「体調はもういいの？」
「ああ、別に大丈夫だ。それに一回くらい来て見たかったんだろう？」
「うん、秋とかは来たことあったけどね。」
「そうか。」
新大阪駅から列車に乗り、京都駅へと降り立った二人。観光シーズン真っ只中の京都は駅からしてごった返していた。
蘭世は駅の中でなぜかきょろきょろしている。
「どうした？」
「う・・ん・・あ、あった！俊こっちこっち。」
蘭世はレンタカーのカウンターを見つけるとそこに向っていた。
「すみませーん、予約しました真壁ですけど・・・。」
「はい、お待ちしておりました。」
「・・・・いつの間に・・？」
俊は驚いたように蘭世を見る。
「うん、バスで回るほうがいいんだけど俊の身体に無理させたくないの。車で動こうよ。待たずにすむから。」
「・・サンキュ。」
「へへ・・・」
照れ笑いを浮かべながら、蘭世は手早く手続きを済ませる。
「・・・どれ、じゃ・・・」
「・・だめだめだめ、わたしが運転するの。俊は横でのんびり座ってて。」
「・・・なに？！」
蘭世の借りた車は小型のBMW。
「これしか空いてなかったの。」
「ああ、いいんじゃねぇか？」
・・・・事故っても怪我は少ないな・・・
魔界人だが、人間界で生活する以上、その辺のことはきちんと考えにいたるあたり、さすがは俊である。蘭世はまったく気がついていないのだが。
「・・・なぁ、俺に運転させろよ。」
「だめっていったでしょう？」
「・・・しょうがねぇな。でも俺も運転してみてぇからあとで少しだけ替わってくれよ。」
「それは許可しましょう。」
運転席に蘭世、助手席に俊といういつもとは違うパターンで京都駅を出発した。
ナビはまず、清水寺を目指していた。
街中から、五条の方へ抜けると目指す清水寺の看板が見えてくる。坂の上りきったところの駐車場に蘭世は車を滑り込ませた。
「・・よかった。混んでるから空いてないかとおもっちゃった、俊、いこっか。」
「ああ。」
「安全運転だったでしょう？」
「まぁな。」
おもっていたよりはましな運転だったため、俊はほっと一安心した。
両脇の店を冷やかしながら山門へと向かう。入り口でしおりになる入場券をもらうとそこには春らしく桜の図柄が描かれていた。
「これって、秋は紅葉かなぁ？」
「じゃ、ねぇか？」
緩やかな階段、坂を経て舞台の上に立ったそこは一面うす桃色に染まった。
「・・・き・・れい・・・・・」
「・・・だな・・・・・・」
一瞬何かに呑まれたように言葉を失う二人。しばし見とれ、はっと我に返る。
・・・・・・美しい・・だな・・・・
俊はまだ、見とれている蘭世を思わず見つめる。
桜の薄煙の中にたたずむ自らの妻を美しいと心からそう思っていた。突然妻が自分のほうを向いた。見惚れていたのがばれたのか？
「ね？俊。」
「・・な・・・なんだ、いきなり。」
「こんなだったら着物着たらよかったね？」
「・・・歩きにくいぞ。」
「あ、そっかぁ・・・・」
・・・・大体着物なんか着たらほかのヤツまで見とれちまうじゃねぇか・・・
そうは思っても口には出さない俊であった。
「あ、あっちにも何かあるね。」
「行ってみるか？」
「うん。」
そういいながら二人は境内を散策し、音羽の滝の水を飲んだりと楽しく過ごした。小一時間もいただろうか、その後車を置いたまま二年坂、三年坂へとくだり、転ばないよう気をつけて店を眺めた後、お土産にひょうたんを購入すると再度坂を上り、車へと戻った。
「さ、次へ行きましょう。」
「どこ行くんだ？」
「お楽しみにしていてね。」
蘭世はナビを入力するとアクセルを踏んだ。清水から四条のほうへ上っていくと右手に八坂神社を通り過ぎる。哲学の道への案内も通り過ぎる。高尾方面へしばし走っただろうか、とある八幡宮で車を止めた。
「・・ふふ、一度来て見たかったの。春ぐらいしか中見れないようだから。」
入り口で拝観料を払うと中へと案内される。
「わぁ・・・・」
なんてことはないと思っていたその中の天井は一面花の絵が描かれている。お茶を頂きながら見るそれはまさに圧巻の一言に尽きた。
「ねぇ、すごいでしょう？ここ・・ね。一願成就なんだって。だから俊のこれからをお願いしようと思って。あ、単なる私の願いだから。怪我とかしないようにって。」
「・・・・・・・・」
いつまでたっても自分のことをこんなに思ってくれる蘭世をあらためて俊は大事にしようと心に誓っていた。境内で大福茶をいただき、成就への願いをあらためて思う。蘭世の思いは俊に十分に伝わっていた。その慈しみも。
