|
「大浴場いこっと。ね?俊はどうする?」
「ああ、いいな。」
二人は浴衣を抱えて大浴場へと向かう。
先に上がってきたのは俊のほうだった。
まだ、少し濡れた短い髪の毛が額に張り付く。
それをうっとうしげに軽くかきあげる。
「おまたせ。」
「おう・・」
温まり、薄く桃色に染まったうなじ、が俊の目に入る。
眼のやり場に困ったように俊はそっぽを向いてしまう。
「ん?」
小首をかしげて蘭世が俊を見上げる。
「いや・・・」
「あ、ねぇねぇ、あそこ。」
「なんだ?」
「冷たいもの飲ませてくれるって。いこうよ。」
蘭世は跳ねるように、軽やかにロビーのはじに設えた湯上り場所へ行く。
俊はそんな蘭世の後姿を眺めて、少しだけ顔を赤くする。
浴衣に隠されたその裸体を一瞬想像してしまったのだ。
・・やべぇ・・・
ぴったり張り付いた浴衣がどうしても想像をかきたててしまうらしい。
視線をあらぬ方向に向かわせながら俊は蘭世の横で、紙コップをもらう。
「ん?なんだこれ?」
「薬草茶・・だって。」
「そうか。」
ちょっと特有の味がするそれを飲みながら、のんびりと時間をすごすこの満ち足りたこと・・・
「ねぇ、森の中歩けるんだって、散策路があるよ。」
「おら、これ、羽織っておけよ。」
「うん・・・ま・・・俊は?」
「大丈夫だ。」
「へへっ?」
蘭世はちょこんと俊の腕にぶら下がった。
夕闇迫る、森の中、二人はのんびりと歩いていく。あちらこちらの雪椿。
雛 佗 助
一子佗介
初 嵐
吉 備
それぞれ、冷えた空気の中で、必死に咲き誇り、そして最後にその顔を見せながら落ちていく。
「いろんな名前が・・・あるんだねぇ・・」
「そうだな・・」
潔い、その散り方は、不吉という話もあれば、そうではないという説もあるのだ。
花をたどっていくと、二人は湖のほとりへとたどり着く。
ようやく暮れた空の色は紫と赤のコントラストがとてもきれいだった・・・・・。
冬の森は物悲しいと決め付けていた俊は、その風景に圧倒される。
そして、思うのだ。
この風景を一緒に見たのが、蘭世でよかったと・・。
いとしい、いとおしい、狂おしいくらい求めている彼女で。
時折、夢に見るのだ。
自分が、暗闇の中で、たった一人、立ちすくんでいる夢を。
何もない、空間で。
誰からも必要とされていないのではないかと。
そんな中で必ず、差し込む光。
伸びてくる手。
細い手、それでいて、光り輝く力を持ったその手。
自分の存在価値はそこにある。
その輝く光はやがて人となり、そう蘭世になるのだ。
彼女がいるから自分が今ここにいることが出来るのだ。
「ね?」
「ぁ・・・ああ?なんだ?」
「もう、聞いてなかったの?夕焼けの瞬間ってきれいだねって言ったの!」
ちょっとふくれたように顔をぷいと背ける。
「そうだな・・・」
俊はそういいながら蘭世を抱きしめる。
「や・・ちょっと・・」
「寒くないか?」
「だ・・大丈夫・・よ・・?」
「そうか・・・」
俊はそのまま手を浴衣のあわせから差し込んだ。
「きゃっ・・」
「あったかいなぁ・・・なぁ・・?」
「何・・するのぉ・・こんな・・とこで・・」
「ん?」
俊はもう片方の手で蘭世のあごを持ち上げると、そのまま唇を奪う。
「んん・・・・」
舌先で唇をノックして、隙間をあけさせると強引に舌を差込み絡ませる。
外気温に反比例するような口内の熱さが、伝わる。
互いに互いが求める温度。
その熱さは変わることがないように。
俊の指先が蘭世の頂点を探り当てる。
「!!!」
びくんと蘭世の身体が震えた。
温泉でしっとりとした肌の感触が妙になまめかしく感じられた・・・。 |