恋をした。叶わぬ恋をした。あの人には、もう、他の大切な人がいた。
見るのが、2人を見るのがくるしい。いっそう、涙で目がつぶれてしまえばいい。
そうすれば、貴方も貴方の大切な人も見ずに済む・・・。
空色少年
5月21日、は問題の合宿地の旅館にいた。
もうすぐで、ミーティングが始まる。
「大丈夫かな?オレ・・・。」
5年という、長いハンデを心配する。
「どうしたの?」
困ったような顔をしていたせいか、は隣にいた選手と思われる人に声をかけられた。
「あ。大丈夫です。」
は笑顔で言った。
「迷子になったの?」
どうやら、この人はのことを迷い込んだ子供だと思っているらしい。
「・・・。」
は黙り込んで、
(久しぶりに子ども扱いされた・・・。
ていうかオレちゃんと、コーチ用のジャージ着てるじゃんか!!
何で分かんないんだよ!!しかもしゃがんで、目線を合わせるなぁ!!!)
と突っ込みたい気持ちを抑えた。
「あー!!さんいたいた!」
そこに登場したのはサッカー界の王子様、中田浩二である。
「あっれぇ?さん、ヒデさんと仲良くなったの?ヒデさん面倒見良いからねぇ。」
「違うよ。こいつ、オレの事、迷子と勘違いしてたの。」
はあきれて言った。
「まぁ、さん小さいし、童顔だし、声も高めだし、それは仕方なしでしょ。」
「仕方ないとか言うな!」
「ハイハイ、悪かったよ。ヒデさん、この人はさん。
前に言いましたよね?子供っぽい。て・・・。」
浩二がそう言うと、は怒って、
「オレは23歳でもう、大人だ!!」
と怒鳴った。
「23歳?」
ヒデさんと呼ばれている人間が驚いたように呟いた。
「あ。信じてない。ヒデさんと一つしか変わらないのにねぇ。」
浩二は怒っているに言った。
「何?こいつ、22歳なの?」
質問してくるとに浩二が
「違う。24歳。」
と答えた。
「24?オレより年上なの?」
「そう、年上。ヒデさん、ミーティングもうすぐで始まるんですよね?」
呆けている“ヒデさん”に浩二が声をかけた。
「あぁ。あと少しで始まる。」
何とか答えるがその表情は信じられないと言っている。
「さん、オレと一緒にいる?」
ニヤニヤ笑ってくる浩二に、はどこか身の危険を感じて、
「いや、やめておく。」
と答え、ミーティングルームの隅のほうに行った。
「ちっ。」
浩二は舌打ちをした。
「浩二って年上好みだっけ?」
“ヒデさん”こと、中田英寿はやっと、立ち上がって言った。
「ん?オレの守備範囲は広いですよ〜?」
浩二はまだ、ニコニコ笑っている。
さすが、王子様。笑みは絶やしません。
「お前、色んな人に手つけてるもんなぁ。」
中田は、あきれ果てたような声を出した。
「そういう、ヒデさんこそ、左足のあの人とは上手くいってるんですか?
あっ。あの人は利き足は両方でしたねぇ。」
浩二は、笑ってその場から離れた。
そしてミーティングがが始まった。
は、監督の言葉(訳された言葉)を一言も聞きもらさずまい。
と、しかっり聞いていた。
「ワールドカップの前に、ウルグアイと親善試合があるんですね。」
は、隣に座っている同じコーチの山本正邦に言った。
山本の外見はいい歳をしたおじさん。といった感じだ。
「そうだよ。そして、ワールドカップの初戦の相手はベルギーだ。
気を引き締めないとな。」
「で、何時から練習ですか?」
「5:45からだよ。バスで移動。」
「・・・。バスって、運賃いくらですか!?」
あまりにも真面目に聞いてくるに、山本は噴出す様に笑い、
「大丈夫だよ。そこら辺は心配しなくても。予算からちゃんと出るんだ。」
と言った。
それでも、まだ納得のいかない様子のに、
「払わなくていいんだよ。」
と山本は笑いながら言った。
「でも、試合の連続はしんどいなぁ。」
は、ため息をついて、山本に言った。
山本は笑ったまま、
「しんどい何て言ってられないぞ?本当にしんどいのは選手の方なんだから。
俺たちはそのお手伝い。」
と言った。
「サッカー、好きなんですね。」
は微笑んで言った。
「あぁ、好きだよ。」
山本も笑って言った。
(すごいなぁ。)
は、山本のサッカーに対する気持ちに尊敬した。
同時に、自分が本当にこんな所にいていいのか、自分は場違いじゃないんだろうか?と思えてきた。
自分は一度サッカーから逃げた人間だ。
つらくて、どうしようもなくて、そのつらさに耐えれなくて、逃げた。
そして、あれから今まで静かに生きてきたつもりだったのに、如何いう訳か、またここに戻っている。
(オレは、ずっとそれの繰り返しをしていくのだろうか。)
それは、にも周りにいる人間にも分からない―――。
知っているのは、ただ一人。神だけだ。
ミーティングがやっと終わり、たちはバスに乗り込んだ。
は浩二の隣に座った。
「浩二、お前って、ポジションどこ?」
バスが走り出した。
「代表では、DF。鹿島アントラーズでは、MF。」
浩二は、何かの雑誌を読みながら言った。
「ふぅーん・・・。」
は浩二の読んでいる雑誌に顔を突っ込んで、一緒に見た。
「さんは、何処だっけ?」
「ん?オレは、オールラウンダ―だったから、何処でもやったよ。
MFも、FWも、DFも、でもGKはやらせてもらえなかった。
背が低いから無理だ。て言われたよ。
まぁ、たいていはMFだったかな?欧州のときも、中学のときもね。」
「そっかぁ。オレ、思ってたんだけど、さんって何年生の担任やってるの?」
「中学2年。」
は、短く、雑誌から目を離さずに言った。
「えっ。じゃぁ、思春期真盛りの子供を担当してるのー!?」
浩二の声は大きく、バスの中に響いた。
「浩二、声大きい。」
は、浩二を睨んで言った。
「なんや、浩二でかい声だして。」
後ろの席から、ひょこりっと、顔を出して言ったのは、宮本恒靖。通称ツネ。
「何もないです。」
浩二は雑誌に集中した。
「だれ?」
は宮本の顔を見て言った。
「さん、その人は無視しといた方が良いよ。」
「浩二に聞いてるんじゃなくて、この人に聞いてるんだよ。」
「俺は、宮本恒靖いうねん。よろしゅう。ツネでええよ。」
「オレは、23歳。臨時のコーチ。オレの事は好きに呼んでいいよ。」
は、宮本の印象が良かったのか、笑顔で言った。
それとは反対に浩二はつまらなそうな顔をしている。
「じゃぁ、って、呼び捨てでもええ?」
「うん。良いよ。生徒からも、呼び捨てにされてるし。」
と、が言った瞬間に、浩二が敏感に反応して、
「生徒からもぉ!?」
と不満そうに言った。
「うん。だって、奴らとはそんなに年離れてないし、オレもあいつらの事、呼び捨てだし。」
「何や?は、先生なんか?」
「ツネさんには関係ないですぅ。」
不貞腐れる浩二。
「先生だよ。中学校で数学教師やってる。」
が答えた。
「へぇ。頭良いいんだね。」
宮本の横に座っている楢崎正剛、通称ナラ。が言った。
「ナラさんまで、オレのさんに手出さんといてください!」
浩二が吼えた。
「君は誰?ていうか、オレは何時から浩二のモノになったんだよ!」
は浩二に怒鳴った。
笑い声が少しおきて、
「俺は、楢崎正剛や。浩二と仲良いみたいやね。」
と楢崎が言った。その楢崎の一言に浩二が、
「当たり前っすよ。オレとさんは、一緒に風呂まで入った仲やし。」
とうれしそうに言った。
「いや、それ何年前の話だよ。」
浩二の言葉に呆れる。
「誰と誰が一緒に風呂入ったって?」
と、通路挟んで浩二の隣に座っている中田が言った。
「オレとさん。」
笑顔満面に言う浩二にが怒鳴った。
「だーかーらー、それは、子供のとき!しかも4,5歳の時だろ!?」
その一言に浩二はニヤニヤ笑って、
「そうだよ?別に誰も変に思ってないって。何でそんなに赤くなってるのかな?さんは。」
「なってない!!」
さらに怒鳴るが、赤くなったままでは説得力がない。
「、説得力ないで?」
宮本はクスクスと笑って言った。
「ツネまで、言うな。惨めに思えてくる。」
は、ため息をついて言った。
「あ。さん、今日ここで練習するんだよ。」
浩二がそう言った時、バスが大きくカーブした。
目的地について、一同は監督の指示に従って、練習を始めた。
そう、始めたときはもやる気満々で張り切っていたのだが、
段々終盤に近ずくにつれて北海道とは違う暑さに、慣れない土地での運動に参っていた。
「何でこんなに暑いの・・・。」
は、最後のストレッチを選手と一緒に輪を作ってやっていた。
「さんは何処に住んでいるんですか?」
と違って、疲れる様子を見せる事がない中田が言った。
「北海道。出身地は、浩二と同じ滋賀県。
そのまま、滋賀県で過ごして、小学生の時に北海道に引っ越して、
高校に上がるときに、欧州に行って、北海道に戻って来て、今に至る。中田は?」
「俺は、山梨出身で、今はイタリアに住んでいます。さん、高校の時は、何処の国にいたんですか?」
「イギリスー。」
は短く答えて、足を開脚にして、ベターと、上半身を芝生にくっ付けた。
「柔軟性が良いのは、変わってないね。」
浩二も、同じような体勢をとって言った。
「まぁね・・・。でも、この体勢で話すのはキツイ・・・。」
は、体勢を元に戻して、
「でも、修学旅行で、仙台に行ったことはあるよ。」
と言った。
「オレは、修学旅行は東京だったよ。ディズ●ーラ●ドに行ってきた。」
浩二も元の体勢に戻って言った。
「俺も東京でしたよ。同じくディ●ニー●ンドでしたよ。」
中田も元の体勢に戻る。
「良いねぇ。若い者同士で若い頃の話・・・。」
同じ輪を作っている、年配(失礼)の中山雅史、通称ゴン中山。が言った。
「誰?」
は暑いせいで不機嫌なのか、睨んで言った。
「俺の事も知らないの?て言っても知らない人は知らないもんなぁ。」
中山がそう言うと、は無表情で、
「うん。知らない。」
と言った。
「俺は、中山雅史。ゴン中山って言われてる。」
中山はにっこりと笑って言った。
「あぁ!!ゴン中山なら知ってる。よろしくね。
オレは、23歳。臨時コーチだよ。」
は中山につられたように、にっこりと笑った。
「うん。知ってる。よろしくね〜。ちゃん。」
中山はニコニコ笑ってきた。
「ちゃん?まぁ、別に、好きに読んでくれれば良いけど・・・。」
は呆れたような顔をした。
そして、その横では浩二がため息をついていた。
「だぁ!もう駄目!暑いィ!」
はそう言って、芝生の上に横になった。
「さん?」
浩二が心配そうにの顔を覗き込むと、は一言、
「暑い・・・。」
と言った。
気候がそんなに違うのか?
と、と一緒に輪を作っていた人間は思った。
「北海道の夏はもっと涼しいんだ。
ていうか、5月でこの暑さはないだろ?」
は、額の汗を手の甲で拭った。
「終ったら、各自給水して!」
山本の支持が飛んだ。
「さん、皆終わったから給水するけど、水いる?」
「いる。良いよ。自分で取って来るから。」
は、そう言いつつ、ゴロゴロしながら、
やっとの事で立ち上がって、水分補給をした。
ついでに、青い大きなバケツに入った、水で首から上を濡らした。
「つべたい・・・。」
髪の毛も顔もびしょびしょに濡れている。
「・・・。どうしよ。」
(濡らしすぎた。風呂上りみたい。)
はきょろきょろと辺りを見回しタオルを探していると、頭上から声が降って来た。
「、風邪引くで。拭いてやるから、こっち来い。」
いつの間にか、隣にいた宮本に手招きされ、宮本のあとについて行った。
は、しゃがんだ宮本に、ガシガシと、でも丁寧に頭をタオルで拭かれた。
「・・・。ツネの手、熱いんですけど。」
がそう言うと宮本は、
「んー?気のせいや、気のせい。
それにしても、派手に濡らしたな。びしょ濡れやん。」
頭を拭きながら言った。
「暑かったから、仕方ない。」
「今日は、そないに暑うないと思うねんけど。」
柔らかいタオルの触感が気持ち良い。
「うーん?北海道に比べたら、暑すぎる。
それにオレ、北海道でも特に寒いところに住んでるし・・・。」
は宮本の暖かい手に心地良くなって、目を細めた。
「そう言われると肌、白いな。」
「寒いところにしか、住んだ事ないから。」
「ん!終ったで。」
タオルの上からは宮本に頭をなでられた。
「どうも。」
は、頭に垂れているタオルを取って言った。
「ほな、ロッカールーム行こか?」
「あぁ、よく考えれば、そこでシャワー浴びればいいんだ。」
「まぁ、そうやな。」
「あぁ、後で浩二に叱られるや・・・。」
は濡れたタオルを首にかけた。
「思ったねんけど、浩二とって、どないな関係なん?」
「従兄弟だけど?そんなに似てないかな?」
は変に乾いた髪の毛を触って言った。
「言われると、少しだけ似てるかもしれへん。」
宮本は、とロッカールームに向かいながらの顔を眺めた。
「あんまり、ジロジロ見るなよ・・・。」
「すまん。でも、はどう見ても、王子様タイプには見えんなぁ。」
「そりゃぁ、童顔だし、背も低いから見えないだろ?」
は、ロッカールームの戸を開けた。
「ちゃ〜ん!」
を中山が迎えた。
「何?」
が愛想なく答えると、中山はそんなの態度を気にする事無く、
「今日、ツネの部屋でAV大会するんだけど、ちゃんは参加する?」
と何処か楽しそうに言った。
「AVって何?」
はそんな中山とは正反対の様な、無表情で言った。
そして、これはボケてる訳でもなく、本人は大真面目である。
「AVも知らんとは!」
中山はこれはいかん!と、自分の額をペシっと叩いた。
「ゴンさん、世の中には純粋な奴もいるんだよ。」
と、中山の肩を叩いたのは、楢崎。
「っていうか、何で、オレの部屋やねん!?」
反発したのは宮本。
「それより、AVって何々だよ!?」
「「「はぁー。」」」
中山、宮本、楢崎の3人が同時にため息をついた。
「は知らん方がええかもしれへんな。」
と宮本。
「そうだね。」
同意したのは、中山。
「でも、男として知っとくべきや。」
反論するのは楢崎。
「おい、ナラ。この純情少年に通じる訳ないだろ?」
中山は、を指で指して言った。
「少年〜?」
が敏感に反応した。
しかし、3人は、の言葉に耳を傾けない。
「そうだな・・・。」
楢崎も納得た。
「には、悪いけど、そういう事やさかいに、ごめんなぁ。」
宮本は、苦笑して、の肩をポンポンっと、叩いた。
そして、この日、本当にそういう視聴会があったかどうか、という事を知る人は少ない・・・。
後書き。
今日は、緋色隼樹です。
今回も変なもの書いて御免なさい。
特に、ファンの方々、御免なさい。
そして、何故か、稲本さんが登場して来ない!!本命なのに(笑)
何で、登場しないんでしょうね?(聞くなよ。)
それでは、また後ほど・・・。
以上!緋色隼樹でした!!
音楽と詩は偉大なり。