わたしとおまえはルーマニアの月明かりの下で出逢い、惹かれあい、そして結ばれた。
人間と魔界人という異なる生き物であるわたしたちがそうなったのは、きっと運命だったのだと思う。
「運命」などという言葉を持ち出すと、「男の人なのに意外にロマンティストなのね」などと笑われてしまうかもしれないが。
それなら、「神の悪戯」でもいい。
どんな言葉を使ったとしても、マフィアであるわたしとただの学生にすぎなかったおまえ
―――本来なら接点を持つはずのない二人が出逢えた偶然は、奇跡だったとしか思えないから。
二人が初めて出逢った夜のことを思い出すと、鮮やかにあの時のおまえの姿が蘇る。
月明かりに照らされたおまえは、妖精と見紛うほど可憐だった。
初めて肌を重ねた夜に、愛らしく震えていた姿も、わたしは覚えている。
あの時は、まるで自分が、汚れない天使の羽根をもぎ取った罪人にでもなったかのような、奇妙な気分になったものだ。
それから今に至っても、おまえを壊してしまわないように、できるだけ激情を抑えて抱いてしうまうのは、その名残なのかもしれない。
……だが。
わたしはおまえと違って穢れた存在だ。おまえが思っているような紳士ではない。
おまえに怯えられたくはないから、なんとか激情を抑えてはいるが。
わたしは貪欲になってしまった。
今までは、誰かに渇きを覚えたことなど一度もなかったというのに。
二人で過ごした夜はまだ片手の指で足りてしまうほどで、おまえはその行為にいまだに緊張して、恥ずかしがっている。
だが……そんなおまえのために狂おしい衝動を抑えているせいか……夢を見ることがある。
……わたしたちがシーツの上で汗と吐息を激しく撒き散らしている夢を。
そして、そんな夢を見た翌日には、決まって思うのだ。
もっと強くおまえを抱きしめたいと。
もっと熱い吐息を聴かせてほしいと。
もっとおまえと夜を過ごしたいと。
“もっと、もっと―――”
そう願う、貪欲なわたしが、確かにいる。
でも、言わない。
こんなこと、まだおまえには言えない。
……まさか自分がこんなに慎重になってしまう日が来るなんて、思ってもみなかった。
“こんなわたしを知ったら、おまえはどう思うだろう―――”
■□■ 甘い毒薬 --- Side 2 Carlo --- ■□■
「ランゼ……?」
目があったのは、ほんの一瞬。
ランゼはすぐに俯いて、自らの躯を強く抱きしめ直した。
その小さな躯は、小刻みに震えているように見える。
異変を察知し、わたしはすぐに電話を切って彼女のもとへと駆け寄った。
「どうした?」
その華奢な肩に触れようとした瞬間、
「だっ、だめ…っ、触らないで……!」
ランゼが激しくかぶりを振ってそれを拒んだ。
その勢いに一瞬ひるんだが、その言葉を素直に受け入れてやる必要などない。
彼女の顎を掬うように上向かせると、今度は、
「ぁんっ……」
わたしの指が触れた瞬間、ランゼは切なげな吐息を漏らし、身を捩った。
「ランゼ、どうしたのだ」
「……カルロ様ぁ……」
熱に浮かされたような瞳を向けられ。
切迫したような、それでいて甘えたような声音で名を呼ばれ―――。
その媚態にゾクリと背中に戦慄が走り、思わず息を呑んだ。
今この目に映っているランゼを、どう形容すればいいのか。
明らかに火照りを抱えた躯と、薔薇色に染まった頬。
しどけなく開いた唇と、そこから吐き出される甘い吐息。
黒曜石を思わせる美しい瞳の奥底には熱く昏い情欲の焔が灯り、
時々何かに耐えるように眉をよせる仕種が恐ろしく悩ましげだ。
こんな彼女は初めて見る。
ベッドで乱れる時でさえ、淫らさよりも初々しさが際立ち、清らかさの失われることのない彼女が……
今は、全身から匂い立つような色香を発している。
それはまるで、躯から甘い蜜を発して蝶をおびき寄せようとする花のように。
これは……まさか。
「まさか」と思う一方で「それ以外考えられない」と冷静に判断を下す自分がいる。
ひとまずランゼをソファーに寝かせ、わたしはデスクに向かった。
今の彼女の様子は尋常ではない。だが、パーティーの最中も、終了後以降も、彼女には何の異常もなかった。
わたしが電話をしている間も、彼女はソファーに座って、おとなしくわたしを待っていたはずだ。
―――となれば。
デスクの上の小箱からチョコレートを1つ取り出し、上部を小さくかじる。
そして、できた穴から中の液体を自分の指へ流して絡めとり、ごく微量を舐めて……眉をひそめた。
疑念は確信へと変わったのだ。原因は間違いなくこれである、と。
「……まさか、あの堅物がこんな悪戯をしでかすとはな……」
脱力の溜息が零れた。
いや。忠義に燃え、妙なところで一本気なベンのことだ。悪戯などではなく、
本人はいたって大真面目なのかもしれないが。
それにしても。
「ランゼ自身をプレゼントに仕立てようとは」
しかも、特殊なオマケつきで。
チョコレートの中に薬を仕込んだあたり、ターゲットははなからランゼだったのだろう。
彼女から貰ったものならともかく、わたしが普段チョコレートなど口にしないということくらい、
ベンは熟知している。
甘い物に目がない彼女にわたしがそれを分け与えることも、計算に入れてのことだろう。
しかし……ここまでしてわたしに尽くそうとする心意気には、感謝するどころか、呆れるばかりだ。
チョコレートそのものには何の問題もない。曲者なのは中に入っている液体のほうだった。
心身の性的興奮を呼び起こし高める作用のある、非合法の薬―――いわゆる「媚薬」と呼ばれる代物。
中でもランゼが摂取したこの薬は、人体に有害な成分は含まれておらず、
後遺症や依存性の心配のない、きわめて安全なものだ。
(ベンが用意した以上、それに関しては心配していなかったが)
闇ルートでも滅多にお目にかかれない稀少品であり、ベンをもってしても、
これを入手するのは楽な仕事ではなかっただろう。
それでも。
余計なことだと思わずにはいられない。
薬に頼ってまで女と楽しみたいなどと思ったことはないし、今だって思っていない。
ましてや、相手がランゼなら、なおさらだ。
彼女に対してだけは、後ろ暗い振る舞いをしたくはない。
―――だが……。
今のランゼに少なからぬ興奮を覚えているのも、また事実だった。
ポーカーフェイスの下では、全身の血潮が熱い渦を巻き始めている。
心から愛する少女の中に、まだわたしの知らない部分が隠されていたのだと思い知らされたような……
複雑な気分でもあった。
ちらり、ランゼに目を向ける。
ソファーに横たわり唇を噛み締めて震えているのは、なけなしの理性を失うまいと必死なのだろう。
ぎりぎりのところで欲望を抑えようとするから、その分苦痛も感じているはずだ。
もっと快楽に慣れ親しんだ女であれば、薬に従順に、あっさり恥じらいを捨て、大胆になれるだろうに。
だが、ランゼは少女特有の潔癖さからか、欲望に忠実になることを恥ずべきことだと考えている節がある。
だから、抱きあう夜も、自ら相手を求めるようなことはしない……いや、出来ないのだ。
今、媚薬を飲まされてもまだ完全にタガが外れていないのは―――
薬の量が少なかったのか、それとも彼女の我慢強さゆえなのか。
どちらにせよ、この薬は数十分やそこらで効力を失う代物ではない。
つまり、ランゼの針のむしろ状態はしばらく続くことになる。
「……………」
少し逡巡して、今夜二度目の溜息をついた。
心は決まった。
たとえ薬のせいであっても、たとえランゼがそれを口にしなくても、
彼女がわたしを求めているのは痛いほど判っているから。
それに、彼女を感じて、わたしの心も躯も、妖しくざわめき始めているから。
それならば、互いのために、最善の解決策を取ればいい。
どのみち、こんなハプニングが起こらなくても、今夜は彼女を抱くつもりだったのだから、結果は同じだ。
「ベンも風変わりなプレゼントを押し付けてくれたものだが……まあいい」
せっかくの誕生日だ。たまには変わった趣向を楽しんでみるのも一興か。
そして―――自らを抱きしめて媚薬と戦っている少女を見下ろしながら、思う。
媚薬の魔力に打ち克ち、白い羽根を守り抜くのか。
それとも、媚薬の魔力に呑まれ、羽根を黒く染めるのか。
天使がでるか、小悪魔がでるか。
今夜、それをこの目で見届けるのも……悪くはない。
■□■
ランゼはソファーに横たわったまま。
甘い責め苦に耐えるように、欲望と理性の狭間で身悶えする姿は、想像以上の破壊力だった。
わたしの中にある理性という名の防波堤が、いとも容易く決壊しそうになり……ゴクリと喉が鳴る。
「……ランゼ」
耳元で囁き、柔らかな耳朶を甘噛みした。
それだけで、ランゼは大きく躯を震わせ、くぐもった声を漏らす。
触れ合った箇所から彼女の熱がわたしの躯にまで染み入ってくるようだった。
彼女は蕩けるような目でぼんやりとわたしを見上げたかと思うと、次の瞬間には、わたしの躯に縋りつき、
自ら性急な口付けを仕掛けてきた。
わたしの唇に自らのそれを押しあて、互いの感触を楽しむ暇もなく、唇を開いてわたしを誘う。
誘われるままに侵入したわたしは即座に小さな舌を捕らえ、彼女もまた、稚拙な動きでありながらも
情熱的に舌を絡ませて……口付けはさらに深くなっていく。
息をつく暇もない激しさに時々苦しげに眉根を寄せるが、それでも彼女は口付けをやめようとはしなかった。
互いが互いを貪り尽くそうとするような口付けに、このわたしらしくもなく
無我夢中といった感で酔いしれてしまう。
予想以上の反応だったのだ。いかに媚薬のせいだとはいえ、彼女からの口付けも、
これほど情熱的な様子も、全て初めてのことで……。
初めて「求められている」と実感できた。
そんなささやかなことが、わたしを揺さぶり、悦ばせている。
唇が離れると、銀色の名残が糸を引き、そして淡雪のように消えていく。
その様を焦点の合わぬ瞳で眺めていたランゼが、ちろりと濡れた唇を舐めた。
その何気ない動作が、そして赤い舌が、ひどく扇情的で……わたしの躯が甘く疼く。
「わたし、さっきから…変なの……。躯が熱くて…わたしが…わたしじゃないみたいなの……。
カルロ様…、すごく苦しいよ……。わたし、どうしたらいいの……!?」
悲痛な叫び。心と躯が、すでに限界まできてしまっているのだろう。
「楽になる方法を知りたいか?」
「どうすればいいの……っ!?」
今までひたすら優しくしてきた反動なのだろうか。焦れたような視線で問われると、
何故か尚更焦らしてみたい衝動に駆られ……。
その子供っぽさに自らを嗤いたくなる。
「心を素直に解放すればいい。そうすれば楽になれる」
「……素直……に?」
「そうだ。おまえは、わたしにどうしてほしい」
ランゼが息を呑むのが判った。
意地の悪い質問だと自分でも思う。
彼女の望むものなど、判りすぎるほどに判っているのだ。
だが、必死で縋る彼女を見ていたら、どうしても問いたくなった。
わたしに懇願する声を聴きたくなった。
そして、この目に焼き付けたいのだ、彼女がわたしに懇願する、その様を。
嗜虐的だとは思う。しかし、頭をもたげ始めた黒い衝動を押し止めることが出来ない。
今夜は勝手が違いすぎる。
「……わたし……は……」
ランゼはまだ決心がつかないようだ。
瞳は躊躇いで揺れ動いていた。
……さっきはあれほど情熱的な口付けを仕掛けてきたのに。
どうやら彼女にとっては、言葉でねだることのほうが恥ずかしいと見える。
それならば。
「きゃっ…、は…ん……っ」
ランゼの頬から首筋を滑り、鎖骨へ。そしてワンピースの上から胸の膨らみをなぞって通過し、
下腹部を目指して―――わたしは悪戯を開始した。
ゆっくりと、順番に、触れるか触れないかという微妙なタッチで人差し指を滑らせていく。
服の上からの緩慢な動きだが、それだけでも充分感じるらしい。
ランゼは白い喉を仰け反らせて反応を見せた。
だが、わたしの指が臍の下で止まった途端。
彼女が焦燥に駆られたようにわたしを睨みつけた。何も言わなくても、
「どうしてそこで止めるの? 触れてほしいのはそこから下なのに」と目が如実に訴えている。
その責めるような瞳がわたしをますます煽っていくのだと、本人は気づきもしないで。
「どうかしたのか?」
「……カルロ様の……意地悪ぅ……」
大きな瞳には涙を湛えて。悔しそうに。拗ねたように。
可愛らしさと淫靡さ。その魅力が危うい均衡でバランスを取りつづけて。
眩暈がしそうだった。
全身の血液が沸騰しそうなほどの……これほどの昂揚感は、初めて経験する。
初めて女を知った時でさえ、こんな気持ちにはならなかった。
いまだ揺れる彼女の瞳を見守りながら、わたしはさらにランゼを追い詰めていく。
「言葉にしなければ、わたしには判らない」
「だって…、恥ずかしい……もの。そんなの、言えないよぉ……」
この期に及んでも、ランゼはまだ口にしない。媚薬が効いているはずなのに大したものだ、
と妙な感心の仕方をしてしまう反面、呆れてしまう。
ランゼという娘は、普段は自分の感情に素直なくせに、妙なところで強情だ。
そういうところも愛しいのだが―――。
「素直じゃないな」
「あんっ……」
わたしは小さく笑って、ランゼのワンピースの中に手を忍ばせた。
ゆっくりと足を撫で上げていけば、それだけで彼女は身も世もなく全身を戦慄かせる。
もともと感度の良い彼女だが、今夜は格別だ。薬によって、神経が研ぎ澄まされているのだろう。
内股に淫らな湿り気を感じて、わたしの口の端に笑みが刻まれる。
下着の隙間からランゼの花園に指を忍ばせると、そこはすでに充分すぎるほど熱く潤い、
甘い蜜を惜しげもなく溢れさせている。
愛撫をほとんど施していない状態にもかかわらず、だ。
「もうこんなにして……。躯は素直なのに……」
揶揄するように言うと、ランゼは恥ずかしそうに目を伏せた。
「……いや、言わないで……!」
「言わないでもなにも」
その中心部につぷりと指を差し入れると、狭いそこは、侵入者を逃がすまいとするかのように締め付けてくれる。
「……熱烈な歓迎だな」
「やっ…、そんなこと……っ」
「言わないで」とでも続けたかったのだろうが、それを口にする前にわたしは彼女の中で指を蠢かせて、
それを封じ込めた。
「中はもっとすごいことになっているな。どんどん溢れてくる……」
「いやぁ……!」
言葉の一つ一つにも、ランゼは敏感すぎるほどの反応を示した。
いつものわたしなら、こんなふうに言葉で彼女を追い詰めていくような真似はしない。
今夜はむしろわたしのほうが媚薬の魔力に翻弄されているのかもしれない。
指を一本、さらにもう一本増やし、中で指を軽く折り曲げたり。強弱をつけて、ランゼを刺激しつづける。
中を掻き回し、指の抜き差しを繰り返し、卑猥な水音と彼女のすすり泣くような悲鳴を存分に耳で楽しむ。
「あ…ああっ……!」
躯を小さく痙攣させ、軽く達してしまったようだ。
ランゼが息も絶え絶えになり、ぐったりしたのを見届けると、ゆっくりとそこから指を引き抜き……。
「もういってしまったのか」
彼女に見せつけるようにして、ねっとりと蜜が絡んだ指を口に含んでみせた。
「……甘いな」
「あぁ……」
わたしのセリフにか、その光景にか。再び感じてしまったのであろう、ランゼが切なく躯を振るわせた。
涼しげな表情を取り繕ってはいるものの、わたしの熱も臨界点を超えてしまいそうなところまできている。
そろそろ頃合だと判断し、わたしは仕上げに取り掛かった。
「今夜はおまえも疲れているだろう。もう終わりにして……寝るか?」
わたし自身、このままランゼを眠らせることなど到底不可能なくせに―――心にもないことを口にした瞬間。
顔を火照てらせ余韻に浸っていた彼女が顔を上げ、呆然とした表情を浮かべ……
数秒後には、ぽろぽろと涙をこぼし、むずかるようにかぶりを振りつづけた。
「そんなのイヤ!」
「では、どうしたいのだ」
中途半端に快感を得たことによって、欲望という名の導火線に灯った火が、今まさに勢いを増したところだ。
指だけで、今のランゼが満足できるはずがない。
彼女は一呼吸置いてから、観念したように呟いた。
「……して、ほしい。指だけじゃ、イヤなの。わたしの中に…来て……」
今度は、わたしを見据えて、きっぱりと。
「カルロ様が、欲しいの」
「………いい子だ」
満足げに微笑んで、ランゼの瞼に唇を寄せた。そして、目尻に滲んだ涙を優しく掬い取る。
ずっと欲しかった言葉をようやく手に入れることが出来たことに、奇妙な達成感がわたしを満たしていく。
これほど焦らして、これほど意地の悪いことをしてまで。
俗に言う、「好きな女の子ほど苛めたくなる」という心境だったのだろうか。
いや……わたしはずっとそれが聞きたかったのだろう。きっと、媚薬のことなど関係なく、
初めて彼女を抱いた夜からずっと、彼女がわたしを求めてくれるのを望んでいたのだ。
彼女からは何も求めないつもりでいて、心の底では、求め、求められる、その実感が得たかったのだ。
「欲しい」など……彼女に出逢う前には、飽きるほどに聴かされてきたセリフだ。
同じ言葉なのに、唯一愛した女から発せられると、これほど甘美に耳に響くものなのか。
初めての発見に、わたしは至福を感じる。
「わたしをおまえにあげるよ。―――おまえだけに」
ランゼの唇に啄ばむような口付けを落とし、再びワンピースの中に手を伸ばした。
すっかり濡れそぼってもはや役目を果たしていない下着を、くるぶしまで引き下げる。
片方の足首にひっかかったまま……彼女もそれを取ろうとはしなかった。
わたしはファスナーを下ろし、自身を解き放つだけ。
逸る心に支配され、互いに服を脱ぐことすらせず、必要な部分だけを曝け出して―――。
ソファーに横たわっていたランゼの隣に座りなおし、一旦彼女の躯を持ち上げる。
自分と向かい合わせになるように抱き直すと、彼女の秘所へ昂ぶった自身を宛がい。
それに彼女が驚き目を瞠った瞬間、彼女の腰を真下に降ろし、一息に貫く。
「―――やあぁぁっ!」
予期せぬ衝撃に、ランゼの背中が弓なりに仰け反った。
とろとろに蕩けきっていたそこは、易々とわたしを呑み込んでいく。
しかし、そこは完全にわたしを咥え込むや否や、無遠慮なほどにわたしをぎゅうぎゅうと締めあげていく。
それはまるで、わたしを離したくないのだと言わんばかりの強さで。
うっかり気を抜いてしまえば、さしものわたしも早々に気をやってしまいそうなほどだった。
「……くっ」
目が眩み、額にじっとりと汗が滲んでくる。
わたしは早くも乱れそうになる呼吸を何とか宥めて、ランゼが包み込んでくれる快感を味わいながら、
彼女が落ち着くのを待った。
ようやくランゼの呼吸が少し安定してくると、彼女は、一向に動こうとしないわたしに焦れたような、
何か言いたげな視線を投げかけてきた。
それがわたしをますますたまらない気分にさせる。
「自分で動いてごらん」
「…………っ」
「この体勢では、わたしも動きにくいんだ」
わたしがそうしたくせに、と内心苦笑しながら。
「……だって、どうすればいいのか……判らないもの……」
「そう言えば、おまえが上になるのは初めてだったな」
そう。今まではずっと、わたしがランゼをシーツに沈めて愛してきた。
しかし、今夜は―――。
火照ったランゼの頬を両手で包み込み、甘く微笑みかける。
「ここに手をついて。おまえが感じるように、好きなように動けばいい」
「…………」
ランゼはしばらく躊躇していたが、最後には頷いて。
ゆっくりと腰を上下し始めた。
試行錯誤するかのように、角度を変え、深さを変え、緩急をつけ……。
律動と同時に吐き出される吐息も次第に甘さを増していき……、ワンピースの下に隠された、
二人が繋がった部分が奏でる淫らな旋律が、静かな部屋を満たしていった。
ゆらゆらと長い黒髪が揺れる姿は美しく、あまりに幻想的で。
淫らに揺れつづける彼女に、ただただ目を奪われることしか出来ない。
「……んん……っ………はぁっ…………」
途中で要領を得たのか、たどたどしかったランゼの動きは、いつしかリズミカルに、激しく大胆になっていった。
我を忘れたかのように、腰を動かし、快感を求めることに没頭して。
あの恥ずかしがり屋の彼女が、貪欲に、初めて自ら動いている。
いつもなら声が漏れるのを恥ずかしがって必死で口元を押さえる彼女が、今夜は奔放に、甲高い声をあげつづける。
ランゼを征服しているようで、ランゼに征服されているようで。
ランゼの快感が増すにつれて、わたしの快感も否が応でも高まっていき……
彼女の動きに合わせてわたしも下から彼女を突き上げ、思いのままに啼かせていく。
他の事など一切考えられない。
もう、目の前の愛しい人の姿しか目に映らない。
互いが互いに溺れきっている。
その事実だけがあればいい。
「あ…あ…! カルロ様……わたし、もう………!」
がくがくと震える指で、ランゼが狂おしくわたしの首に縋りついた。
わたしを締め付ける花園が収縮の兆しを見せ、わたしたちは共に昇りつめていく。
「あぁ……っ!!」
「くっ……!」
わたしが一際鋭く突き上げた時、二人の声が重なり……わたしたちは共に満たされた。
落花の風情でわたしの胸に崩れ落ちたランゼを静かに受け止め、包み込むように抱きしめる。
彼女は肩で息を付きながら、わたしの胸にしなだりかかって。
わたしは彼女の髪を梳きながら、静かに呼吸を整えて。
まだ躯を繋いだまま、わたしたちは甘すぎる余韻にその身を浸しつづけていた。
しばらくしてランゼの呼吸が落ち着いてくると、再びわたしの首に、細い腕が回されてくる。
彼女の顔を覗き込めば、恥ずかしそうに、しかし明らかに物欲しそうな目でわたしを見つめ返してくれる。
どうやら媚薬の効果はまだしばらくは続きそうだ。
今夜は散々ランゼから欲しい言葉をもらったのだから、
今度はわたしが彼女の欲しい言葉をあげなければなるまい。
「―――もう一度するか?」
悪戯っぽくわたしが囁くと……ランゼは恥ずかしそうにコクンと頷き、再びわたしの胸に顔を埋めた。
ランゼを抱き上げ、ベッドに向かう途中、ふと足を止め……デスクに残された箱を横目で見やる。
せっかくのベンの心遣いだが、今後、このチョコレートの出番はない。
わたしが真に欲しているのは、薬など関係なく、ランゼが心からわたしを求めることなのだから。
それには、これからゆっくりと彼女を開花させればいいだけのことだ。
わたし自身で丹精するからこそ、花が開いた時の歓びもまた大きいはず。
まあ……今夜は愉しませてもらったが……な。
腕の中にいるランゼは、存在そのものがわたしにとっての媚薬。
彼女にとってのわたしという存在も、そうであってほしいと願う。
互いの存在そのものが互いの媚薬でありさえすれば―――それでいい。
■END■
■□■ あとがき(という名の言い訳) ■□■
無駄に長くてすみません。内容がなくてすみません;
蘭世ちゃんにエッチな気分を赤裸々に語らせたかった。
カルロ様に言葉責めをさせたかった。
ただそれだけの話です;
カルロ様への誕生日プレゼントは、やはり蘭世ちゃんしかないと思いまして…。
でも、「ガンガン攻める蘭世ちゃん」というのがどうしてもイメージじゃなかったので、
薬の効果が中途半端になってしまいましたが…。
悠里様&目を通してくださった皆様。
お目汚し失礼致しました。どうぞアイボンで汚れた目を洗浄してください。
そしてありがとうございました。
素敵な企画に参加させてくださって感謝です。
最後に。
今回、悠里様の「パラレルトゥナイト」の設定を勝手にお借りいたしました。
悠里様、申し訳ございません〜;
◇悠里コメント◇(以下長いですご免なさい;)
ね、皆様vもう どれだけ私が興奮したかわかって下さいますよね?
例えるならば 極上のワインを飲んだ気分〜vvvv
つやつやの ぴかぴかvvv
ひさびさにつやつやの文章に出会えて そう言う意味でもワタシは興奮しているのですv
ああ もうこの企画やって良かったよぉー(力一杯叫ぶ)
萌様、本当にときめきデビューして下さってありがとう〜!!
>今回、悠里様の「パラレルトゥナイト」の設定を勝手にお借りいたしました。
もう、そんな、願ったり叶ったりでございます!!!!
しかも、拙宅のネタを使って頂けるなんて。『パラレル〜』が 皆様に
可愛がって頂けてるんだぁ とホントに喜んでおります〜
私ね、興奮すると どんどん感想が抽象的になっていくんですよ はは;
そこを敢えて(こらえて)判っていただけるように書いてみると(笑
各話の冒頭で語られる蘭世ちゃん、カルロ様それぞれのせつない胸の内も
ドラマチックで、そして ぐいぐい引き込まれますよねv
1と2のそれは対になっていて、それぞれに心に秘めていることが 実は
同じ様なことだった というのが 実に”運命の恋人” という感じがして
素敵ですよね・・!
二人の心の底での熱い想いは同じで でもそれが重なり合うには
まだまだ本当は時間のかかること・・・なのに。なのになのに〜 ふふふ
今回のキーワード”毒薬”の なんと美味しいことかv
素敵なお膳立てをしてくれたベンちゃんといいましょうか萌様に
グレイト〜〜!と叫んでる私v
なお恥じらって でもカルロ様の誘導で(♪)
熱い思いを口走る蘭世ちゃんに萌えて そして
その様子を愛でているカルロ様にも すごーく そそられますっっっvv
ああ、皆様もご一緒に地下の掲示板でこの熱い思いを語ってみませんか!!
表も、そして裏も、それぞれに素敵な萌様ワールドを味わえて
嗚呼 シヤワセv
今回だけでなく、どうかこれからも・・なんて つい願ってみる管理人でした!
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