『Wedding night』


☆こちらは、表サイトの2周年話『The Wedding-island』より
続編、という形になっております。

* wedding night=英語で初夜のこと

1)

婚礼の夜 人々の喧噪は遠く 
ここへ向かう途中 聞こえていた花火の音も いつしか止んでいた
この空間には葉を揺らす風の音だけ聞こえて

出逢ってから 幾度となく抱き合い肌を重ねてきたけれど
今日 そして今夜は なんだか とても神聖な気持ち
そう 私 今夜 名実共に あのひとのもの

いつ抱き合っても やっぱりその日毎にドキドキするけど
今日はいつもよりも ずっと緊張してしまう
そして なんだか 厳粛な気持ち

扉の向こう はなれの部屋でふたりきり 
彼は抱き上げていた私をそっと腕から降ろした

「・・・」

瞳が出逢って
見つめ合って
自然と唇が・・引き寄せ合うように。
軽く重ねて 少し離れて睫毛が触れ合いそうな距離でお互いを見て
また 今度は深く 深く 唇を合わせ 舌を絡める

どんなに長くお互いの唇を求めあっても まだ足りない
でも またその先を知りたくなって いつしか唇はいちど離れて
ふたたび見つめ合ったとき きゅうう・・と私の胸が 一層ときめきだす
そう 今 ふたりきり
なんとなく気恥ずかしくなって 俯いて 彼の腕をそっとなでながら 訊ねてみた

「今日は・・なんだかとっても緊張するの・・先にシャワーを浴びてくれる?」
あの人は快く頷いて ゆったりとした足取りで ひとりバスルームへと消える

私はしばらくソファに腰掛けていたのだけど
あまりにも月明かりが蒼く美しくて 思わず月に会いたくなった

ソファから立ち上がり月明かり漏れる窓辺へ 私ひとり歩いていく 
足元が ふわふわしてる
「わぁ・・」

冴え冴えと 雲間にかかる 蒼い月
私 窓を開けようとしたのだけど その手を止めた
やっぱり ふたりきりのこの空間を閉じこめておきたかった
ドキドキと胸が高鳴り 震える手で 窓に触れ 空をもう一度見上げる

婚礼の夜 人々の喧噪は遠く 
この空間には葉を揺らす風の音だけ聞こえて
月を見上げて 今日の出来事に想いを馳せる

「ああ なんて素敵な日・・・」

やっぱり ダークの言うとおり 結婚式挙げて よかった。
素敵な日。一生、一生忘れない。

ふと 窓に添えた自分の手に視線が移る
ここへ来る前に あの人が言った言葉が思い出された

”健やかなるときも 病めるときも”

ーお互いを思いやる心があればいいー

これからふたりに何度ともなく訪れるであろう不安を
私は果たして乗り切れるのだろうか

窓に添えていた手を 思わず引き寄せ じっと見つめる
(なんて うすっぺらで 頼りない手なの・・・ )
情けない思いが 自分の心を浸食していく
そのとき。

ふわり

シャンプーの香りと温かい空気が私を包んだ
「あ・・」

振り返れば すぐ後ろにバスローブ姿の あの人
洗い髪も綺麗に乾かし いつもと変わらないその横顔
バスローブの胸元から 男の色気がこぼれ落ちる
(う・・)
いつ見ても 何度抱き合っても この眩暈は終わらない
あの人は私を後ろから包み込んで 私の小さな右手をその手にとった
そして 長い睫毛を伏せ ゆっくりと手の甲に口づけて

まるで私の手に魔法を掛けているような
唇が触れた場所から じんわりと温かい何かが伝わってくる

(なんだか 元気の出るおまじないみたい・・)

思わず 後から思えば子供みたいな発想をしていたら あの人が
そっと手から唇を離して 伏せていた瞳をあげて私の方を見た

「・・・ゆっくりシャワーでも浴びてきなさい お前の番だよ」

そう言うあの人の顔は とても柔和で
・・・たぶん 不思議な力を手に入れたあの人は
 私の不安をも見透かしていたのだろうけど・・・

 私も入れ替わりに シャワーを浴びに行く

髪飾りを外し結っていた髪を解き放つ 
ドレスも脱ぎ捨てて・・・思わず ほぅ と安堵のため息が出てしまった

そう 私は永遠にあのひとのもの

丹念に いつもよりも もっと一生懸命になってからだを磨く
まるで日にかざすように腕をシャワーの湯にかざしてみた
その腕を滑り落ちていく湯のしずくが いつもよりも違って見える
いつもより・・・清らかに 見えた

部屋に・・寝室に戻ると 月明かりとスタンドの柔らかい光の 少し暗い部屋
あの人はベッドに座っていた
(・・・)

一歩 一歩 あの人へ近づいていく。
ベッドにあがり膝立ちで座ると あのひと 座ったまま私を引き寄せ抱きしめて
私の胸に顔を埋めた
13も年上の人なのにそんな仕草がやけに幼く思えて 愛おしくなって
その金色の頭を両手で抱え抱きしめた
まるで私 聖母になったみたい・・・

「ランゼ。おまえは・・・私の奇跡だ」
「・・ダーク?」
「私がおまえのような娘に出会えるとは・・・」
胸に顔を埋めたまま呟くあの人を 私はいっそう強く抱きしめる
そのつぶやき。
私には 勿体ないくらい。
こんな 頼りない手の私なのに

「それに おまえがいなかったら私は今この世には居なかった よく出会えたものだと思う」
ああ この人も 今日のこの夜を 特別に思っているのね
だからきっと そんなつぶやきが零れるの

「私も よくあなたにめぐり会えたなぁって思うの・・
 誰の導きもないのに・・地図もないのに」
「地図?」
「え?おかしな表現かな・・」
失言しちゃったかな 
あの人は私の胸元から頭を離し 私を見上げる それは少し驚いた顔・・意外そうな顔?で
 
だって ふたり 不思議な扉で 国を越えて出逢ったの
それは私にも奇跡

「・・・あっ」
あなた 再び私に頭を寄せて・・いつのまにかはだけたバスローブ
こんどは赤子のように私の胸に吸い付いて
あの人は私の弱いところをいくつもいくつも知っている
たまらずに腰がくだけた私をあなた そっとベッドへ倒していく
バスローブの襟元からのぞく男らしい鎖骨にドキドキする私

指の一本一本 髪の毛一筋まで そう 私 永遠にあなたのもの
唇が触れていく場所から あなたの色に染まっていく気がしている
いつも恥ずかしくて 抱きつくのもどうしようか迷ってしまう私
でも 今日は迷わない
あなたの首筋に腕をまわして 愛してる って 囁くわ
だって今夜は 特別な 夜

少し開いた私の足の間に あの人は割って入ってくる
そっと あなた 私の両の膝をたてて
私の手に大きな手を重ねて 指を絡めて 

「・・・んっん!!」
深く 深くつながる
今日はいつもよりも ずっと ずっと深くつながってるような気がする
おかしいの 多分そんな気がするだけ 今日のこの夜だから
自分に言い聞かせようとして失敗する

つま先まで電流がかけのぼる
私 のけぞって 堕ちていくのがこわい 握る手に力がこもる
何も 何も考えられな・・・

「ランゼ・・・ランゼ・・」
あの人が吐息の間で私の名を呼ぶ声がする それだけでもう 私は満たされる
それ以上に あのひとは私を高波で浚っていく




つづく

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冬馬の棺桶へ

bg photo:Silverry Moon Light

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