃないと人は言うのだろう。
−普通。
とはいったいなんなのか?
互いがそこで快楽を得られるならばそれがその二人の「セオリー」だといえないのだろうか?
私は、縛られたい。
彼は、そう、したい。
私を緊縛し、そのいやらしく、飾られた身体を責め立てたい。
そして、それは互いがそう、したいのだ。
巻きつけられるそれは、そう、彼の手の代わり。
誰よりも支配したいと、言葉で言えない彼の代わり。
縛り付ける、束縛する。
私はそうされたいのだ。
誰かに、隷属させられたい。
それも、自分が認めている相手にだけだ。
だれでもいいわけじゃない。
淫乱な自分を認めながらも。
誰でも、そうなるわけじゃないことを知っていた。
むなしさを知っているから。
そのときだけの快楽では、快感を得られても、得られないものがあることを知っているから。
そして、私はこの相手にそう、されたい。
全身で感じている。
ー縛られるという支配。
それはどちらが?
そんなことを考えながら、その身体に巻きつけられる紐に私の理性が奪われていく。
自分の意思で身体を動かせなくなる。
その、中に火がついていく。
熱く、誰にもつけられたことがなかった火。
最初はごく弱い。
しかし、消えることはない。
細い、それに燃料を投下するように全身に巻きつく黒紐が私を燃え立たせる。
彼の醒めたような、眼の奥に、燃えさかる炎を見る。
もっと・・・・・
もっと・・・・私を見つめて。
貴方の中に私を覚えて。
私だけを。
見つめていて。
絡まる視線に互いの望みを知る。
それが正しいことも。
他の誰がそれは違うといっても、2人だけが正しいと知っていればそれでいい。
それだけが真実であること。
束縛されたのは、互いに。
つながれたそれは、主従の証。
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