同僚だろうかと思って開いたドアの先にいたのはザックスで。突然の訪問に驚いたクラウドは思わず後ずさりした。
「な、何でここに…」
「…っはぁ…メール、読んでねえの…?」
「え…」
息も絶え絶えのザックスに背を向け、開いたままベッドに置きっぱなしにしていた携帯を恐る恐る覗きこみ、ボタンを押す。
―――ザックスがオレのことを……好き…?
クラウドが後ろを振り返った瞬間、ザックスに抱き竦められた。
「あ…ザッ、クス…」
「すっげえうれしい」
ザックスは抱きしめている腕の力を強め、より一層身体を密着させると、愛しいと言わんばかりにクラウドの髪に頬ずりをした。
「…ウソだ。だってこんなの…」
じわっとクラウドの瞳に涙が浮かんで来る。つい数時間前まで嫌われただろうと涙を流していたのに、こんなことになるなんて。
「オレだって信じられねえよ。絶対嫌われたって思ったから」
今日のことを言ってるのだろう。クラウドは俯いていた顔を上げるとすでにメールで書いたことも忘れ、ザックスに弁明しようと口を開く。
「ちが、あの、オレ……」
ザックスに真っ直ぐ見つめ返され、クラウドは続きの言葉を告げることが出来なくなった。
「…なあ、キスしていい?」
「え…」
やぶから棒に言われてクラウドも何と返せばいいのかわからず固まってしまった。
「ごめん、したい」
そして返事を聞くことなくザックスは行動に移した。クラウドの後頭部を軽く押さえ、触れるだけの優しいキスを繰り返す。
「んっ、う…」
交際経験のないクラウドにとってこれが初めてのキスだった。どうすればいいのかわからず、ただされるがまま受け入れた。
角度を変え何度も唇を重ねながら、ザックスは震えるクラウドの細腰を掴んだ。唾液で滑った唇を割り開いて舌を差し入れようとしたが、突然のことに驚いたクラウドが思わずザックスの胸を押しのけた。その反動でクラウドは背後のベッドの上でぺたんと尻もちをつく。
「…あ、あの……」
そんなつもりじゃなかったと顔を真っ赤に染めて申し訳なさそうにうろたえる様が、ザックスの熱をますます煽り立てる。性急な動作でクラウドの身体をベッドに押し付けると、再び唇を奪った。
「んー!…ふぁっ…ん」
ザックスは怯えるように逃げる舌を絡め取り、その舌を味わった。互いの唾液が混ざり合う淫猥な水音が静まり返った室内に響く。初めてのそれに聴覚も犯され、クラウドの思考はザックスに支配された。
「…キスするの…初めて?」
焦点の定まらない目でどこか遠くを見ながらクラウドはコクリと頷いた。やっと解放された唇は紅く滑り、酸素を欲して艶めかしい動きを続ける。
「…あー…最後までしてえ…」
「さ、最後…?」
クラウドを下に組み敷きながら、何かを葛藤するようにザックスは頭を掻き毟る。
「このまましたいって言ったら…怒る?」
「…あの、するって何を…」
「いやそりゃ…セックス」
何を言い出すのかとクラウドは目を白黒させる。
「せっ…せっ……!?」
しまった。怒らせてしまっただろうか。それとも呆れただろうか。びくびくとクラウドの顔色を窺いながらザックスはつぶやく。
「そ、そんなに嫌…?」
「だ…って…お、男同士なのに…」
出来るわけないだろうと言いたげだった。
行為自体を拒否しているのではないと受け取ったザックスは、クラウドの脇に手をついて困ったような照れてるような表情を浮かべる顔を覗き込んだ。そして得意顔で言い放つ。
「男同士でも出来るんだぜ」
「え!?」
クラウドは大きく声を上げて驚く。そしてザックスはその反応を楽しむようにニヤリと笑った。
同年代の男子と比べて性的なことへの興味が薄いクラウドは男女間で行われる行為についても何となくこうだろう程度の知識しか持ち合わせていなかった。そしてそれは男女の間でだけ行われるものだと固く信じていた。
「あ、オレも実際にしたことはないんだけどさ…」
いつかこういう日が来るのではないかと色々調べていたらしい。幸い(?)、ミッドガルは田舎と違ってこの手の知識を得るには十分な環境だった。
「嫌になったら途中で止めるから…ダメ?」
「で、でも…」
どういう行為をするのか見当もつかず、クラウドは二の足を踏む。
「やっぱ嫌か…」
少し寂しそうな顔をするザックスにクラウドの心は揺れ動く。
つい先ほどまでは友達で…たった今恋人同士なったばかりだというのに、キスやその先の事に及んでいいものなのか。どういうことをするのかも大よそでしか見当がつかず、未知のことへの恐怖もあった。しかし思いを通じ合えたザックスの気持ちに応えたいという無垢の心がクラウドを動かした。
「…本当に、途中で止めてくれる?」
「あ…ああ。止める」
「じゃあいいよ…」
クラウドから肯定の言葉を受け取り、ザックスはパッと顔を輝かせる。そして早速とばかりにクラウドの制服の前を広げた。
「え!なんで」
「え?服着たまましたい?」
それはそれで燃えるけどと妙にうれしそうな顔をするザックスに何か変なことを言ってしまっただろうかと不安になる。
「オレはどっちでもいいけどさ…」
ザックスはクラウドの横に寝転がると、後ろから抱き締めた。
「こういうことするのも…初めてだよな?」
「うん…」
クラウドの初めてを奪える。ザックスの興奮も否応なく高まり、まるでまだ誰にも踏みしめられていない新雪を目の前にした子供のように胸が躍る。
背中にザックスの体温を感じながら、クラウドが次の行動を待っていると、耳に生暖かい感触が走った。
「ひっ…!」
ザックスは目の前の赤く染まった外耳を舌でゆっくりなぞると、今度はかぷりと噛んだ。そのまま耳を攻め立てるとクラウドは小さく声を上げて敏感に反応を返す。さらに胸元に手を這わせ、突起をきゅっと摘んだ。
「やぁ…何でそんなとこ…っ」
「気持ちよくない?」
そう言いながらザックスは胸から下腹部へ手をスライドさせるとクラウドの股間をまさぐった。布越しの緩い刺激にもクラウドはビクビクと身体を震わせる。
「制服汚しちまうから脱ごうな」
ザックスは片手で器用にベルトを外し、ズボンごと下着を腿までズリ下げた。小さく自己主張するクラウドのそれが外気に晒されながら震える。
「や…」
「ほら、勃ってる」
こんな状態になっているところを他人に見られたことなどなく、クラウドは羞恥から目を背けた。
「…下も金色なんだな…」
どこか興奮した声でつぶやきながらザックスはそこを注視する。
これまでブロンドの女性何人かと夜のお相手をしたことがあるが、全員そこは金色ではなかった。おそらくはカラーリングしていたのだろう。天然のブロンドを持つクラウドのアンダーヘアをまじまじと見つめながら撫でるように触った。
「バカぁっ…何やって…!」
クラウドは厭々と首を振りながら身体に巻きつくザックスの腕を抗議するように掴んだ。ザックスは掴まれた腕をそのまま勃ち上がっているそこに伸ばすと先端を人差し指でつんつんと軽く突っつく。
「やっん!」
他人にそこを触られた経験などないクラウドはそれだけで嬌声を上げる。
「かわいいな…もっと気持ちよくしてやるよ」
耳元で囁きながら手を上下に擦ってやると、クラウドは両手で口を押さえ、声を殺して快楽に耐えた。しかしそれを許すわけもなく、ザックスは空いている方の手でそれをどかした。
「声聞かせて」
「い、やだ…」
弱弱しく告げられた抗がいの言葉がザックスの加虐心を煽る。扱いていた指を使って先端を巧みに愛撫した。
「やあぁ!」
ザックスは望み通りの声を発する唇に口づけながら、下腹部を弄る手も休まず動かす。上も下も攻め立てられ、最早声を抑えることなど出来なくなっていた。
「んん…ふ、あぁ!」
限界が近くなり、クラウドは頭を振り乱しながら喘いだ。
「あ…っ!やめ、やめて…っ!」
「ん…じゃあやめよっか」
与えられていたものが急に止められ、クラウドは自覚もなしに物欲しそうな目でザックスを見つめた。
「あっ…なんで…」
「嫌なんだろ?」
あと少しで達するというところで中断され、燻った熱が下腹部から身体に甘い痺れをが走る。
どれだけ待ってもザックスは動かない。だが自ら慰めることも愛撫を求めることも理性が邪魔して叶わない。その間もザックスは添えられた手をそのままに、うなじや耳朶に緩い愛撫を与える。
クラウドは我慢出来ずに刺激を欲して震えるそこに添えられたままのザックスの手の上に自分のそれをそっと重ねた。
「ザックス…」
それがクラウドに出来る精一杯のお願いだった。
ザックスは真っ赤に染まった顔をこちらに向けさせると、唇を重ねながら添えられたクラウドの手を取り、直接自身を握らせた。そして自分の手を上から重ねて自慰を促すように上下に動かした。
「ん!ああ、もっ…!」
堪え切れずにクラウドは白い欲望を吐き出した。