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その後二人は嵐山に回り、湯豆腐などをつつき、あれやこれやと寺社仏閣を見て回ると、あっという間に夕暮れが近づいていた。
「なぁ、そろそろ運転させてくれよ。助手席ばっかじゃなまっちまう。」
「・・・しょうがないわねぇ、少しだけよ。」
俊は待ってましたとばかりに、運転席に乗り込むとアクセルをふかした。
「いってみてぇとこあんだよな。」
そういうと俊は一直線に車を走らせ始めた。心地よい揺れと慣れない運転に疲れていたらしい蘭世はついうとうとしかけていた。
「・・・着いたぜ。」
山の頂に近いそこは比叡山パークウェイ。辺りには明かりは少ない。ただ、その場所には満開の桜の木がたたずみ、眼下には暗い琵琶湖とイルミネーションが広がる。
「夜も・・・いいのね・・・」
「ああ、ここは人から聞いていたんだ。見ごたえがあるって。」
「俊。有難う。とっても素敵。」
車から降りた二人が桜の木の下に佇みながら景色と花を楽しんでいた。
「・・俊・・・」
興奮に潤ませた眼で俊を見上げる蘭世、
「知ってる?桜の木の下には・・・」
「人間が埋まっているって?言うんだろう?生き血を吸ってまばゆいばかりの花を咲かすってな。そんなことを言うのか?この口は。」
「だって・・・あんまりにもきれいで・・・」
・・・・・きれいなのはおまえのほうさ・・・・
昼間とは違った雰囲気をまとった蘭世がそこにいた。純真で、無垢で、自分の事を信じきった蘭世。その蘭世に心ごと守っているつもりで守られる自分。
心地よく、それでいてぬるま湯につかっているようなけだるさを覚える。それを不快ではなく受け止めている自分。二人で入ることがあまりにも自然で、あまりにもあたりまえで。どうしてここまでこいつは受け入れる器があるんだろうと我が妻ならばある意味畏敬の念をも注ぐ。その先が自分にだけ永遠にあることを切に願いながら。
「・・・・オイ・・・」
「なぁに?」
振り向き加減の蘭世の全身を抱き寄せ、花風の中熱く激しい口付けを浴びせ掛ける。
「・・・だ・・め・・・・こんな・・・・」
「・・・今・・・欲しいんだよ・・・」
花霞に消え入りそうで、そんなことはありえないのに。確かなつながりが欲しくて互いの熱をてっとりばやく伝え合う。
「・・・ん・・・・・・」
触れては離れ、離れてはまた貪るように唇を求め合う。
「・・・も・・う・・・・誰か・・・きたら・・・・」
蘭世は精一杯の虚勢で俊を押し戻す。俊もそこではそれ以上の深追いは止めた。
「・・・戻りましょうか?そろそろレンタカーも返却しなきゃだし。」
「・・・そうだな・・・」
「ここからは私が運転するね。だめよもう、疲れが出ちゃうでしょう?」
俊を先に助手席に押しこむと蘭世は自身も運転席へ乗り込んでシートベルトをはめようとした。
その手を俊がつかむと、逆の手でリクライニングを倒した。
「・・なに・・・だめ・・・」
「・・・・言ったろ・・・今欲しいって・・」
そういうと俊はそれ以上の反抗は許さないというように蘭世の唇を自身の唇でふさぐ。さっきよりもさらに甘い、さらに熱い口付けで。
唇越しに伝わる熱は蘭世の全身を駆け巡り、奥底の熱を呼び覚ます。心臓がどくんといつもより大きい音を奏でるような気がした。むろん、気のせいだと自分に言い聞かす。
「・・・ん・・ふぅ・・・ん・・・むぅ・・・ん・・・はぁ・・・・」
唇を解放すると首筋へと熱さを移動させる。なで上げるように鎖骨から耳元へと降るほどのキスを続けた。
「・・あ・・・ああん・・やぁ・・・はぁ・・・・」
「・・・・いいっていえよ・・・ほら・・・・」
「・・・ひ・・ぃ・・ああ・・・だめぇ・・・・ああ・・・・」
「・・・・・弱いんだよな・・・ここ・・・ほら・・・・」
「・・・やぁぁ・・いや・・・・ああ・・・・だめ・・・・」
・・・・・自分だけが連れて行かれる・・・・・
蘭世は俊を見つけたくて薄眼を開ける。俊は興奮し、熱のこもった眼で自分を見つめていた。
・・・・・おまえだけじゃない・・・・
そう言われている気がして、蘭世は眼をそらせない。視線を合わせたまま俊はゆるゆると口付けを飽くことなく施していく。
「・・・ん・・・ふぅ・・・ん・・・・」
俊の指先が蘭世のワンピースの前ボタンを外していく。一つ、二つ・・・すべて外し終えると俊は蘭世の方の車のドアを開けた。
「・・・や・・・・・」
「・・・誰も来ない・・・・大丈夫だ・・・・降りて・・・」
「・・いや・・・・そんな・・・・だめ・・・」
「・・・・見せて・・・俺に・・・・全部・・・・」
愛する男から真剣な目で懇願されて否定しつづけることの出来る女など少ない。蘭世はおぼつかない足取りで車から降りる。それを確かめたあと俊も降りてきた。
蘭世の指先がボタンを留めようとするもやんわりと俊が止める。
羞恥心からかろうじて前を合わせる蘭世を桜の木の下まで連れてくる。 |