|
「ねぇ?」
「ん?」
雑誌から眼を離さず私の問いかけに答える彼。
「ねぇってば?」
「だから、なんだよ。」
ようやく眼をあげ私を見る。でも真正面からじゃない。
照れくさそうに。
「お散歩行こうか?」
「ああん?なんで?」
「いいから!」
私は彼の腕を引っ張る。
「外はもう寒いぜ。」
「いいの。はいこれ。」
フリースを渡すと自分もハーフコートを纏う。
「ね?」
私の気まぐれにやれやれと言った様子で付き合う彼。
午後の街を歩き、電車に乗る。
「おい、どこまで行く気だ?」
「ふふ、内緒。」
電車に揺られて2時間ほど、到着したのはj冬の気配が深い山並みの中腹。
「なんだぁ?」
「明日は休みだって知っているもの。いいでしょ?」
ちょっと出かけるには少しだけ大きいかばんに納得。
「いつとったんだ?」
「ひ・み・つ。」
軽やかなステップで、階段を駆け上る彼女。
苦笑しながらついてくる彼。
「いらっしゃいませ。」
「予約していた・・・・真壁です・・」
「ようこそ・・お待ちしておりました・・・ご連絡いただければお迎えに上がりましたのに・・」
「いいえ・・歩きたかったので・・ね?」
風に攫われた黒髪の隙間から、見える笑み。俊は頷く。
「お荷物お持ちいたします!」
仲居が俊の荷物を持って旅館の中へといざなっていく・・・
二人はその、森の中へと踏み入った。
そこは幽玄の世界だった。
都心から2時間ほどの場所とは思えないほどの静けさ。
無駄な物音ひとつしない、空間。
足元から葉ずれの音。
空からは無音。
「こちらでございます、真壁様。」
通された部屋は、静かな湖畔にあった。
「お風呂は部屋と、大浴場がございます。・・・夕食は何時にお持ちいたしましょうか?」
「7時くらいで・・」
「かしこまりました。」
仲居が部屋を出て行く。
「きれい・・・ねぇ・・・・」
風も何もない。静かな水面が見える。
心の平穏をそのまま表したようなその湖を二人飽きることなく見つめていた。
|