粉雪
  




第一話 下された任務       side:Zack



 ミッドガル近郊にある山間部にて建設中の神羅カンパニーの施設周辺にモンスターが大量発生した為、掃討命令が下され、主戦力のソルジャーと補助要員として治安維持部門から一般兵が投入されることになった。
 その討伐隊に選ばれたソルジャークラス2ndのザックスは副隊長に任命された。
「要はただのモンスター退治ね…」
 ザックスはソルジャー用の執務室でパソコン画面に映し出されたミッションの内容を見ながら同期ソルジャーのクリスに向かった不満そうにつぶやいた。
「楽そうでいいじゃないか。量が多いだけでそんなに強力なのはいないんだろ」
「その量がすごいんだと。マテリア使って一掃してえな」
 画面には建設途中の施設への影響を考慮し、回復・補助以外のマテリアの装備・使用を禁止すると記述されていた。
「ちょっとでかいイナゴ退治みたいなもんか。まあ副隊長に抜擢されたんだし、頑張ってこいや」
 討伐隊に選ばれていないクリスは楽しそうにヒラヒラと手を振った。

 どうせなら血沸き肉踊る強力なモンスター退治の方が気合いも入るというものだ。
 ザックスはたまたま執務室にやって来た1stのカーティス――同行メンバーの隊長に愚痴った。
「今回お前には一般兵を指揮する立場を任すことになった。ただ戦っていればいいというわけではないからな」
 ソルジャーになってからは単独でこなすミッションが多く、同行する人間がいても大体が同じソルジャーだった。個々が強靭な肉体を有している為、生死を争うほどの事態にでもならない限りは互いを気遣う必要はあまりない。多少のケガなど物ともしない身体だから、負傷してもマテリアやポーションを持っていれば自分でどうとでも出来る。
 もちろん連携を取らないわけではないが、ソルジャー同士でやっていることを一般兵にやれと言って出来るわけもない。
 正直なところ面倒だった。普段のように好き放題暴れて戦果を上げるというわけにはいかない。場合によっては守ってやらねばならないかもしれない。
 カーティスは明らかに乗り気ではないザックスに近寄ると肩の上に手を乗せ、
「しっかりやれよ。期待されてるんだ」
 そう語りかけると執務室を出て行った。

「期待ったってなあ…」
 ザックスは先日ソルジャーとして激戦地ウータイにおいて優秀な働きをしたとして表彰された。上の人間への覚えは一気によくなったが更に戦果を上げようと意気込んでいたところで任されたのが今回のミッション。
 前回こなした作戦内容との落差に少々気が抜けてしまっており、この程度の内容で期待もなにもないだろうとザックスは独りごちた。



 * * *



「じゃあザックスくんの前途多難を祝してカンパーイ」
「カンパーイ」
 居酒屋の個室に男たちの大声が響く。乾杯の音頭が済むと、数人の男たちがビールジョッキをぐいぐいと飲み始めた。
「指揮官に選ばれるなんて大躍進じゃねーか」
 同僚に背中をバンバン叩かれ、ザックスは食べかけていた枝豆を一粒落とした。
「うれしかねー。こう、凶悪なモンスターが相手ならともかくさあ」
「贅沢言ってんじゃねーよ!いいよな、1st昇進間違いなしって言われてるヤツはさあ」
 別の同僚が口に含んでいたビールを吹きかけんばかりの勢いで捲くし立てる。
「まあでも気持ちわかるな。データ見たけどあそこに大量発生したモンスターなんてたかが知れてるしな」
「だろ?だろ?」
 ザックスは同じく討伐隊に選ばれた向かいの友人に同意を求める。
 その横でつまみを口に運んでいた同期の中でザックスと一番付き合いの長いカンセルが行儀悪く箸で差した。
「カーティスさんがお前を指名したらしいな」
「いや、知らねえけど」
「噂だと今回あの人に結構えげつない命令が下ったらしいけどな」
 そう言うとカンセルがぐいとジョッキを傾ける。
「何だよそれ」
 当然のごとく食いついたザックスはジョッキがテーブルに下りるのを待った。
「まあ…補助要員はどれだけ犠牲出しても構わないってな」
 つまりミッション遂行の為なら一般兵などいくらでも見殺しにして構わないということだ。そういう話を聞くのはやはり気分のいいものではない。
「…この程度のミッションでバカじゃねえか」
 ザックスは苛立ちを発散するようにジョッキを呷ると吐き捨てるように言った。
 一般兵の中にもソルジャーに対して反感を抱いている者もいるが、ほとんどは良好な関係を築いていた。上の人間の小競り合いを現場に持ち込むのはいい加減やめて欲しい。それが実際にミッションを遂行する人間の抱く素直な感情だ。

「おー、やだやだ。捨て駒扱いかよ」
「今更何言ってんだよ。オレらだって同じようなもんだろ」
「うちと治安維持って上があんまり仲良くないしな。責任のなすりつけ合いとかにならないといいけど」
 同僚の冷めた意見を聞き流しながらザックスは苦虫を噛み潰したような顔をする。
 神羅に所属してはいるが、やはりこういうやり方は好きになれない。ソルジャーへの憧れだけで入社したようなものだが、実際に中に入れば外側から見える偶像以外の目を覆いたくなるようなドス黒い部分が嫌でも見えてくる。それでも仕事を続けていられるのだから入社した当時よりは幾分大人になったということだろうか。
「で、お前を選んだんじゃないか?」
「あ?」
 突然の振りにザックスはカンセルを凝視する。
「お前ならそんな無茶なことしないだろうし。あの人もさせたくなかっただろうしな」
 そういうやつを選んだんだろと続けた。



 * * *



 後日、カーティス主導の元、同行のソルジャーを集めてミーティングが行われた。モンスター発生地点の詳細とミッション遂行の流れが液晶モニタに表示された地図を用いて説明された。
「今回治安維持部門から一般兵を動員する。発生したモンスターはそれほど強力ではないがお互いに犠牲者が出ないよう努めて欲しい」
 そしてカーティスはザックスに視線を向ける。
「一般兵の全面的指示は副隊長であるザックスに任せる。必要に応じて他の者も援護をしてくれ」
「了解」

 やる気の起こらない内容ではあるが、上の期待ではなくカーティスの期待に応えようとザックスの気持ちは切り替わった。

 このミッションで自身の今後を大きく揺さぶる人物と出会うことをザックスはまだ知らない。



material:フリー素材「Material-M」






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