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あれからどれくらいの時間が私を過ぎていっただろう。
彼−夏彦−と言葉を交わさなくなってから。
囚われる。
そんなことを許されてはいないと知っていた。
−ただの・・・メル友。
ため息の中で、そう言い聞かせて。
一人だけの部屋に帰り、一人だけの食事をして、一人だけの時間を過ごす。
眠れない夜は、ただ暗闇の中で一点を見つめた。
・・・・・ワタシハマチガッテイナイダロウカ?・・・・・
自分の今、いる場所。
時間。
何度となく、彼とはじめてであった場所へと出向く。
気が向けば、誰かと他愛のない会話を繰り返す。
彼以外の誰かと、同じ快楽を味わえば彼を忘れられるだろうか?
そう、考えて。
愚かな考えだと知っていても、方法はそれしかなかった。
年齢も、
仕事も、
自分自身を別の自分で−
誘う−そして、むなしさの中で刹那の快楽を探す。
**>ほら・・・もっと・・・
ゆり>ん・・うん・・
**>俺の言うとおりに・・・して・・・
ゆり>・・ぁ・・うん・・・
***>お仕置きが・・・欲しいの?・・・
ゆり>・・・・しらない・・・
***>待っていたんだね・・それを・・・
誰も彼も、彼のかわりじゃないのに。
彼を探す。
終わった後の、むなしさの中で彼とのそれを思い出す・・・・・
そして、自分で自分を慰める。
ベッドの中でパジャマの下に手のひらを滑り込ませる。
・・・・・ゆり・・・・・
呼ばれる声の甘さに。
切なさに。
私をそのとき求めてくれたということに。
そして、今は私は一人自分を抱きしめている。
結局パートナーとの決別を選び、私はいた。
寂しさを感じることの少なさに、自分ながら驚いていた。
それほどまでに、自分の中に彼がいなくなっていたことに愕然とする。
全身を埋め尽くすような快楽。
呼ばれる名前。
抱きしめられる錯覚とともに、目覚める朝。
細く涙を流しながらも。
私は振り切るようにベッドから起き上がる。
・・・・忘れない、忘れるもんか。
彼がいてくれたこと。
それがどれほどの支えに自分勝手にしていたことを忘れずに。
これから先、生きていくために。
パートナーとの時間でできなかったことをまるでやり直すかのように。
我知らず縛られていたことをあらためて気付かされる。
それでも・・・・・
夢を見る。
彼に逢う夢を。
もう、なんの縛りも無い私が彼に逢いたいと願うー夢。
忘れなくてはならないのに。
そうして人並みを歩く。
−そこに彼は確かにいた。
「おっはようございます。」
「おはよう。」
「おはようさん。」
今日も一日が始まる。
今までと変わりなく始まる一日。
私がかわったことは知られていても、だれもそのことを言及しない。
仕事とプライベートは別だから。
いつものように仕事をこなし、帰宅の途に着く私。
私のことを知らない土地で私は暮らしていた。
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