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次に気がついた時には、公園のベンチで1人座っていた。
「眼が覚めたみたいだねぇ?」
「怜!・・・」
「待ち合わせに来てみれば、酔っ払ってぼーっとしているし危ないぞ・・・起こすのもあれだからそのままにしておいたけどさ。」
「え・・?今何時?」
「もうすぐ2時。」
「起こしてくれれば・・・」
そういいかけて、身体に鈍痛が走る。
「いたっ・・・」
「そんなところでぼけっとしているからだ。ほら。」
ペットボトルを渡され、澪は口をつけた。
「送るから、立てるか?」
「うん、平気だよ。」
「まったく、気をつけろよ?」
「うん・・・」
(・・・あれは・・夢・・?)
そうだ、そんなことはあるわけ無いんだから。夢だったんだ・・・・・
澪はそう結論付けると怜のほうへ立ち上がった。
瞬間、どろりとなにか流れ出す感触・・・・・・・・。
「!!!」
「どうした?」
「う・・・ううん・・なんでもない・・・」
(・・・・夢・・じゃない・・・・)
確かに自分は・・・澪は怜に悟られないように必死で笑顔を作る。
「車あっちだから。」
「今日は車・・・なの・・?」
「ああ、飲む予定は無かったからな。家に帰ってとってきた。乗れよ、送るから。」
「うん・・」
崩れ落ちそうになる身体を気持ちで支えながら、怜の助手席に座る。
「大丈夫か?顔色悪いな。」
「うん・・・ちょっと・・冷えたかな?」
「そりゃ車置いてある場所に近いし、な・・さ、行くぞ。眠いなら寝ててかまわない、ついたら起こすよ。」
「ありがと・・」
澪は眼を瞑る。眠れるはずも無かったが、怜と話をすることも怖かったのだ。
シートに深くもたれる澪を横目でちらりと眺める。
・・・・澪・・・・・
怜は、何か言いたげな瞳を一瞬すると、すぐにまっすぐ前を向き、エンジンを響かせた。
心地よい、ゆれ。
低く流れるジャズナンバー。
その音すらも澪の耳を通り過ぎるだけ。
・・どうして・・・?・・・
何故自分があんなことをされたのか?
・・私だと・・・わかって・・・?・・・
澪は身震いする。
怜は黙って、エアコンのスイッチをLOWにする。
・・怜・・・・やさしい・・・・
ふっと、気持ちが和らぐ。
・・でも・・・私は・・・・
涙が出そうになるのを必死で堪えながら、寝たふりを続けた。
・・怜・・・
スピードが落ちてくる。
「澪。」
「・・ん・・・」
「ついたぞ。」
「ありがと・・」
怜がドアを開けようと澪の前に身体を伸ばす。
腕が触れた瞬間、澪はびくんと全身をこわばらせた。
・・・・怖い・・・!・・なんで・・・?・・・
「どうした?」
「う・・・ううん・・・なんでも・・ない・・送ってくれて、ありがとう。」
「いや・・・」
慌てたように笑顔を作ると、さっと車から降りる。
「じゃ・・・」
小走りに家へと駆け込んでいく彼女を見送ると、怜は車を発進させた。
「・・・・・上々・・」
そう、小さくつぶやいて。
一方澪はといえば、荷物を部屋に置くと一目散にバスルームへと飛び込んだ。
少し熱めのシャワーを頭から浴びる。
・・やっぱり・・・・・
ミラーに映る自分の身体に、いくつものあざが残っていた。
周到なことに、すべて服で隠れる場所のみ・・・。
そこに残る、異物感は今になってあらためて感じられる。
「・・うっ・・・うう・・・くぅ・・・・」
両目から、枯れたと思っていた涙が溢れ出し、湯にまぎれていく。
全身をどれだけ洗い流しても嫌悪感だけは流れてくれない。
澪は涙が止まるまで、ひたすらシャワーを浴びていた。
限界寸前でシャワーを止めると、ふらつきながら脱ぎ散らかした服を拾い洗濯機にほおりこもうとした。
・・この服・・・?・・・
一瞬、気がつかなかったが、あの時服は切られていなかった。
切られたのは下着だけ・・自分が身に着けていたそれが見覚えの無いものだとそのとき気がついた。
結局その夜、澪は一睡もできずに夜明けを迎えていた・・・・。
「おはよう・・・」
「おはよう・・澪、顔色悪いな?大丈夫か?」
「うん・・・」
「これでも飲んどけよ、風邪薬だ。」
「ありがとう。でも、大丈夫よ。」
怜はいつもの場所でいつものように澪を待っていた。
「念のためだ、ほら。」
自分の持っていたペットボトルのミネラルウォーターを澪に押し付ける。
「うん・・・わかった・・」
澪はそれ以上固辞できず、薬を飲み下した。
「だめだったら帰れよ?」
「うん。」
少しだけやつれたような澪の横顔を見つめ、怜はにこりと笑う。
「今日は3限で終わりだ、バイトに早くに入る予定だが・・澪は今日は?」
「早めにかえって休んでおくわ。」
「そのほうがいいな・・・」
そっと澪の額に手を伸ばして、
「熱は無いみたいだけどな、気をつけろよ。」
「ありがと・・・怜。やさしいね・・」
儚げな瞳で怜を見上げる。
「行くぞ、ほら。」
促すように、歩き出す。いつもより少しだけ離れて、二人歩いた。 |
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