『another・・・2』


☆こちらは、表サイトのカウプレ『Another・・・』より
さらにリクエストを頂いて作った物です。
続編、という形になっております。



0)

カルロは蘭世を抱きかかえたまま、屋敷のはなれへと歩いていく。
大きな屋敷から渡り廊下でつながっているその部屋へと、彼は向かう。
廊下の最奥、木で出来た古くて重そうな、そして豪奢な飾りが一面に彫られた両開きの扉の前で
彼は立ち止まる。
その扉に彼が さっ と視線を流すと・・何故か勝手に扉の番をしていたかんぬきの鍵が外れ、
しかも扉が重々しい音をたてながら自ら両側へと開いていくのだ。
「えっ!?」
当然、蘭世はおどろきあわてふためく。
(自動ドア・・!?)
それは・・カルロの超能力のなせる技であった。
扉の向こうで ランプの灯りが次々と灯っていくのを確認して彼は中へと踏み込む。
蘭世を抱き上げたカルロの背中が橙色の淡い光の色に染まったとき、
重厚な扉は再び重々しい音を立てながらゆっくりと閉じられていった。
ぴったりと閉まった扉からは、彼の足音さえも漏れ聞こえることはない。
それは彼女の平凡で単調な日常の終わりであり、長く甘い宴の始まりでもあった。

「もう・・・帰しはしない・・・」








1)




カルロはろうそくの明かり灯る廊下を 蘭世を抱きかかえたまま歩いていく。
はなれと呼ぶには いささか大きな建物らしく 廊下がまっすぐに闇へ向かって伸びていた。
(どこへ いくの・・・?)

蘭世はカルロの腕の中で 不安を少しずつ募らせていく。
人を疑うことを知らぬ娘は 叫んで逃げることなど思いもよらず
今はただ 薄い暗闇の中では自分を抱えるこの人物だけが頼り・・・
不安を消し去ろうと 無意識に心は動き カルロの肩に添えた指にきゅ・・と
力がこもる。
それにカルロは気づき ふ・・と笑みを漏らすと蘭世の額に再び口づけを落とした。
だが その口づけも 蘭世の心のさざ波をうち消すことは 出来なかった。

やがて カルロは廊下の途中で立ち止まる。
それは・・・ドアの前。
カルロはそのドアノブに手も触れずに 扉を開け・・中に入った。

入った途端に柔らかな茜色の照明がほんのり灯る。
茜色に映し出されたその部屋は。
はなれといえど掃除が行き届き、まるでリゾートにあるホテルのスイートルームの
ように 美しい調度品がしつらえてある部屋であった。

カルロはそっと蘭世を腕から降ろし そばにあったソファに座らせた。
そして窓辺へ行き カーテンを開けていく。
「あ・・・」
(綺麗・・・!)
そのはなれは崖にせり出しているようで 窓からは 一面に夜景が見える。

入り口の暗く重厚な様相から一変して ムーディともいえるほの明るい内装に
蘭世は少し落ち着きを取り戻す。
だが・・完全にくつろいでいるわけでもなく ぴん と背を伸ばして
やはり無意識のうちにカルロの動きを目で追っていた。

カルロは優雅な手つきで3つ揃えの上着をさらりと脱ぐ・・
その姿にも 蘭世はどきどきと胸を高鳴らせる。

カルロの動き ひとつひとつが 気になって仕方がない。
(この人は・・これから どうするつもりなのかしら・・・)
純粋な蘭世の心は カルロの事が計りきれず やはり不安で心を震わせる。


まわりから じわじわと 追い詰められていく小鳥であることに
  まだ 彼女は 気づいていない・・・


「飲んでみるかい?」
「いいえ・・・」

カルロにワインを勧められたが、緊張している蘭世はとても飲もう、という気にはなれない。
しかも まだ蘭世はお酒の類を口にしたことがなかった。

カルロは少し思案を巡らせると ガラス戸棚の隣にある保冷庫から
小振りの細い瓶を取り出した。
コルクの栓がしてあるところから察するに ワインらしい。
その栓を傍らに置いてあった珍しい道具でいとも簡単に抜き去り、
カルロは片手でグラスにその瓶を傾けた。
飴色がかった 透明な液体がグラスに注がれる。

「これならば甘くて ランゼの口にも合うと思う」

そう言ってカルロは 銀色の円いトレイに載せてそれを蘭世の元へ運んできた。
それは・・ ドイツの白、アイスワイン。

「ありがとうございます・・」
蘭世は促されるままにそのグラスを手に取り おそるおそる口に含む。

「ほんとに 甘くて おいしい・・・!」
上等な、葡萄で作ったソフトドリンクかと思えなくもない。
だが、それ以上に濃厚なとろりとした甘みと香りが口の中に広がっていく。

カルロの方は 蘭世に合わせてこのときばかりは白だがフランス産のワインを選び 
それを手にし 優雅に立っていた。

(おいしい・・・)
蘭世はもう一口、もう一口と口にその白ワインを運ぶ。
そしてそれは ほんのりと 頬が色づくほどに 酔い心地を連れてくる。

(ん・・・)
その甘みは まるで・・・
(甘い甘い キスの味・・)
不意に蘭世はこの部屋に来る前に交わした口づけのことを思い出し なお顔を赤らめる。

蘭世の表情がわかりやすいのか それともカルロが心を読めるのか・・・
カルロはふっ、と笑みを零すと自らのグラスをテーブルに置き 蘭世の元へ歩み寄る。
「カルロ様・・・」
酔いも手伝いほんのり赤らむ頬。そして潤んだ瞳で蘭世は近づいてきた男を見上げる。
蘭世の手からグラスを受け取ると、カルロはそれを目の前のテーブルへ そっと置き
スッ・・と蘭世の横へ腰掛ける。
(う・・・)
突然縮まった距離に 蘭世は慌てる。
自分の鼓動がカルロにまで聞こえているような気がする。

「あのっ・・」
横へ30センチ離れようと身体を少し浮かせる仕草をするよりも早く
カルロはその腕の中に小さな肩を納めていた。
(・・・・!)
緊張の極限。蘭世の胸が痛いくらいにきゅうう・・・と音を立てる。
はっとし、思わず見上げた彼の顔は・・・蘭世が予想していた 微笑みの顔 ではなく
もっと 鋭い そして妖しい程に”美しい” ものであった。
長い睫毛の奥から自分を見つめる翠色の瞳。
(あぁ・・)
すいこまれそう・・・目が 離れ・・ない。

”素敵な人だけど なんだか・・・こわ・・い・・”
蘭世の”恐れ”の正体は いったい何であるかは そのときの蘭世には
まだ判らなかった。

距離が縮まるに連れ二人の間の影が濃くなり・・
再び 蘭世の唇はゆっくりと彼のものになっていった。



つづく

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冬馬の棺桶へ

bg photo:Silverry Moon Light

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