仕事休みのある日。
ザックスは自宅に遊びに来たクラウドに出す菓子をキッチンで探していた。
「ここに入れたと思ったんだけどなー」
「別に見つからないならいいけど…」
「クラウドが好きそうなやつ売ってたからこの間買っといたんだよ。それにせっかく遊びに来てくれた子にはおやつ出さねえとさ」
「なにがおやつだよ!子供じゃないんだからいいよ!」
子供とバカにされるようなことを言われるとすぐこんな反応を返す。
ザックスは笑いをこらえながら戸棚から収納庫へ場所を移して中を点検し始めた。
すると何か見つけたのか、中を探り出した。
「あれ、こんなところにあったのか」
「あったの?」
リビングでそれを聞いていたクラウドはザックスの元へと歩み寄ってきた。
「いや、もらいもんの酒とか買っておいて飲み忘れてたのが結構あってさ」
「こんなに飲めるの?」
「まあ腐るようなもんじゃないからいいけど、大分スペース取っちまってるなあ」
ザックスは収納庫から何本か酒瓶を取り出してキッチンの天板の上に置いた。
産地の異なる酒のようで瓶の形や色もそれぞれにちがう。
「お、これニブルの酒だ」
「…これかなり強いやつじゃない?」
「上等。飲んでみたくなった。収納スペース空けたいし、今夜何本か開けようぜ」
「オレそんなに飲めないよ」
「ジュースとかで割ればいいじゃん」
あまり乗り気ではないクラウドを丸め込むとザックスはさっさとつまみの買出しへ行ってしまった。
* * *
夜になり、軽めの夕飯を終えて二人きりの飲み会が始まった。
二人が酒を酌み交わす機会はこれまでほとんどなかった。
ザックスは頻繁に飲みに行くが、クラウドはアルコールがさほど好きではなかったので二人で飲み屋に出かけることもない。
「考えてみたらクラウドの田舎ってさみいから酒で暖まるもんだろ。本当は酒強いんじゃないの?」
「オレは全然ダメだよ。母さんが漬けてくれた果実酒でもすぐ酔っちゃうし」
「ふーん。向こうの人はみんな酒豪のイメージあったけどちがうんだな」
飲み始めてまだわずかの時間しか経っていないが、ジュースで割った酒をちびちび飲んでいるクラウドの顔が早速赤らみだした。
「おおい、もう赤いぞ」
「だから弱いって言ったじゃん…」
大げさな驚き方にクラウドは口を尖らせた。
「一緒に飲みに行く連中みんな酒強いからさー。こんだけで真っ赤になっちゃうなんてかわいいな」
そう言いながらグラスを傾けるクラウドの頬を指で突っつく。
クラウドは苛立たしげにそれを振り払った。
「やめろよ!子ども扱いして」
その言葉に「かかった」というつぶやきが聞こえんばかりにザックスはにんまりと笑った。
「じゃあ大人なクラウド君と一緒にこれ飲むか」
そう言ってザックスはニブルヘイム産の酒に手を伸ばした。
「それ飲むの?」
「やっぱお前には度数高いかな〜?」
「す…少しくらいなら飲めるよ」
煽られ、負けず嫌いのクラウドに火がついた。
それを見越してザックスは栓を外す。
自分のグラスへなみなみと注ぎ、そのままクラウドのグラスにも注ぎ始めた。
「あ、でもこんなに飲めないって!」
「故郷の酒なんだからこれぐらい飲んでみろよ」
言われてクラウドは渋々グラスを手に取った。
ぷんと強いアルコールの匂いが立ち、顔をしかめる。
「大丈夫、ダウンしたらオレが手厚く介抱してやるから」
「だから心配なんじゃないか」
「どういう意味だよ…」
聞き捨てならないセリフだったが、気を取り直してザックスはくいとグラスに注いだ酒を飲む。
それが喉を通った瞬間、目を丸くした。
「…すげえ。うまいけどやべえなこれ」
「っうあ…なに、これ…」
酒を飲み慣れているザックスですら一瞬くらっとくる強さだ。
アルコールに強くないクラウドは目の前がスパークしたような感覚に襲われ、むせてしまった。
「おい、大丈夫か?」
「オレもうこれ飲みたくない…」
「うん。こりゃお前飲まない方がいいな」
結局クラウドは一口飲んだだけでギブアップしてしまった。
しかしたった一口。申し訳程度、故郷の酒に口をつけただけだというのにクラウドの顔はさらに火照りだす。
段々とふわふわ浮いているような感覚に襲われる。
ついにクラウドはテーブルに片肘をつきながら頭を抱えた。
ザックスは例の酒以外に収納庫から持って来た酒をカパカパと空けていく。
うわばみのような飲みっぷりだが当然酔いは回ってくる。
そこへ邪な発想が生まれた。
「な、ただ酒飲んでるだけじゃつまんねえだろ」
「はあ…?」
「暇つぶしにこれ見ようぜ」
ザックスがニヤリと笑いながら取り出したのはAVだった。
「なんでそんなの…」
「お前こういうのあんまり見ないじゃん。やっぱ社会勉強と思って見た方がいいと思うわけよ、人生の先輩としては」
「2コ上なだけで年上面するなよ!」
酔った勢い、そして売り言葉に買い言葉で上映会はスタートした。