『a shower time』
5)
待ち望んでいた、瞬間。
「あぁああああっ!!」
熱を帯び、すっかり敏感になっている内襞をかき分けるようにしてそれは蘭世の蜜壺に
めり込んでいく。
(やぁっ・・お腹の中が カルロ様で いっぱいぃ・・・)
深い仲になってから数カ月経つが、未だに身体の中身が押しのけられていくような
少し恐れにも似た感覚が蘭世にやってくる。
(だめぇ・・今日はすっごく 入っているのが判っちゃうよぉ・・・)
泡の悪戯のせいで敏感になっている蜜壺は蘭世の全身により強い刺激をもたらす。
(身体全体が あそこに なったみたいぃぃ・・・)
そしてそこはカルロをきつくきつく、締めつけるのだ。
「・・・」
寄り添っているカルロは、そんな蘭世の淫らな気持ちも読めてしまっていた。
クスッ、と笑みを浮かべるとカルロは蘭世をさらに引き寄せその身体を繋げたまま・・
再び湯の中に身を沈めた。
カルロは苦しさと快感との間で揺れる表情を見せる蘭世の横顔を少しサディスティックな
心地で愉しみながら、身体をつなげたまま後ろから両胸を弄び首筋に舌を這わせる。
「カルロ・・さまぁ・・」「ダークだ」
「ん・・ダー・・・ク・・・」
カルロは奥まで突き進んだまま、動かない。
身じろぎに合わせて蘭世の内襞とカルロのそれとが擦り合わされる程度だ。
「ん・・ふぅう・・んんっ・・・」
中に入ってなおじらされているようで、蘭世は思わず身悶え・・
無意識のうちに、誘い込むように収縮してカルロのそれをさらに
ひくん、ひくんと締め付ける。
(くっ・・・)
さすがのカルロも、その敏感な彼女の反応に浚われそうになり
努めて冷静であろうと試みている・・・
(あつ・・い・・・また湯あたり しちゃう・・・!)
蘭世の吐息が焼け付くようになった頃、カルロはちら・・と
バスタブの横にある銀色のコックに視線を走らせる。
それは意志を持っているかのように自らくくく・・と降り始める。
その途端、バスタブの底で湯が一方向へ流れる音がし始め・・
目の前の泡の位置が少しずつ下がり始めた。
やがて、湯はすべて落ち・・バスタブの中には流れ損ねた泡がふんわりと
底に敷き詰められるようにして残っている。
カルロはそれを認めると、いちど身体を離す。
「あああっ・・」
まだ燃え切らない炎が蘭世に名残惜しげな声を上げさせる。
カルロは含み笑いをし、蘭世を抱え泡の残るバスタブの底へ横たえた。
蘭世のいるところの泡が、横へ流れ溶け消える。
「ん・・」
右も左もバスタブの壁と溶け残る泡。
狭いところへ閉じこめられたような気分が、何故か蘭世の心を煽る。
「カルロさ・・・ううん。ダーク・・」
蘭世は不安になり、カルロに両腕をさしのべる。
湯も落ちて蘭世の明るい視界の中にカルロの逞しい裸体が、わずかに逆光だが
くっきりと見える。
(あぁ・・すごく 男っぽいよぉ・・・・)
「ランゼ。」
カルロは感動して恍惚となっている蘭世にも構わずその両足の間に割って入ると、
彼女に覆い被さり、蘭世の腰を抱えて再び身体を繋げる。
「あぁああああぁっ」
スタンダードな交わりだが、蘭世にはこれが一番安心できる体位だった。
「うんっ・・・うんっ ああぁんっ・・・」
カルロがゆっくりと奥へ突き入るたびに、蘭世から甘い声が漏れ零れる。
やがてカルロは繋がったまま半身を少し起こした。
(カルロ様・・・?)
ぼんやりとした蘭世の目にはカルロが一瞬悪戯っぽく笑ったような気がした。
次の瞬間、カルロは蘭世の片足を肩に引っかけるようにしてひょいと持ち上げる。
(えっ!?)
そしてもう片方の蘭世の足の上に軽く跨ると、今度は激しく挿送を始めるのだ。
「きゃあっ・・やあああんっ・・・!」
日本語では、松葉崩し という体位・・・。
蘭世は一層奥へ激しく突き立てられる感覚に翻弄される。
細い両手はすがる物を探してバスタブのすべらかな壁の上を空しく彷徨う。
狭いバスタブの中で逃げ場を無くされ、徹底的に追い詰められている様な
マゾヒスティックで淫靡な心地に覆い尽くされる。
「きゃあぁぁっ ぁぁぁぁっ!」
ひたすら体中の神経が交わるその箇所に向かってしまう。
半身を仰け反らせて泡の中で首を左右に振り、うねうねと濡れそぼって重くなった髪を
蘭世はさらに乱していく・・・。
「だめぇっ カルロさまぁっ 許してぇ・・っ!」
深く激しく交わった時から続いていた身体の奥の痙攣が、さらに一層激しくなる瞬間を迎える。
カルロを深く、深くくわえこんだまま、締め付けひくひくと胎内が波打つ。
泡の中で、蘭世の意識が遠のいていく・・・。
◇
(・・・ん・・・)
遠く、そして近く。
軽く、優しい水音がする。 柔らかな光が蘭世の瞼に映る。
そして、額を流れる温かいもの・・・
「あ。」
蘭世がぼんやりと目を開けると、優しげなカルロの翠の瞳と視線があった。
彼の右手にはシャワーヘッドが握られている。
気づくと、蘭世はシャワールームで座り込んだカルロの膝の上であった。
カルロはシャワーで蘭世の身体に残る泡を洗い流していたのだ。
蘭世の身体には情事の後のけだるさが残る。そして・・・
「ダーク・・・」
蘭世は大人しくカルロに身体を預け、彼の胸に頭を寄せている。
抱き合う前よりも、蘭世の表情もその仕草も どこか”女”を匂わせている・・・
カルロは満足げにその額に唇を寄せた。
「まだじっとしていていい・・・髪が泡だらけだ」
カルロの長い指が蘭世の髪の間を優しく動き、シャンプーを洗い流す要領で湯を通していく。
「ん・・・気持ちいい・・・・」
美容師のような器用さで、蘭世は思わずうっとりとまた瞳を閉じる。
(しあわせ・・・!)
小さな子供に帰ったような、そんな優しい心地。
(なんだか このまま 眠ってしまいたい・・・)
「さ、済んだ」
キュ・・とシャワーの湯を止める音が聞こえる。
カルロに声をかけられ、蘭世はそのまどろみの中を惜しみつつ、ゆっくりと瞳を開く。
彼の優しげな瞳と、それを見上げるうっとりとした瞳。
二人の間で、先程の愛の営みが思い起こされ甘い感覚がそれぞれに甦ってくる。
お互いに目配せをして微笑みあう。それはまるで楽しい悪戯を共有した幼い子供のように・・・。
視線が熱く絡み合い・・・蘭世はカルロの肩に両手を伸ばす。
どちらからともなく、引き寄せ合うようにして唇が重なっていく・・・
二人は寄り添いながら並んでシャワールームを出た。
カルロがスッ・・と右手を挙げると棚の扉は開き、2着のバスローブが空を飛んでくる。
「まぁ・・!」
一つはカルロの手に、もう一つは蘭世の両手に収まる。お揃いのバスローブだ。
二人仲良くそれを羽織る。
そしてバスタオルでそれぞれに頭を拭き・・カルロはドライヤーを二つ取り出した。
こんなときのためにカルロ家のバスルームには予備はきちんとあるのだった。
「あっ待って!今度は私がやってあげたい!」
蘭世はカルロに駆け寄り、ドライヤーを一つ彼の手から受け取る。
「いいよ私は・・ランゼのほうが時間がかかるだろう?」
くす・・と笑いながらカルロがそう答えるが、蘭世は真っ直ぐな瞳でカルロを見上げる。
その表情はなにかしてあげたくてうずうずしているといったところ・・・。
「カルロ様の方が絶対先に乾くから、ほらっ」
苦笑しながらも、カルロはおとなしくスツールに腰を下ろす。
蘭世はいそいそとドライヤーのコンセントをセットし、スイッチを入れる。
ほどなくして特有の機械音と暖かい風が蘭世の手元から迸り始めた。
(・・・)
カルロは目を伏せ、髪に暖かい風を受ける。
自分でセットをする以外は、もう何年も美容師にしか髪をさわらせたことがない。
蘭世の小さな手の指先が見よう見まね・・と言った感じでカルロのその髪を梳きながら動いていく。
その触れていく指が、何故か何よりも心地よく思える。
技巧の上手下手は、関係ないのだ。
”人の・・家族のぬくもりとは まさにこんな感じではないだろうか・・・”
そんな想いがカルロの心に ランプのように暖かな茜色の灯火をともしていく・・・。
蘭世はブラシも取り出し、懸命にブローにも挑戦していた。
「はーい!できたわっ」
明るい声にハッ、と我に返りカルロは瞳を上げた。
目の前の鏡を見ると、蘭世も一緒に隣でそれを覗き込んでいる像が映っている。
「あれれ・・・?なんか ちがうよね?」
よく見るといつもと髪型が違うことに気が付く。前髪が全て前へ降りてどこか数年ほど
歳が若くなったようにも見える。
カルロは思わず自分のその姿に ぷっ、と吹き出す。
「やーんカルロ様っ、ごめんなさーい!」
くすくす笑いながらカルロは、慌てて彼の前髪をあれこれいじろうとする蘭世を見上げ、
その手をやんわりと押さえる。
「いいよ。このままで・・・こういうのも悪くない」
「でもぉ・・・」
弱り切った顔の蘭世の頬に、カルロは軽くキスをする。
「ありがとう。とても心地よかったよ」
「・・・」
「今度は私がランゼのをやろうか」
「きゃわーっ いいよぅ 自分でやります〜。カルロ様は外で休んでて〜!!」
「遠慮しないでくれ・・・それとも私の手では不安か?」
「そんなことはないけど・・」
「では交代だ」
まだカルロの前髪が気になる蘭世だが、カルロの方は本当に今はこれで構わないと思っている。
形よりも、心なのだ。
自分がうまくできなかった手前、カルロにやってもらうなんて図々しいかも・・
と思っていたのだが促されておずおずと、いままでカルロが座っていたスツールに
今度は蘭世がちょこんと腰を下ろす。
「さて・・」
カルロが両手に櫛とドライヤーを持った。
(やっぱり・・・;)
カルロは何をさせても上手だ。
美容院に行った直後のように、蘭世の髪はいつもの3割り増しくらいにつややかに仕上がったのだった。
「カルロ様って、何でも器用に出来ちゃうのね・・・」
そう言いながら蘭世はドレッサーに前屈みになって頬杖をつく。
視線はカルロの前髪をちらちらと見て・・ふうっ とため息を付く。
「どうした?」
「私、カルロ様の前髪綺麗にセットできなくて ごめんね・・・」
「練習すればいい・・・また私の髪を乾かしてくれないか」
カルロはまた蘭世に髪に触れて欲しいと思っている。
「たぶんすぐにはうまくできないだろうから、ベンさんにおこられちゃう」
「何故ベンが怒る?」
「”ダーク様の麗しい髪型を乱す輩は許せません” って 言われそう〜」
ここでまたカルロは吹き出してしまった。
くっくっく・・と笑うカルロ。そして蘭世もつられて笑ってしまう。
そしてカルロは笑顔のまま告げる。
「いいんだ、良いんだ蘭世。・・・私はお前に触れて貰うのがとても心地いいんだ、
ベンなど言わせておけばいい。是非また練習してくれないか?」
蘭世は顔を赤くして、それに応える。
「うん・・・うん!」
もっとも、蘭世が上達するまでは、カルロが後からそっと微調整をするに違いないのだが・・・
◇
やがてカルロと蘭世はバスルームから部屋へ戻った。
喉がカラカラに渇いていた二人。
カルロがミネラルウォーターの小瓶を冷蔵庫から取り出し蘭世に手渡した。
蘭世はそれをカルロが用意したグラスに移す前に瓶に口をつけてこくこくこく・・・・と
一気に飲み干したのだった。
「あ〜生き返ったああああ」
蘭世は屈託のない笑顔。カルロはそれを満足げに眺めながら自らもミネラルウォーターで乾きを癒す。
空になった瓶をカウンターの上に置きながら、蘭世はにこやかに彼へと振り向く。
「ありがとう、カルロ様」
「・・・ランゼ、ダークだ」
「えと、あのっ・・ごめんなさい か・・いえ ダーク・・」
カルロは笑顔だが腕組みをして首を傾げ ふうっと息を吐く。
また悪戯心を抱くカルロは蘭世をひょいと抱き上げた。
目覚めた直後は上等の声で私の名を呼んだのに。
素に戻るとすぐにこれ(”カルロ様”)だ。
「自然に私の名を呼べるようになるまでお仕置きだな」
「ええっ?!カル・・じゃないダークっ、どういうこと?!」
「こういうことだ」
寝室のドアがパタン、と開き、蘭世を抱えたカルロが中へ入ると
自動ドアよろしくそれは自然に閉じた。
ドアの向こうで蘭世が”きゃっ”という声をあげている。
どうやらベッドへ(軽く)投げ出されたようだ。
まだまだ、甘い夜は 続いていく・・・。
了。