Sleeping 3
何日か後、メヴィウスが薬を届けてくれたので何とか飲ませてみるも覚醒にはいたらなかった。
ただ、眠り続ける蘭世、その表情はあくまでも幸せそうである。
みな、心配そうに蘭世を見守るしかなかった。

夜毎俊は蘭世の部屋にこっそりと忍び込む。何をするわけでもなくただ、彼女の命を確かめるために。
魔界人だから死ぬということはないだろうが、それでも永遠の眠りということにならないとも限らない。
俊一人置いて先に眠りについてしまわないだろうかと、不安に駆られるから。
その夜も夜半すぎ、みなが不安の中寝静まったあと俊は蘭世の部屋を訪れる。
まるで儀式のようにその手を握り締め、唇を合わせる。
温かいことに胸をなでおろす。そのとき、
「・・あ・・・・・」
俊は蘭世のその声に心臓を鷲掴みにされる。いつもより艶めいた聞いたことのないような声。
「・・・ぁぁああ・・・ま・・かべ・・くぅ・・ん・・・」
初めて聞くその声に俊は動揺した。そして自身の身体にストレートに響いてくるそれ。
・・・どんな夢・・・見てんだよ・・・お前・・・・
その夢の中をこじ開けて見たい衝動に駆られながら、俊はその少しだけ開かれた唇に再度自分の唇を押し当てた。
「ん・・・・」
「!!!」
そのキスに蘭世が応えてくる。あわてて唇を離すが蘭世が目覚めた様子はなかった。
・・いったい・・・
俊はそのまま蘭世を見つめた。
闇夜に彼女の唇だけが光を持っているように思えた。

その日を境にして、蘭世の身体が見る間に衰弱の一途をたどり始めた。

「蘭世・・・」
椎羅は毎日泣きながら蘭世を見つめる。そんな妻を慰めながら望里もまただいぶ消耗しているのが分かる。
「お姉ちゃん・・・・起きてよ・・・」
鈴世は涙目になりながら蘭世を揺らすときもある。
俊は昼間はかろうじて学校に行き、身が入らないまでも練習を欠かさないようにしていた。そうして夜は蘭世のもとへ帰り、夜中にそっと見つめる。
「あ・・・やぁぁぁぁ・・・・」

蘭世のか細い叫びが俊を呼んでいるような気がする。俊は思いきって繋いだ手から自分の意識を蘭世の中に潜り込ませる決心をした。
少しづつ、少しづつ俊の意識が蘭世に同調していく。そうしてようやくたどり着く蘭世の心の奥。
そこはあちこちに明るい笑い声が絶えない。それも見覚えのあるものばかり。
二人で出かけた遊園地。
俊が終わるのを待って帰る帰り道の道草。
アパートでの日常。
すべてが二人で積み重ねてきた歴史。
・・・どうしたっていうんだ・・・こいつ・・・
その断片が映画のように流れては消えていく。すべての源が先にあるように思えた俊はさらに奥へと進んでいく。
フィルムが巻き戻るようにある一点に向かって動いている。
その先にはたして、蘭世はいた。
素肌で座り込んでいた。横には抱きかかえるように俊自身がいた。
「真壁くん・・・・」
「江藤・・」
「わた・・・私・・・」
「落ち着けよ。なんだ?」
「あの・・ね・・・もっと・・・真壁くんの近くに行きたい・・の・・」
「ああ。」
そういうと蘭世のそばにいる俊は強く蘭世を抱きしめる。
「私だけ・・じゃないのね?本当に?」
「そうだ・・・」
蘭世が抱き返すとその腕の中で俊が霧になって消えていく。
「ああ!!!」
蘭世の瞳から涙がこぼれてくる。
「私・・・・私・・・真壁くん・・に・・・もっと・・いろんなことして欲しいなんて・・」
自分を恥じて、責めている蘭世。
「私・・変だ・・キスだけじゃ、いやなの・・・」
両手で自分自身を抱きしめながら蘭世は首を左右に振る。
「あの、腕の中でもっと強く抱きしめられたい。そして、もっと・・・」
望むのは、俊との時間。誰にも邪魔されないつながりが欲しい。
「こんな、私なんか真壁くん、きっと嫌いになるわ・・・私・・・汚い・・」
キスされるたび身体が熱く燃え立つ。もっとと望む。一緒に眠りたいと。

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