翌日、ザックスはクラウドが眠っているうちに総務の送金窓口へ足を運んだ。
窓口に詰めていたネリーに事情を説明してクラウドの送金先を教えてもらい、その口座へ当分送金しなくても問題ない程度の額を送った。
手続きを終えて自宅に戻り、すぐに寝室を確認すると、ベッドの上でクラウドで身体を起こしてる姿が目に入った。
薬が効いたのか熱は引いたようで、荒かった呼吸もすっかり治まっていた。
「よお。調子どうだ」
「…大分いい。そろそろ寮に戻る」
クラウドの言葉にザックスは眉を上げて、あからさまに不快そうな表情を浮かべた。
「まだここにいろ。ぶり返したら今度は仕事中に倒れるぞ。そっちの方が周りに迷惑だ」
「……」
ザックスにぴしゃりと言われ、クラウドは黙り込んでしまった。
少しきつい言い方かもしれないが、こうでも言わなければ本当に帰っていただろう。
ザックスは閉じていた寝室のカーテンを少し開けると、クラウドに背を向けたまま話しかけた。
「さっきお前の母ちゃんのところに送金しといた」
「!!」
「だからもう無茶なバイトはやめろ。総務に副業のことバレてたぞ」
ザックスの言葉に動揺したようにクラウドは身体を揺らす。
何か言葉を返そうとザックスをにらむが、すぐ目を伏せると一言だけ告げて黙り込んでしまった。
「…ごめん」
* * *
夕方になり、寝室の窓から赤い光が差し込んでいた。
ザックスはカーテンを閉じながら、朝と同じようにクラウドに背を向けて語りかけた。
「なあ、病気治ったら寮に戻る?」
「…当たり前じゃないか、そんなの」
それは当然といえば当然の答えだった。
無駄だとわかっているが、それでもザックスは言葉を続けた。
「お前さえよければ…ずっとここにいてもいいんだけどな」
その言葉にクラウドは一瞬息を呑んだ。
そして、返って来たのはやはり否定の言葉だった。
「そんなこと…出来るわけないだろ」
だろうな、と寂しく言ってザックスは寝室から出て行った。
* * *
日はすっかり沈み、夕飯の頃合になった。
食欲はまだ戻っていないようだが薬を飲むためにクラウドも何か胃に入れる必要がある。
かと言ってずっとミルク粥では飽きてしまうだろうとザックスは何か食べたいものはあるか聞こうと寝室のドアを軽くノックして入った。
するとクラウドはベッドの上で静かな寝息を立てて眠っていた。
倒れた日に比べて幾分血色がよくなったように思う。
たかだか二日程度ここにいただけだが、それでもクラウドの心身を休ませてやれたのかもしれない。
やはり、一人にさせたくない。自分の元にいさせたい。
だがクラウドがそれに素直に肯くわけがない。
眠るクラウドを見つめながらザックスはぼそっとつぶやいた。
「なんで…オレのこと頼ってくれないんだろうな?お前は」
その答えはわかっていた。
自分を信じてくれない人間をどうして信じられるだろう。
潔白だったクラウドを讒言に惑わされて身体を売っていると疑った。
友達だと言いながら他の連中と同じように疑っていたのだ。
今回もそうだ。
母親の入院費用の為に日雇いの仕事をして小額ながらも送金していたクラウドをよからぬことをしているのではないかと疑ってかかったのは他ならぬ自分だ。
ありもしない妄想でクラウドのことをなじったのは誰だ?
クラウドのことを信用せずにどうして向こうから信頼してもらえると思っている?
「最低だな……」
雪のように白いクラウドをこの手に入れたい。
手に入れた瞬間に穢してしまうかもしれない。それでも手に入れたい。