sequel.2 カンセルくんと天使 #01





 その日、カンセルは本社で行われたミッションの報告会に参加していた。存外長引いてしまった為、午後から始まったそれが終わったのは外が暗くなり出した頃だった。
 その帰りにカンセルは正面エントランスで噂の天使に出くわした。

「君かわいいなあ」
「なあ、オレたちと遊びに行かない?」
 エントランスで堂々と受付嬢をナンパとはザックスみたいな連中だ…そう思いながらカンセルはナンパ現場をチラ見しながら通り過ぎようとした。が、どうもナンパされてるのは受付嬢ではないようだ。

(あれ?あの子もしかして…)

 件の人物はエントランスのベンチに座っているところを一般兵の男たちに囲まれているようだ。
 ザックスとはまた違う跳ね方のツンツンしたブロンド。制服を着ていないし、社員証も付けていないということはおそらく外部の人間。
 あどけない顔で首をかしげているその子は、噂で聞いた"少年"にそっくりだった。
「ここで待ってろって言われたから」
「別にいいじゃん」
「一緒に八番街に行こうよ。いい店知ってるんだ」
「でも知らない人について行っちゃダメって言われたよ」
「大丈夫、変なことしないからさ〜」
 そう言いながら男たちの一人が少年の腕を無理やり引っ張ろうとしたその時。
「おい、お前ら何してんだ」
 カンセルは出口に向けた足を男たちの方へ向き直し、現場へと足を進めていた。
「は?邪魔すんな……あ、ソルジャー…」
 男たちの顔が一瞬引き攣る。クラス2ndの制服に身を包んだカンセルは神羅の人間であれば逆らうと厄介な相手だとすぐにわかる。
「お前らな…迂闊にその子に手出すとクラス1stのおっかないヤツから強烈なお叱りを食らうことになるぞ?悪いこと言わないからナンパなら他当たれ」
 そもそもその子は男だ…という一言は引っ込めておいた。
「げ…1stって…」
「し、失礼しましたっ」
 1stの名前を出した途端、男たちはエントランスから一目散に姿を消した。

 カンセルはふぅっと息を吐くとソルジャーの間では色々な意味で有名な少年――クラウドに声を掛けた。
「あー、大丈夫?」
「何ともないよ。ありがとう」
「君、ザックスの…一緒に暮らしてる子だろ」
「うん」
 ああ、やはりそうかとカンセルは得心した。噂ではよく聞いていたが、実物を見るのは初めてだった。というのもザックスが"オレの天使"と公言して憚らないクラウドを知り合いの前に連れ出すことをあまり好まない為、噂だけが先行してなかなかお目にかかる機会がないのだ。遠巻きに目撃した人間は幾らでもいるが、その姿を間近で見たことがあるのは数えるほどだ。
 カンセルもザックスと親しい付き合いをしていたが、ここ最近は自宅に招かれる機会もめっきり減ってしまった。その理由はこの目の前にいる少年にすっかりご執心になってしまったからだ。
 これまで女性と交際しても友達付き合いにここまで変化はなかったが、この少年が現れてからというもの、ザックスは早く帰れる時はとっとと自宅に帰ってしまうし、飲みに付き合うことも稀になった。
(この子に夢中なわけか…)
 確かに見た目は噂の通り天使のようにかわいいが、どうも浮世離れしてる印象を受ける。
 これまで付き合った女の子と何が違うんだ?そりゃ確かに性別は違うが…。

 カンセルがそんなことを考えていると後ろから聞き覚えのある、しかしどこか怒っているような声が聞こえて来た。
「おい…クラウドに何やってるんだ?」
「…お前ね。オレが誰かくらいわかれよ」
「あれ?なんだカンセルか」
 目の前の人物がカンセルだとわかると、ザックスは気の抜けた声で喋りながら頭を掻いた。
「おかえりザックス」
「おう、待たせたな。…おいカンセル、まさかお前オレのクラウドに手出す気だったんじゃ」
「アホか!オレはこの子がナンパされてたから助けてやったんだよ!」
「マジかよ…。悪かったな、助かったよ」
 助けた対象はどちらかといえば一般兵の連中だけどな…。
 この場に連中が居合わせたらどうなってたかと自分にすら一瞬凄んで見せたザックスにカンセルは空恐ろしくなった。
「そんなに心配なら本社に連れてくんなよ…」
「オレだって連れて来たくなかったけどしょうがねえだろ。案の定ちょっと目離した隙にナンパされちゃってるし」
 はーっとカンセルは大きくため息をついた。何だこの過保護ぶりは…。
「ま、用件はもう済ませたし、帰ろっか?」
「うん。家でごはん食べるの?」
「ああ、帰ったら作ってやるよ」
 クラウドの手を引いてザックスがエントランスを出ようとした時、クラウドが後ろを振り向いた。
「カンセルさんも一緒に食べよ」
「え?」
 ザックスとカンセルは同時に間の抜けた声を上げた。そしてこれまた同時に「なんで?」とクラウドに問うた。
「だってさっき助けてもらったから。いいでしょ?」
 そう言われてザックスが逆らえるわけがなかった。
「あー…カンセル来る?」
「え……ああ、うん」
「じゃあ一緒に行こ」
 言いながらクラウドは空いてる方の手でカンセルの手を引いた。それを目聡く見ていたザックスは真ん中になったクラウドを挟んでカンセルをじろりと睨む。
「あ。カンセル、こら」
「オレに言うなよ!?」

 なぜ「うん」と言ってしまったのだろうとカンセルは道すがら考えた。
 最近ザックスの自宅に邪魔してなかったというのもある。こいつの作る料理はつまみにしても何にしても美味い。料理を振舞うと誘われて幾度となく通ったこともある。つまり手料理が久しぶりに食べたくなったのだ。そしておそらくザックスが骨抜きにされた少年がどんな人間なのか知りたいと言う好奇心だろう。
 …それにしても触れられている手が"暖かい"。何だろう、この感覚は。
 カンセルは相変わらず自分の手を引く少年を興味深げに見やった。
「カンセル…変な気起こすなよ」
「てめえ、いい加減にしろ!」
 ザックスの自宅に着く道中ずっとこんな感じなのだからやってられない。カンセルはまた大きなため息をついた。





material:NOION






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