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「ちょっと、怜くん!」
「はい?」
キャンパスでいきなり声をかけられ、怜は戸惑った。
「え・・と・・ああ、澪の友達の・・」
「最近、澪ちょっとおかしいよ、何か聞いている?」
「いや・・・なにか?」
「うん、夜中まで遊んだり、・・・それにね・・・」
声をひそめるように
「あんまり、よくないところに出入りしているって・・・」
「そう・・ちょっと話してみるよ・・」
「うん、私たちが言っても聞く耳もたないんだよね。」
「そうそう。」
「ごめんね、心配かけて、澪に伝えておくよ。」
「お願いね。」
ほっとしたように彼女らは教室へと急いでいった。
怜はため息をつきながら、自らも講義へと向かった。
「なぁ・・?」
「おい・・あれ・・・」
一角で女を指差しながら、数人の男がひそひそと話す。
彼女が、やがて、店から出て行こうとする、その後をつけていく。
一定の距離をあけて。
足取りは、確信を持って、それでいて、危うげな。
夜遅い、繁華街。
大通りは明るいものの、すこし隙間に入れば、そこはもはや誰も気がつかない密室。
男たちは打ち合わせたように散らばった。
「おねいさん?」
男の一人が声をかける、その声を相手することなく、女は歩き続ける。
「この間の、続き、もっとしようよ?」
ぴたりと足が止まる。
女の横に別の男が寄り添う。
腰に手が回り、流れるように、女を裏通りへと連れて行く。
無表情に、女はされるがままになっていた。
「へぇ・・・今日は騒がないんだ?」
「されたいんだろう?」
「くくく・・」
ワンボックスカーに押し込まれ男たちに衣服を剥ぎ取られる。
「今日は俺からだな・・・?」
男どもが身体に群がる。
ぬめる舌が肌に這い回る。
指先が全身を攻め立てる。
感情が無くても身体が反応することを知る。
「やっぱり・・声立てないんだねぇ・・・」
・・・・身体なんて嬲られれば防御のため反応する。
快楽じゃない・・・・。
それでも、高ぶる身体に、自分の女を知らされる。
「さて・・・」
最初の男が彼女に押し入る。
「いいぜ・・この女・・・しめてきやがる・・」
・・・違う・・・・
会話の端々から今の男がリーダーだと思っていた。
「次は俺だ。」
代わる代わる彼女の身体を蹂躙していく。
どれも、これも、彼女は違和感だけを感じ取っていた。
「ちっ・・声も立てねぇ・・・」
悔しそうにぎりっと乳首を捻り上げる。
全員が欲望を放出すると、服を投げつけて裏路地に彼女を放置した。
衣服を身につけ、苦しげに彼女が立ち上がったその視線の先には一人の男が立っていた。
「・・・怜・・・」
驚いたように、自嘲げに彼女は薄く笑う。
「なにしてんだよ、お前。」
「何って・・・見たとおりよ。」
「なんで・・・?」
「・・・・・探しているの・・・」
「誰を?」
「分からない・・・・でも・・・」
少しだけうつろな瞳、それでいて明確な意思を持ったそれで。
「探さなきゃいけないの、私が。」
ーそう、自分の為に。
怜はただ、黙って澪を見つめるしかなかった。
・・・・・こんなことを望んでいたわけじゃなかった。
彼女が欲しい。
そのすべてを。
彼女のすべてが愛しい。
自分がわからなくなるくらいに。
だからこそ。
彼女を壊したかった・・・・・・・・・。
関係が、変わっていく。
望むべくも無い方向へと。
どうにも出来ない。
彼女を守りたいのに。
彼女を・・・・。
「送るよ・・」
「いい、一人で帰れる。」
「明日、学校へは?」
「行くわ、もちろん。落せない授業が入っているもの。」
「じゃぁ。待っている。」
それしか出来ない。
もう、彼女を見つめることしか出来ない。
こんなに近くにいるのに。
こんなにも遠い。
澪は答えなかった。
翌日は、薄曇り。
今にも涙が落ちてくるのではないかと思うほど。
怜は待っていた。
ただ、澪がくるのを。
そして、澪はこなかった。
彼をただ、いつしか降りだした雨が濡らしていく。
いつまでも、ただ、立ち尽くして、澪を待っていた。
夜のとばりが落ちても、ただ・・・・・。 |
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