Sleeping 2
数日後、いつものように俊はトレーニングのため早朝練習に行っている。大概蘭世が簡単な食事を持って登校してくるのが常だ。
その日に限って彼女は俊の所へは来なかった。
・・・調子でも悪いんだろうか?・・・
少なくとも昨日はそんなことはなかった、いつもどおり遅くにはなったが一緒に帰った。そのときも具合の悪そうな様子はなかった。
教室に行く道すがら彼女の姿を探す。ふと見つけた人影に聞いてみる。
「小塚、江藤は?」
「うん、今朝は一緒じゃなかったわ。そっちに行ったと思って先にきたんだけど・・・来てないの?」
「ああ、じゃいい。」
俊は蘭世の思念を探す。
・・・江藤・・・・
席につき、さらに遠くまで探すが見当たらないのだ。
・・おかしいな・・?・・・
蘭世の自宅まで意識を飛ばす。脳裏に見えてくる彼女の部屋、横たわる彼女、心配そうに見つめている彼女の家族。
・・・・なにか・・あったな・・・
俊はすくっと立ち上がる。
「真壁!もう先生来るぞ。」
「わりぃ、今日サボり。」
とっとと荷物をまとめると学校を後にした。

「おじさん。」
「ああ、真壁くん。どうしたね?」
「江藤、どうしたんです?」
「あ・・・実は・・」
話をまとめると昨夜は別にどうということもなかったらしいが今朝になっていつになっても起きてこないから部屋に行ってみると彼女がまだ眠っていたので起こしてみたもののまったく起きる気配がない。
メヴィウスのところへは今使いを出したらしい。
「鈴世は?」
「今日は学校に行かせているよ。心配していたんだがね。」
「彼女に会ってもいいですか?」
「どうぞ。」
ベッドに横たわる彼女は、いつもと変わらなかった。ただ、そのくるくると変わる表情を見せる瞳だけが閉じられたまま。
椎羅が疲れた表情で部屋にいただけ。
「ずっとこうなの。朝から・・・」
「そうですか・・・」
俊がベッドサイドの椅子に腰掛ける、そっと椎羅は部屋を出て行った。
「江藤・・・・」
何があったんだ?
どうしたんだ?
ただ、そこに昏々と眠りつづける彼女。俊は蘭世の手を握る。その手からはぬくもりが確かに感じられた。
人がいないことを確認して、緩やかにその唇に口付けた。
じんわりと繋いだ部分に熱が帯びる。
確かに彼女はここにいるのに。
離した唇は薄くピンク色に染まる。
でも、その瞳は開かない。
トントンとノックの音がした。慌てて俊は体を離した。
「真壁くん、コーヒーでいいかい?」
「有難うございます。」
ストレートのコーヒーを望里とともに飲み干す。
「なぁに、大丈夫さ。蘭世のことだ、すぐに目を覚ますさ。」
「そう・・・ですね。」
夕方まで蘭世を見舞うと俊は練習にジムへと向った。
しかし、翌日もその翌日も蘭世は眼を覚ます様子はなかった。俊は毎日練習が終ると蘭世の所へ通うという日々が続いた。
望里がある日とうとう言い出した。
「真壁くん、もしだったらしばらく我が家にいるかい?」
「え・・いや・・それは・・」
「魔界からの連絡も取りやすい。メヴィウスも今覚醒の薬を作ってくれている。」
「・・しかし・・・」
「心配は、みんな一緒だよ。幸いにも部屋はあるから。」
「はぁ・・・」
俊は躊躇いながらも最終的にはそれを受け入れた。蘭世の部屋に程近い客間を示される。
「江藤・・・・・」
・・・俺は・・・何も出来ないんだろうか・・・・
わけもなく、ただ眠りつづける彼女、さすがに少し面やつれしたように感じられ始める。俊は夜半にそっと部屋を抜け出し、蘭世の部屋のドアを開ける。
「・・・ま・・・かべ・・・く・・ん・・・・」
「江藤!!」
目を覚ましたのか!!
いそいで駆け寄って見るがそうではなかった。ただ、その表情はうっとりとなにか嬉しそう。
・・・俺の・・夢か・・・・
しばらく見つめ、部屋を後にする。

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